第1168話 レアキマイラ襲撃事件の検証は続くよ
ボルヘさんが遭難した地点には何も残って居なかった。
迷宮は時間が経つと全て飲み込んでしまうからね。
私たちは遭難地点に向けて手を合わせた。
「遺体はどうしました?」
「逃げるのに必死で、救助された時も解らなかった。後で聞いたけど、遺体は回収されていないそうだ」
十階から、遺体を担いで難所の崖を担ぎ上げるのはね。
「喰われて、あまり残って無かったそうですぜ」
「そうか……。ボルヘ……」
霊魂は残って無いね。
もう、天に帰ったようだ。
私たちは押し黙って歩を進めた。
クネクネした隘路に入って行く。
ここら辺は洞窟の構造が川の浸食の影響で複雑だな。
「ここで、再びキャンプを張った。荷物もかなり無くしてしまって。交代で見張りをしたよ。いつキメラが来るか怖くて怖くて……」
「怖かったなあ、ベロナ」
「ああ、本当に、迷宮探検を舐めていた。もっと早く崖を登れば」
「ここの崖は慣れた者でも迷う複雑な地形でさあね、無理もねえ」
ヤニクさんが首を振ってつぶやいた。
「怖いわね」
これでもベロナ先輩たちは経験のある迷宮探検チームだったのだ。
学園の上位クラスだね。
でも、迷宮に毎日入って狩りをしているプロでは無いからね。
「一晩過ごして、僕たちは消耗した、朝になって、移動しようとしたら、キメラがそこの横穴から躍り込んで来て、コリンヌに噛みついた」
うわ、怖い。
カロルがブルリと震えた。
ヒューイが姿勢を低くして横穴をのぞき込んだ。
「私はコリンヌをなんとか助けようとしたの、そうしたらブレスをかけられて、体が半分焼かれてしまったわ」
「火傷の跡もありませんね、先輩」
「聖女様がすっかり治してくださったわ。本当に感謝してます」
「いえいえ、そんなそんな」
イルッカさんが狭い穴をのぞき込んだ。
「ここに逃げ込んだら、奧に寄生魔獣が……、うわ、まだ居るな」
《まかせろ》
ヒューイが横穴に首を突っ込み、ゴワっと火を吐いて群れていた寄生獣を焼いた。
「あの時、君が居てくれたらなあ」
鼻筋をたたいてそう言うイルッカさんの顔をヒューイはベロリとなめた。
「僕はここで腕を喰われた。もう駄目かと思ったよ」
「救援隊が来てくれて、キメラを追い払ってくれて、私たちは命を救われたわ」
「コリンヌの遺体も地上に上げられなかった、僕はボルヘとコリンヌの両親にどう顔向けして良いか……。ほ、本当に、もう……」
ベロナ先輩は目を閉じて泣いた。
スーザン先輩とイルッカ先輩が黙って寄り添った。
友達を無くすのは辛いよね。
ヤニクさんに案内してもらって、本道に戻った。
ベロナ先輩が逃げて行ったのは脇道だったようだ。
「ここら辺にキメラの痕跡はねえですね、しばらく近づいて無いようです」
「最近の目撃例は?」
「赤道の十五階あたりでの目撃例がありやすね。あとベルモントの奴が乗ってたって、緑道十二階あたりの目撃例です」
「赤道から、緑道に行けるの?」
「直通の交差部は無いですなあ、二十三階までもぐらねえと」
「他の道との交差部は近場にありますか?」
「十一階に赤道との交差がありまさね、行ってみやしょうか」
一階下だな。
「迷宮の中は複雑怪奇だなあ」
『ガドラガは巨大迷宮じゃからな。知られていない交差部分などがあるぞ』
魔物だけが知っている道とかもあるらしいね。
あと、時々通路のつながりや方向が変わるのが厄介だな。
迷宮は生きていると言われる由縁であるよ。
ヤニクさんを先頭に本道を下がって行く。
ここら辺になると、ヒルダさんの糸無双だけでは手に負えない数とか強さとかの魔物が出るが、カーチスやベロナ先輩が叩き斬ってくれる。
だんだんチームとしての役割が出来てくるね。
やっぱり迷宮慣れしている盗賊であるヤニクさんが居ると心強い。
自然洞になっているので、マップが入り組んで読みにくくなってるのよね、ここらへん。
前からランタンの光が近づいてきた。
近づくと怪我を負った冒険者パーティであった。
「おおい、どうした?」
「キメラが出やがった、前衛が負傷したから撤退中だ」
「治そうか?」
「ああん? お、おおおおっ!! 聖女さんっ!」
「銀貨三枚で治してあげるよ」
「ありがてえありがてえっ」
ちょっと広くなった所でヒューイを降りて治療した。
それほどの深手は無かったので『ヒール』一発であった。
三人を治したので九銀貨を貰う。
小休止しながら話を聞いた。
「キメラが出やがってよう、なんとか追っ払ったんだぜ」
「どっちの方に逃げました?」
「赤道の交差の方に行ったな。いや、びっくりしたぜ」
キメラの主な出現ポイントは二十五階から三十階だからなあ。
わりと浅い所に出てる感じだ。
赤道十五階で目撃された個体かな?
中堅そうなパーティはありがとうと言って去って行った。
これから崖を登って地上を目指すようだ。
彼らは二十階ぐらいで一泊したようだ。
「ちょっと、運が向いてる感じでさあね」
「マコトは運が良いからな」
「交差部あたりで、昼食にしましょう」
「お、メシメシ」
「カーチスはお弁当持って来た?」
「ああ、船で弁当を買った、あんま美味くねえけどな」
アンヌさんお弁当を用意してあげたら良かったな。
明日はカーチスとヒルダさんの分は用意しようか。
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