第1187話 船に戻ってベロナパーティと打ち合わせ
ホカホカになってガドラガ鉱泉を出ると、カーチス兄ちゃんが先に出ていてヒューイと和んでいた。
「お、やっと出たか」
《まったぞ》
似たような事を言うのでつい笑ってしまった。
「おまたせ」
三人と一匹で歩き出す。
もう一匹は私の懐の中だ。
暖かい。
雲が押し寄せて来て民家の屋根を越え、霧になってのたうちながら生き物のように動いていく。
雨音が強いね。
でもこういう静かな雰囲気のガドラガも好きだな。
山の上という感じがする。
アーケードを歩いていると、荷物を背負った歩荷さんたちが上がって来るのが見えた。
麓から大変だよな。
私の姿を見ると、若い冒険者の彼らは笑って手を振ってくれた。
ガドラガの街門をくぐり、障壁回廊の中を行く。
ここは屋根を高く作ったからヒューイも一緒に歩けるね。
彼は雨でびしょびしょだが気にならないらしい。
「蒼穹の覇者号の方で休むのか?」
「いや、明日のレアキメラ戦の打ち合わせをベロナ先輩たちとするよ」
「俺も話を聞こう」
『我をマコトが持てば、キメラなんぞは一太刀であるぞ』
「一太刀は無いだろうけど、まあ、倒せなくはないね」
『小僧にフロッティを持たせても、奴らだけでは到底かなうまい』
「私とか、カーチスとか、ヒルダさんとか、カロルが前に出て戦うのは違うと思うんだ」
全員で泥臭く戦えば、レアキメラは倒せる。
けど、それは聖女マコトさまの武勇伝が増えるだけで、ベロナ隊の手柄にはならないんだよね。
「彼らが戦って、敵わなければどうするんですの?」
「その時は……、諦めて貰う。レアキメラを倒す資格が無かったって事だから」
「そうね、それが正しいかもしれないわね。ベロナパーティは学生としては強いし、大陸一かもしれないけど、ジャンさんとかプロの冒険者に比べるとまだまだ未熟よね」
「そうだな、俺もリンダ隊で、リンダ師と、ジャンを見て解った、俺なんかぜんぜんひよっこだってさ」
カーチス兄ちゃんは猪武者っぽい印象だが、意外に実力の自己判断はシビアだ。
ピッカリン一族ではないからね。
私たちがいくら強いと言っても高等生なんだよな。
船の出入り口に着いた。
ヒューイの鞍をダルシーと一緒に外すと、彼は勝手に船の後部ハッチから入っていった。
「ヒューイ号はお利口さんですわね」
「助かっているよ」
皆で一緒に黄金の暁号へと乗り込んだ。
こっちの船は学生がうろうろしていて独特の雰囲気があるね。
「あ、マコトちゃん、マメちゃんマメちゃん」
「今日もご活躍だったらしい」
「死んだはずの人を悪漢から助け出したって聞いたよ、偉いよ」
ラクロス三勇士先輩にとっ捕まった。
ニコニコしながらマメちゃんをなで回すので何か怒れないのよね。
人徳と言うべきか。
「今回はマコトちゃんとダルシーちゃんと一緒で楽しかったよ、秋の実習も一緒に来ようよ」
「嫌ですよ、実習しても単位に成らないですし」
「学校側も頭が固いよねえ、単位付けてあげればいいのにさあ」
「良い冒険僧侶さんを紹介してくれてありがたかった。また頼むんだ」
「気に入られたら幸いですね」
ヤニクさんも、学園とのコネが出来たんで、またどこかに呼ばれるでしょう。
冒険者というのは信頼が無いから、一度実績を作ると大きいんだよね。
ちなみに女盗賊さんは、綺麗でおっぱいが大きい人が生徒たちに人気だな。
ラクロス三勇士先輩と別れて中央ホールへと歩いた。
この時間はホールにテーブルを出して、喫茶サービスをしているらしい、晩ご飯になると席の取り合いで大変らしいな。
「あ、ご主人様、こっちだよ~~」
コリンヌさんが伸び上がって手を振ってきた。
というか、彼女の周りだけ、洞窟ライオンと、魔導ヤギと、アシッドバイパーが居るので怪しい空間になっているな。
というか、ライ一郎はでかいので邪魔だな。
ヘビ三郎はコリンヌさんのマフラーみたいになってるし。
「お待たせしました」
「あ、お風呂入ってきた? いいなあ、良い匂い」
コリンヌさん、匂いを嗅ぐのはやめてよ。
私たちは、テーブルに着いた。
「コリンヌさんにお話は聞けましたか」
「聞いたよ、ボルヘの奴もどっかで生きて無いのか?」
「教会の地下には人間が入った培養槽は無かったなあ」
「人をキメラに合体させるとは、魔族め許さんぞ」
「教会なのに、酷い事をするわよね」
面目ない事だ。
総本山がやったからと言っても言い訳にはならないなあ。
「キンボールさんがレアキメラと約束をしてくれたそうだね、ありがとう」
「いや、人語わかりそうだったからね、ダメ元でおねがいしてみたんだよ」
「そうか、うん、僥倖だ。我々ベロナ隊はレアキメラを討ってボルヘの敵を討つ、必ずだ」
「聖女さんが手伝ってくれるんだ、なんとかなると思うぜ」
コリンヌさんが表情を曇らせて、なんともならんと思うよと考えている感じだが、まあ、戦ってみないとね。
レアキメラが見かけ倒しな可能性も微粒子レベルで存在しなくもないわけではないので。
「私は、障壁で、ライオンからの火炎、ヘビからの溶解液、魔導ヤギからの雷魔法攻撃を防ぐわ、大怪我をしても治してあげる、即死しなければだいたい何とかなるわよ」
「ありがたいっ」
イルッカ先輩が満面の笑みを浮かべた。
「聖剣フロッティは奴を傷つけられるだろうか」
「当たれば切れるわよ、なんとか早めにヘビの尻尾を切り落とし、魔導ヤギの頭を殺し、ライオン部分を倒したら、勝ちよ」
「私のチェーンゴーレムが前衛でタンクをやりますよ」
「俺と、ベロナ様は遊撃、スーザンは後衛で魔法攻撃だな」
「火炎槍を飛ばします」
「私は、イチローが前にでて、ジロー、サブローは後ろで攻撃、私も氷結槍で戦うわ」
「なんとかなりそうかな」
「「ならないわ」」
おっと、コリンヌさんとハモってしまった。
「え、だって、元のベロナパーティよりも戦力が相当アップしてるぜ?」
「ただのキメラだったらなんとかなるかもですが、相手はレアキメラです。サイズ比でいうと、ドラゴンと同じぐらいの強敵ですよ」
「そんなにかい」
「高位悪魔とか~、迷宮深層の魔物とかと、強さは同じぐらいだよ、ベロナさま、甘く見てはだめだめ」
ベロナ先輩の表情が引き締まった。
「そうか、もしもの時は、キンボールさんが討ち取ってくれるのかい?」
「私はレアキメラと因縁は無いから討ち取らないわよ」
「だが、同じ学園の生徒に犠牲が……」
「崖から落ちて五階下に行って、たまたまそこに深部にいるような魔物が居た、というだけの事故ですから」
「そ、そうなのか……、事故、だったのか」
迷宮内で強い魔物が弱い人間を食べるのは悪ではなくて、普通の事だからね。
何か罪があるとしたら、ベロナパーティが弱かったのが罪なのだ。
迷宮は人間のルールで動いてはいない、ジャングルの掟のような弱肉強食の世界なんだから。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。
 




