第117話 王宮でアットホーム晩餐を食べるのだ
「それでは即開戦とは行かないのか、ジェラルド卿」
「今、ポッティンジャー公爵家派閥から貴族たちが逃げ出している最中です。最終的には勢力は半減いたしましょう。今回は良い材料が手に入りましたので、それからでも遅くは無いかと」
ケビン王子が目を泳がせた。
「勢力が少なくなれば、ポッティンジャー公爵家もおとなしくなるかもしれない」
「はっ、あの強欲なドナルドがですか? 兄上は甘すぎる」
「それでも、内戦よりは、ずっとましだよ、ロイド」
そりゃあ、どの勢力でも内戦は避けたいけどさあ。
「ケビン王子、ビビアン様の言動にお変わりはありませんか?」
「それは……、特に変わらないね、キンボールさん」
グレイブを失えば、側近は鶏デボラだけになるのか。
暗闘じゃなくて、校内の嫌がらせが増えそうだなあ。
まあ、嫌がらせは別に人が死んだりはしないからあまり問題ないね。
「とりあえず、グレイブはグラーク塔に送り、洗いざらい吐かせる。諜報暗闘によって、ポッティンジャー公爵家の勢力を削る、という感じだな」
王様が話をまとめた。
まあ、聖女派閥に否やも応もないよね。
「それでは食事にしようか、マコト嬢も食べていくだろう?」
「いただきます、王様」
王様に食事に誘われるなんて、初めてだね。
みんなで廊下に出て歩く。
ちょっ、ロイドちゃんはすぐ手をつなごうとすんなっ。
振り払うと何が嬉しいのかロイドちゃんは二へへと笑う。
「ロイド」
「はい、お父様」
「女の子を落とす時は、継続が命ぞ」
「はいっ」
いや、叱れやあっ、王様っ!
というか、あんたの血ですね、ロイドちゃんがチャラいのは。
「マコト嬢はロイドに嫁ぐ気は無いのかね」
「ロイド王子は婚約者がいらっしゃるじゃありませんか」
「うむ……、ジュリエット嬢だが……、侯爵家という事で婚約を交わしたのだが、どうも彼女は精神が不安定でな。王家に嫁ぐ者はマコト嬢のようにキモが太くないといかん」
「僕は婚約破棄したいんだけどね。どうだい、マコトっち、王家に嫁げるよ」
「あはは、考えておきますよ、ロイド王子」
王様とロイド王子が噴き出した。
「な、なんですか」
「いや、有名なおばあさまの逸話を思い出してね」
「魔王を倒した後、戦場にも行かなかった第一王子がマリアさまに求婚したときに『考えておきます』と返事したら、次の日、第一王子が結婚の準備を一切合切整えて白い馬車でマリアさまを迎えに来たという逸話があったんだ」
「ええと、マリアさまと結婚して王位を継いだのは第三王子ですよね。どうしたんですかマリア様は?」
「謎のビームで結婚式の全てを焼き払ったんだよ」
「おばあさまは素敵だ」
なにやってんだろうか、マリアさまは。
ちなみに、その頃の第一王子が立てたのがアップルビー公爵家だ。
ゆりゆり先輩は第一王子の血を引いているのだなあ。
大きめのダイニングルームに王妃さまがいらっしゃった。
執事さんの案内で、みなが席に付く。
「あらまあ、マコトさま、大きくなられましたわね」
「王妃さまはお変わりなく、お懐かしい事です」
「もう手を上げて発言はしないのね」
「あの時はまだ、マナーが解っていませんでしたので、お恥ずかしい」
「良いのよ、物怖じしないあなたが好ましかったわ」
王妃さまはお上品に笑われた。
「さて、晩餐にしようではないか、日々の恵みを女神に感謝します」
「「「「「日々の恵みを女神に感謝します」」」」
これが異世界のいただきますなのであるよ。
王宮のお食事は美味しいけど、そんなに豪華では無いね。
普通の食事だな。
うんうん、こういうので良いんだよ。
外国のお客様と晩餐会とかすると、超ゴージャスなお食事がでるから、普段はこういう料理なのかもしれないね。
でも、王族みんなで食事を取るのだなあ。
