第1192話 キメラという存在
ガチャン!!
また鎖がはじけ飛びレアキメラの自由度が高くなった。
「いけ、イチロー!! ジロー!! サブロー!!」
コリンヌさんの号令で元キメラの三匹が飛びかかった。
GAOOOON!!
爪と体当たりで三匹は吹っ飛ばされた。
ライ一郎の前足が砕けた。
ヤギ次郎の角がもげた。
ヘビ三郎は半分ちぎれた。
『ハイヒール』
エリアヒールで三匹まとめて治療した。
三匹はよろよろと立ち上がる。
障壁を改めてかけ直す。
強い強い、これは強いな。
拘束しているチェーンはあと二本、無敵のチェーン君がこんなにもちぎられた事は無い。
カーチス兄ちゃんが爪でやられた。
やべえ! と思ったらホウズで受けていた。
障壁をかけ直すが、紙みたいにぶち破るなあ。
イルッカ先輩が体重を乗せた槍を打ち込む。
どーん!
「ささらねえっ!!」
彼は吹っ飛ばされてゴロゴロと転がった。
普通の槍では貫通も無理か。
スーザン先輩が炎の槍を何発も何発も打ち込むが避けられる。
顔色が悪い。
「マジックポーションを飲んで」
私の声掛けにスーザン先輩がうなずく。
《いくぞ主よ》
(そうか、行くのかヒューイ)
《強敵、わくわくする》
あまり正面に立ちたく無いが、そう言ってもいられない。
子狐丸でヘビかヤギの頭を落とさないと。
乱戦になっている。
障壁で何とか致命傷だけは避けられているが、それだけだ。
こちらの攻撃が何も通って無い。
ベロナ先輩が尻尾ヘビに向けて二発目の斬撃を撃つ。
すれすれで避けてレアキメラは全身に力を込める、筋肉が膨れ上がり、バチンと鎖が一本弾けた。
残りは一本。
自由度は相当高くなっている。
ライオンの口が開き、火炎がベロナ先輩を襲う。
「わあっ!」
障壁が火炎を食い止める。
《負けるか!》
ヒューイが口を大きく開けてブレスを吐いた。
ゴオオオオオ!!
レアキメラのタテガミが焼ける。
そのまま踏み込んですれ違いざまに、尻尾ヘビを、斬る。
サク!
くそっ、浅い!
切断には至らなかったが切れ目が付いて尻尾ヘビはぐたりと垂れ下がる。
ドーン!!
レアキメラがヒューイに体当たりしてきた。
ヒューイは踏ん張って持ちこたえる。
ライオンと目が合った。
――なんだよ、面白がってるのかよ、余裕だな。
ヒューイパンチ、レアキメラパンチの応酬。
バガッ! と良いのを貰ってヒューイが後ろに押された。
《やったなあっ》
ヒューイ、頭に血が上ってんぞっ。
バチン! 最後の鎖が弾けてレアキメラは完全に自由を取り戻し、ベロナ先輩に飛びかかって押し倒した。
「くそっ!」
ベロナ先輩がレアキメラにのしかかられて逃げられない。
「魔法が撃てない!!」
「ベロナさまっ!!」
これは負けかなあ。
観客席では、リンダさんとジャンがニマニマしながら立ち上がっている。
ブルーノも、ローゼも、ハイノ爺さんも、クヌートも、ミリヤムさんも立ち上がっている。
そりゃ全員で掛かれば倒せるけどさあ。
「マコト! ホウズを使え!!」
ホウズを使えば勝てるかもしれないけどさあ。
ベロナ先輩にエクストラヒールを掛けながら撤退かな、これは。
というか、レアキメラはがぶっといかないな、何してるんだ?
『ベロナさまは弱いなあ』
……。
レアキメラが喋った~~!!
「ボルヘ! ボルヘなのかっ!! レアキメラの中に居るのかっ!!」
『俺は中の一人なんですよ、今、前に出して貰いました』
「倒せば、こいつを倒せば、お前を生きかえらせる事ができるのかっ!!」
『出来ません、レアキメラと一緒に死にます』
「あー、ボルヘ、やっぱり中にいたんだ~~」
『というか、なんでコリンヌも群体になってんだよ』
「いやあ、なんか改造されたんだ~」
なんだこの状況。
キメラって喰った奴と融合できるのか。
そういう魔物なのか。
群体として生きる魔物なのかね。
『聖女さんの力を借りても、ベロナさまが弱すぎます、食べる価値も無いそうです』
「ボルヘ!! 俺はお前の為に、お前の敵討ちがしたくてっ、それでそれでっ」
『資格がまだねえんですよ、ベロナさま。他の豪傑の人の力を借りれば俺達は殺せますが、そんなのあんたには何の価値も無いでしょう』
「俺は、俺は~~!!」
ベロナ先輩は泣いた。
レアキメラは立ち上がり、ベロナ先輩の上からどいた。
『俺はこの迷宮で群体として生きていきます、深い階層で冒険をします、とてもわくわくしていますよ』
「ボルヘ!! 帰ってこい!!」
『もっと強くなって下さい、また戦いましょう』
レアキメラは踵を返し背中を見せた。
もう何の興味も無いという返事であった。
《くそう、勝ち逃げか》
ヒューイも負けず嫌いだな。
レアキメラの雰囲気が変わった。
ああ、これは目があった奴に変わったな。
奴は私を見た。
ちょっと肩をすくめ、彼は微かに笑ったような気がした。
ああ、ありがとうな。
これで、ベロナ先輩達も立ち上がって進めると思うよ。
レアキメラは小さなコウモリの羽を広げ縦穴に向かって飛びこんだ。
背中の銀色の毛並みが光球を反射してきらめいていた。
……終わったなあ。
いやいや強かった強かった。
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