第1178話 敵からの接触があったぞ
ダンジョン入り口でヤニクさんと合流してゲートをくぐる。
従魔のパスをたぐる。
リンダさん隊は現在、青道十五階、障壁の階段を使ったから潜るのが早い。
従魔部隊は……。
(なんで腰蓑なの、ゴブ蔵?)
《これはお恥ずかしい所を、服を着ていると目立つので作りました。荷物はポーポー殿の影空間に置いております》
ゴブ蔵もオガ太郎も洞窟魔物準拠の格好になっている。
どうやら、腰蓑に適した草があるようだ。
武器もどこで拾ったのか、棍棒や錆びた剣だ。
(冒険者に狩られないでね)
《何回か襲われましたが、無事逃げております》
彼らは青道三十階あたり、オーガたちに聞き込み中らしい。
《三十階台での抜け道目撃情報が多いですね。浅い階、中層、深い階に出入り口がありそうです。オガ太郎殿が昔にいた深層四十階台では目撃情報はありません》
なるほどなるほど。
《ペス殿の嗅覚で四階に居た匂いと同じ匂いを二十階台で見つけました、確度の高い出入り口です》
(ありがとう、助かるわ)
《では、のちほどグランデの滝の上で合流いたしましょう》
(わかったわ)
よし、従魔部隊優秀だね。
さて、私も負けていられないぞ。
ヒューイをトコトコ歩かせる。
カロルと一緒に乗って背中が温かい。
今日も相変わらずヒルダさんのアラクネ糸無双である。
ゴブリンも角兎もスライムも、スパスパ輪切りにしていくな。
青い扉を潜り、青道に侵入した。
特に難敵も居ないのでスタスタ進む。
ストライト隊が消えた四階の扉の前にさしかかる。
少し立ち止まって待ってみたが、誰も出てこないね。
ここでは無いか。
そのまま進んで五階まで降りる。
崖の上から渓谷を眺める。
『サーチ』
カアアアアアアアン!
広域サーチをして見たが、人間は居ない。
魔物は何匹かあちこちで動いているな。
「どう?」
「居ないね」
これは手紙を誰かが船に持ってくるパターンか?
だとしたら、昨日の夜に届けられていると思うけど。
障壁階段を使って一気に十階まで降りる。
今日も地下の川は増水してドウドウと音を立てて濁流が流れている。
昨日掛けた障壁橋を渡る。
レアキメラをけしかけてくるか?
どうにも相手の出方が解らないな。
オークやヘルハウンドが現れて襲ってくるが、カーチスやヒルダさん、ベロナ隊に瞬殺される。
また障壁の階段を降りて十五階へ。
今日は巨大魚は攻めてこないようだ。
学習したかな。
河原近くの青道をゆっくりと進む。
展望台に着いた。
光球を撃ち出すと、雄大なグランテの滝が見える。
今日も盛大に水が落ちているなあ。
さて、オガ太郎達は?
《聖女さま、二十階の扉が開き、人間が現れました》
動いたか!
(影犬は戸の中に入れない?)
ペスから、戸口のオリハルコンに反応して姿が出てしまう、との返事が来た。
まったく、オリハルコンめっ。
影犬の利点が殺されているな。
「人がくる」
「そう」
「捕まえましょう」
「一人か?」
「一人みたい」
ゴブ蔵たちは物陰に隠れて人間を見ている。
視界を繋ぐ。
赤黒い僧侶装束、とんがり帽子。
総本山の異端審問官の格好だ。
ベルモントの部下か。
岩だらけの道を散歩をするように異端審問官は上がってくる。
片手に何かを持っている。
こちらに向けて放り投げた。
私たちの前で、それは転がって止まった。
ロデムの首だった。
「こんにちは、大神殿の偽聖女さん。私は総本山のロペスと申す異端審問官です、お見知りおきを」
ロペスはにっこりと笑った。
二十代後半、動きに武道の匂いがある。
金髪で好男子だが、顔に火傷の跡があった。
「何の用?」
「ご一緒に来て頂きたいのです」
カーチス兄ちゃんがホウズを抜いた。
ヒルダさんも構える。
カロルのスカートから大量の鎖が落ちてゴーレム体を取った。
「仲間が扉の前でこちらを見ております。私が死ねば、四人のご学友の首はこの豹と同じようになってガドラガの入り口に晒される事でしょう」
「それが僧侶のやる事かよっ!!」
カーチス兄ちゃんが吠えた。
「お許しください、これは信仰を守る為なのですよ」
「私が行ったら、ストライト隊の四人を解放するという保証は?」
「ありませんよ。我々は偽聖女という異端者に何の約束もいたしません」
「行かなかったら?」
「毎日一つずつご学友の首が晒されます。悲しいですね」
私はヒューイから下りた。
「話にならないわね」
「ええ、必要なのは大神殿の偽聖女が命惜しさにご学友を犠牲にしたという事実なのです」
ロペスはニヤニヤ笑っている。
「わかったわ、同行しましょう」
「……」
「どうしたの、それが目的でしょう?」
「が、学友の為に命を捨てると、そう言うのですか、なるほど聖女らしい決断ですね」
「聖女ですからね」
なんだ? 断るとばかり思っていたのに意表を突かれて困ってるのか?
「服を脱いでください。障壁の伝説遺物を使われるとやっかいですので」
「てめえっ!!」
カーチス兄ちゃんが激高した。
「やめてカーチス」
「だがっ!!」
私は戦闘聖女服を脱いだ。
シミーズと下着だけになる。
寒いな。
マメちゃんに命令して、カロルの元に走らせる。
「全裸になる?」
「そ、そこまでは必要ありません、収納袋や、魔剣を忍ばせて居なければ良いので」
「何動揺してるの、信仰の為なんでしょ、しっかりなさい」
「……」
ロペスはびっしりと汗をかき始めた。
意外に小心者なのか?
こちらがロデムの生首でびびって逃げ帰る所が見たかったのか?
学友を見殺しにした聖女候補というスキャンダルで大神殿の力を削ぐつもりだったか。
「こ、こちらにいらしてください」
私は黙ってロペスについて歩く。
「マコト!!」
カロルがヒューイの上で泣きそうな顔で私を呼んだ。
「かならず帰るから、大丈夫、ストライト隊も取り戻すから」
ロペスが振り返り、気持ちの悪い物を見るような目で私を見た。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。
 