アットホームなロイヤルファミリーであるよ。
これも農村出身のマリアさまからの伝統かな。
貴族の人たちは、結構個食の人が多い。
朝も、昼も、夜も、家族が顔を合わせず、それぞれに食べる家が多いそうだ。
キンボール家では、何か事情が無い限りみんな一緒に取りますけどね。
カロルも、時々朝ご飯に食堂へ来るとはいえ、基本的にアンヌさんとだけ食べているのだろうなあ。
いかんぞー、一人で食べても美味しくないし。
第一寂しい。
これも何とかしたいものだね。
とはいえ、錬金室に、カロルー、晩ご飯食べさせてーって行くのも図々しいしなあ。
うーむ。
などと考えて居たら晩餐は終わった。
美味しかったなあ。
「マコトさま、王宮と学園は近いのですから、ちょくちょくいらっしゃましな」
「はい、王妃さま、時々寄らせてもらいますね」
まあ、多分めったに来ないけどさ。
ちなみに王立魔法学園なので、王宮と学園はすぐそこの距離である。
王族だけが使う、王宮門というのがあって、王子さんたちはそこから通学しておる。
「どうだろうか、マコトっち、これから僕の部屋でボードゲームでもしないか」
「今日は疲れたので寮にかえりますよ。また誘ってくださいね」
ロイドちゃんのお誘いをやんわり断って私はダイニングルームを後にした。
侍従長っぽい人が裏口まで案内してくれた。
「馬車をお出ししますよ」
「すぐそこじゃないですか、歩いて帰りますよ」
木々の影から寮の灯りが見えているぐらい近いのだ。
「ですが、お一人では不用心ですよ」
「ダルシー」
「はい、マコトさま」
私の横にダルシーが現れた。
「戦闘メイドがおりますので、ご心配なく、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、キンボールさま」
侍従長らしい人と挨拶を交わして外へ。
ああ、夜風がちょっと冷たいね。
てくてくと歩くと、門があって、門番さんが出てきた。
「やあ、こんばんは、聖女候補の方ですね、どうぞ」
兵士が大きな門を開けてくれた。
頭を下げて門をくぐる。
ふう、学園に帰ってきたぞー。
コリンナちゃんとか心配してるだろうな。
早く205号室へ帰ろう。
205号室前に来ると、207号室前にナッツ先輩がいた。
「マコトちゃん」
「どうしました、先輩」
「ダルシーちゃんいるかなあ?」
「ダルシー」
「はい、なんでしょうか?」
ナッツ先輩はダルシーをがっちりつかんで部屋の中に引きずり込んだ。
なんぞ?
「わあ、ダルシーちゃん」
「いつもすぐ姿を消しちゃうから、あなたは」
「は、はい?」
ダルシーはラクロス三勇士にもみくちゃにされて、困惑の表情を浮かべている。
「はい、これ、何時も207号室をお掃除してくれてありがとう」
「ハンカチだから使ってね」
「みんなで買った感謝の気持ちなのよ」
「あ、そ、その、そんなものいただく訳には」
「私らさあ、がさつだからいっつも部屋が汚くてさあ、でもダルシーちゃんが来てから見違えるぐらい綺麗になって」
「マコトちゃんの諜報メイドの仕事も大変なのに、いつもお掃除ありがとうっ」
「感謝感謝です。部屋が綺麗になって、毎日楽しいです」
「は、はあ」
ダルシーがお掃除したおかげで、ラクロス三勇士が喜んでいたのか。
良い事したね。
「もらっておきなさい、ダルシー」
「は、はい」
そう言うとダルシーはハンカチを胸元で抱きしめるようにした。
「みなさん、こちらこそ、素敵な物をいただいてありがとうございます、とっても嬉しいです」
「なんのなんの、大丈夫よ」
「そんなに高くないし」
「ダルシーちゃんが喜んでくれたら、私たちもうれしいのよ」
はー、ラクロス三勇士先輩はいい人たちだなあ。
見ると、ダルシーの目がうるんでいた。
うんうん、良かったねダルシー。




