第1191話 『銀の王』との戦闘が始まる
抜け穴の階段を降りて行く。
なんだか、壁とかがペカーっと光って明るい。
ビアンカ邸基地の地下通路の雰囲気に似ているなあ。
接触の解錠パネルもここにある物を真似して作った物っぽいな。
ビアンカ様案件だな、これ。
二年生の実習の時はコリンナちゃんを連れて隅々まで探検したい所である。
見た事も無い壁のマークで、昨日入ってきた二十階の通路と解った。
先史魔導文明の数字かもね。
通路を歩いて、突き当たりのドアをジャンが開けると、そこはグランデの滝の近くであった。
「こいつは楽でやんすな」
「魔物と戦わないで青道四階から二十階まで下りられるとは」
ベロナ先輩がブルッと武者震いをした。
少し上がるとグランデの滝の展望台であった。
ここらへんは結構広いから決闘に良いね。
巨大魚が跳んでこないぐらいには川から遠い。
ベロナパーティは準備運動を始めた。
コリンヌカルテットは動きがシンクロしてるのが面白い。
カロルはスカートからジャリジャリと鎖を落とし、チェーン君を展開させた。
適当に明日来てって約束したが、レアキメラは来るかな?
特に時間指定もしなかったが、迷宮の魔物に時間を計るすべも無いからね。
観戦する暇人たちはレジャーシートを広げ、そこに座り込んだ。
薄暗いので頭上に大型の光球を打ち上げた。
うん、明るい。
サーチ!
カアアアアアン!
お、いるいる、滝の下か。
バサバサと音がして、縦穴を垂直にレアキメラが飛んで上がって来た。
あの小さい羽で飛べるんだ。
「こいつは……」
「すげえっ」
リンダさんとジャンが感嘆の声を上げて立ち上がりかけた。
「ベロナ隊の獲物だよ、リンダさんもジャンも手を出さないで」
「あーもったいない」
「ここまでとは……」
オガ太郎が憧れの目でレアキメラを見た。
「ああ、『銀の王』でしたか、我が主のシモベとなるにふさわしい」
「地の底の王者ですなあ、噂には聞いた事があります」
迷宮の魔物の有名人だったのか。
そりゃあ、あれだけの格だからね。
ベロナ先輩の肩が震えている。
祈るように聖剣フロッティを抱えている。
「挑め!! ベロナ先輩!! 格上と戦ってこその冒険者だ!!」
ベロナ先輩の肩の震えが止まった。
「ああ、そうだ、行くぞ、イルッカ! スーザン! コリンヌ! キンボールさん、オルブライトさん、ブロウライト卿も協力を頼む!」
「あ、ああっ」
「ええ、ボルヘの仇を討つわっ」
「イチロー、ジロー、サブロー、レアキメラの人達を討つよ!」
人達? ってなんだ?
『オプチカルアナライズ』
ピッ。
うん、偽キメラじゃなくて、ちゃんと一体化した立派なキメラだ。
凄い造形美だなあ。
キメラは自然に進化した動物では無いと言われている。
先史魔導文明の超魔導力によって合成されて生み出された魔物らしい。
六つの目、三つの脳、一つの体で有機的に戦う。
そのキメラの王、レアキメラが今、崖の上に降り立った。
GAOOOOOON!!
びりびりと体が震えるような咆吼を放つ。
さあ、始めよう。
レアくんっ。
初手は全員の前に追随する障壁を張る。
観客席の前も張っておこう。
溶解液が飛んだら大変だし。
ダダンと地を蹴ってレアキメラが突進してきた。
チェーン君が前進して受け止める。
ガッシン!!
チェーン君が後ろにずりっと押されたが、何とか突進を止めた。
「いくぞーっ!!」
ベロナ先輩がフロッティを振り、斬撃をヘビの尻尾に向けて飛ばした。
うん、最初から全開が正しい。
KAKAKAKAKAKA!!
ヤギ頭が嗤って雷術をベロナ先輩に放つ。
斬撃は腰をひねって巧みに避けた。
ライオンの頭はチェーン君に噛みつく。
ジャリン!!
「カロル、噛みちぎられる!」
「大丈夫、鎖は二本になっても鎖」
ジャリンジャリンジャリン!
チェーン君がほどけていき鎖になってレアキメラに絡みつく。
岩と岩にも絡みつき、十重二十重に拘束する。
「ありがてえっ!」
イルッカ先輩が前にでて、槍で突く。
スーザン先輩が火炎で出来た槍を飛ばす。
「私たちも行っくよーっ!!」
コリンヌさん、ライ一郎、ヤギ次郎、ヘビ三郎も駆け出した。
GAOOOON!!
レアキメラはチェーン君を解こうと暴れまくる。
雷の魔法がイルッカ先輩の障壁に当たり対消滅する。
即座に障壁を張り直す。
ヘビの尻尾から溶解液が飛ぶ、が、酸では障壁は溶けない。
今の所良い感じに動けているな。
チェーン君の封じ込めが素晴らしい。
ああ、ああ、私もビーム魔法があればなあ。
「くっ、力が強いわ……」
バキャリと鎖が弾けて切れる。
レアキメラは自由になった前足で近寄って来たベロナ先輩を殴ろうとする。
先輩は盾で受け止めようとした。
バリン!
ドギャン!!
障壁が砕けて勢いを殺してなお、ベロナ先輩の盾に深い爪痕を残し、彼を吹き飛ばした。
GAOOOOOOON!!
咆吼を発する。
もの凄い吠え声だ。
お腹の底の方がビリビリと震える。
「おおおおっ!!」
カーチス兄ちゃんがホウズを叩きつけるようにヤギ頭目がけて振る。
するりと避けられた。
まだチェーン君が絡みついているというのに、なんて敏捷力か。
「強い」
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