第1172話 船に戻って晩ご飯
さすがに高山の夜は寒いね。
息が白くなった。
ヒューイの上で身震いをした。
今は無理して、カロルとヒルダさんを乗せて三人乗りだ。
「寒いねえ」
「騎獣の上は体を動かさないからね」
「日が落ちるとぐっと気温が落ちますわね」
ふと思いついて自分の上半身を障壁で覆ってみる。
体ギリギリに凹凸を付けてね。
んで、熱を通さないように性質を変える。
おお、暖かい。
ポカポカするぞ。
アラクネ糸製の戦闘聖女服は装甲値は高そうだが保温性は無さそうだしな。
これは良いね。
問題はマメちゃんの熱も伝わってこない事だが、それはしかたが無いな。
上半身だけでもかなり良いね。
「カロルにもしてあげよう」
「なに?」
「障壁断熱」
カロルの制服の上に障壁胴丸を着せてあげる。
透過率百%だから見えないのが良いね。
「わ、暖かい、制服って意外に風が入って寒かったのよね」
「私にもしてくださいませ」
「はい、ヒルダさんも」
ちょうどキューちゃんがヒルダさんの頭にのっていたから良かった。
「これは、ようございますね。暖かいですわ」
「熱を外部に漏らさないようにしたから暖かいわね、暑くなったら言ってね、透過率を変えるわ」
「マコトは障壁の達人になっていくわね」
「障壁は前から使えてたんだけど、応用し始めたのは学園に入ってからね」
教会の曲がり道まで来た。
「それでは、私は失礼します。また明日、わが主よ」
「またね、オガ太郎」
「おやすみなさいませ」
私はヒューイの上からオガ太郎を見送った。
「なんだか、オガ太郎もゴブ蔵も良い人間になって面白いわね」
「知性が上がるんだろうねえ」
「街では、魔物なのに紳士と有名ですわよ」
オガ太郎はなんだか格好いいからな。
いかつい顔のイケメンであるのだ。
てってこ走らせて駐機場内に、蒼穹の覇者号の前でヒューイから降りて、ダルシーと一緒に鞍を外してあげる。
ヒューイはスタスタと後部貨物室の方に行きハッチが開いたら入った。
手間いらずだなあ。
「それでは領袖、カロリーヌさま、おやすみなさいませ」
「おやすみ~、また明日ね」
「おやすみなさい、ヒルダさま」
おっと、忘れずにヒルダさんの着ている障壁胴丸を解除した。
彼女はブルッと震えた。
「無いと寒いですわね、ではまた明日」
ヒルダさんはタラップを上がって黄金の暁号に入って行った。
私たちも蒼穹の覇者号にタラップを踏んで入る。
【お帰りなさい、マスター、副マスター】
「ただいまエイダさん」
「ただいま」
蒼穹の覇者号は私たちの動く家だから、ただいまで良いのだ。
「お食事の用意はできております」
「ありがとう、アンヌ」
「わあい、アンヌさん、ありがとうっ」
「いえいえ、もったい無い」
カロルと一緒にラウンジに行き、テーブルに座る。
今日のメニューは何かな。
なんだか香ばしい良い匂いが漂っているけど。
アンヌさんとダルシーが料理を運んで来た。
「本日のお献立は、チキンソテーとカブのスープ、コールスローサラダでございます」
おお、鳥のモモがどーんとお皿にのっているぞ。
これは美味しそう。
「いただきます」
「日々の粮を女神に感謝します」
ぱくり。
むふ~~、セイントンの街で買ってきた鶏だねえ。
脂がのっていて美味い美味い。
パンは丸パンのトーストで、上にチーズが乗ってとろけていた。
美味しいなあ。
カブのスープもほのかな苦みで良い味わいだね。
サラダもシャキシャキで美味いなあ。
あー美味しい。
ラウンジのテーブルでゆらゆら揺れる燭台の下での晩ご飯は雰囲気が出ていいね。
マメちゃんもダルシーの煮こごりをワシワシ食べていた。
「わたしね」
「うん」
「最悪、レアキメラが見つからなくても良いかな、って思っているの」
カロルが静かに語った。
「そうかな」
「悲しい事があったのは事実だわ、でも、あの三人は現場に行けたわ、だからたぶん大丈夫よ」
「そうかもね」
でも、まあ、見つけ出して敵討ちさせてあげたいよなあ。
迷宮での自然の摂理という見方もできるけど、ねえ。
たぶん、カロルの言う事も間違っていない、悲しみは時間が解決してくれるだろう。
「でも、レアキメラが見つかると良いなって、私は思うよ」
「そうね、私もそう思って居たけど、なにしろ広いから、実感しちゃったの、これは探し出せないかもって」
「私もそう思った、うん」
「でも確かに見つかる方がいいわね」
「うん」
カロルは目を伏せて、窓の外を見た。
外はいつやむともしれない雨がしとしと降っていた。
ダルシーがお茶を出してくれた。
妙に黙って、お茶を飲む。
私の手にカロルが手を重ねてきた。
きたきたきたっ。
こいつは、オッケーサインですか、そうですかっ。
なかなか行動に移せない私を見てカロル自身が助け船ですか、そうですか。
「カ、カロル……」
カロルはちょっと恥ずかしそうな顔をして小さくうなずいた。
手を返して彼女の手を握り返す。
はあはあ、いけるいけるっ。
【マスター、中央タラップに来客です】
「……」
「……」
なんだよ、カーチス兄ちゃんだったらグーで殴るぞっ。
私は立ち上がって戸口近くの伝声管の蓋を開けた。
おや、モニターに映っているのはアントーン先生だな。
「こんばんは、アントーン先生」
『ああ、キンボールくん、夜分にすまないね』
ああ、良く無いね、これから寝ようってえのに。
「何でしょうか」
『ストライト隊がまだ帰らないんだ、同じ青道を行ったキンボールさん達は何か知らないかと思ってね』
命令さん達が帰らない?
まさか、レアキメラか? それとも……。
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