第1181話 美しいレアキメラ
私が大嫌いな奴に美しいハゲがいるのだが、あいつの美しさはなんだか表面的な安ピカ感があって好きじゃないのだ。
目の前のレアキメラはどっしりと重い感じの美しさだった。
機能美というかね。
銀色の毛並みにあふれる力感、堂々とした押し出しの強さ、魔物としての格の高さがはっきり解る。
――あー、テイムしてえっ。
日々この綺麗な魔物を愛でて暮らしたい。
そんな事を初めて考えるぐらいレアキメラは美しい。
レアキメラはぎゅっと体を丸め……。
つぎはぎキメラに襲いかかった。
ライ一郎が目に見えてほっとしている。
偽キメラたちに突進し、爪で一撃しライオンの頭を半分吹っ飛ばした。
「く、くそうっ!! 偽聖女の従魔かっ!!」
ベルモントが氷魔法を打ち込もうと手を上げて魔力を練り始めた瞬間、レアキメラは切り返し、奴に向けて突進した。
「く、くるなーっ!!『アイスジャ……』」
ライオンの口がグワッと開き、ベルモントの右腕をかみ砕く。
「ぎゃーっ!!」
汚い悲鳴をあげたベルモントは振り回され、投げ捨てられた。
床を転がり、段差で体を打ち付けた後にベルモントは弾んで水路の濁流に落ちた。
ザブン!
いかん、拘束しないと真相を白状させられないぞっ。
私は慌てて障壁でベルモントを包みすくい取ろうとした。
バリン。
「た、助けてくれ~~!!」
濁流の圧力で障壁棺は一瞬で砕け散り、ベルモントは流されて暗渠の中に消えていった。
レアキメラは再び切り返し、最後の偽キメラに体当たりをして吹き飛ばし、さらに追随して喉笛をかみ切ってとどめを刺した。
ホールはシンと沈黙した。
ただ、偽キメラのはらわたをむさぼるレアキメラの咀嚼音だけが響いている。
次は私たちか、倒せるか、こいつ?
コリンヌさんがブルブル震えながら私に抱きついているので動き難い。
障壁であの巨体を囲っても一瞬で砕かれる。
閃光で視界を奪うのは有効だろうが、狂乱して暴れまくられたら、ストライト隊かコリンヌさんに被害が出そうだ。
ちくしょう、聖剣が欲しいな。
レアキメラが捕食をやめてこちらに振り返った。
私と目があう。
静かな深い森みたいな濃い緑色の目だった。
ああ、綺麗だなあ、テイムしたいなあ。
「人語は解する?」
レアキメラは微かにうなずいた。
「君に仲間を殺されて復讐したいという奴が来ているんだ、明日、戦ってくれないかな」
少し逡巡した後、レアキメラは微かにうなずいた。
いや、私も本当はあんたをテイムしたいんだよ、でもベロナ先輩たちが先約だからさ。
悪いね。
「明日の昼、グランデの滝の上で戦おう」
レアキメラはうなずくとふり返り、助走をつけて跳び上がり壁を蹴りながら高度を上げて、明かり取りの水晶の天窓から出て行った。
ああ、くそう、あんな綺麗な魔物だとは思わなかったなあ。
あーーー、テイムしたかった。
「うおおおお、助かったーっ!!」
「ありがとう聖女!」
「聖女さまのおかげで助かりました~~!!」
「……」
喜び騒ぐストライト隊の中でケリーさんは焦点の合わない目でうつむいていた。
私はケリーさんの近くに行きしゃがんで目線を合わせた。
「教会のトラブルに巻き込んでしまってごめんなさい」
「ロデムちゃんが死んだの……、私を庇って死んでしまって……」
ケリーさんは子供のようにうわーっと泣いた。
「私みたいに生きかえらせられないんですか、ご主人様」
「そ、そうだそうだ」
「聖女、頼むよっ」
「あなたは脳だけでギリギリ生きていたから……、ロデムは死んでいたの、私はまだ、死んでしまった者を蘇生はできないのよ」
みんながっかりして肩を落とした。
「あ、コリンヌ、これ」
ジェルマンが上着を脱いで裸のコリンヌさんに渡した。
「ありがとう、ジェルマン」
同じ学年で冒険ガチ勢だったから面識があるのかな。
ライ一郎とヤギ次郎、ヘビ三郎がコリンヌさんの近くに来て身を寄せた。
魔力でパスを見たのだが、コリンヌさんとキメラ三兄弟の間にパスが繋がっていた。
一心同体だったからかな。
四体で一つのサークルのパスとなって、私と一本のパスで繋がっている。
なんか変なテイムの状態になってるな。
ロペスとパブロは額を床につけて土下座をしていた。
私が近づくと肩を振るわせた。
「聖女さまにおねがいがございます、この愚かな私に自刃をお許しくださいませ。兄弟パブロは小物ゆえ、我が命を持ってお許しください」
「ロペス殿!! わ、我々は本物の聖女さまとは思わなかったのです、お許しください、お許し下さい!」
私はロペスの肩にドガッと蹴りを入れた。
「お前が死んだら、誰が総本山やベルモントの陰謀の情報を喋るってんだ? 死んで楽になろうとか甘えてんじゃねえよ」
「は、ははっ、申し訳なく……」
「お前達はリンダ師にすべての情報を語れ。我々、大神殿は総本山の腐った所を全て切除する、全力で協力しろ」
「かしこまりました……」
「わかりましたっ」
私はロペスの前でしゃがみ込んだ。
「全部終わったら、ただの僧侶として市井でつまらない教会の仕事をしろ、民の笑顔のために出来る事をしろ。お前は二度と教会組織で偉くなることもなければ権力を得ることも無い、ただひたすら民衆の中で女神の慈愛を伝える事だけを考えて地味な仕事をしろ。損をし、侮られ、笑われ、惨めな思いをしろ。誰かの異端を糾弾するよりも、教会派閥を大きくするよりも、それは女神さまにとって大事な仕事だ、僧侶とはそういう仕事だ」
ロペスは肩を振るわせて泣いた。
「聖女さまのご慈愛、身にしみましてございます……。私は一生を民のため、一僧侶として市井に暮らす事を誓います、ありがとうございました」
「聖女さま……」
よしよし、二人とも良い坊主になりやがれだ。
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