第115話 戦い終わったら後始末であるよ
「ああ、あなたの事を偽聖女と仲間は噂をしていましたが、違ったのですね、僕はずっとずっと聖女さまに一目会いたいと思って生きてきました。死ぬ前に、あなたに会えて、僕は幸せです、さようならありがとうございます……」
「勝手に死ぬんじゃねえよ、ぶっ殺すぞ」
ひしゃげた兜をはたいて私は呪文を唱える。
『ハイヒール』
こんにちわマコトです。
現在、寝言を言う瀕死のポッティンジャー公爵派の騎士を治療中です。
こんな下らない争いで死ぬこと無いからなあ。
「あ、あああっ、なんてことだっ、僕はまだ生きられるのですか聖女さま」
「生きて、なんか良い事しろ。瀕死の奴はこいつが最後?」
「最後だね、あとは死にはしない重傷者ぐらいだ」
リックさんの得物はメイスだから、切断された奴はいないけど、足とか腕とかひしゃげた奴が多いな。
だが、しらんっ、ポーションでもかけろやっ。
それよりも馬だ。
私は瀕死の馬にハイヒールを掛けていく。
「う、馬よりも、その、怪我をですな……」
「ああっ? 馬だって只じゃねえんだろ、金が勿体ないだろうがよっ」
「じ、慈悲深いというよりも、なんだか現実的ですな」
ちょっと偉い感じの爺の騎士が呆れた声を出したが、しょうがねえだろう。
馬だって生きてるんだし。
さすがにリックさんが頭蓋を爆散させた馬はどうにもならないなあ。
まあ、持って帰って桜鍋にでもしろやー。
重傷者でもヤバ目な奴を治して、ポッティンジャー公爵派の騎士の捕虜で傷ついているのは中傷者ぐらいになったな。
「で、どうするのこいつら、ロイド王子?」
「王宮へ連行だな。ポッティンジャー公爵家から要請があったら条件付きで帰すよ」
「身代金は取れないの?」
「同じ国の騎士だからなあ、無理じゃないかな」
さっき死にかけていた若い騎士が私の足下にひざまずいた。
「聖女さま、僕はあなたに一心不乱に帰依いたします、どうか僕をあなたのしもべにしてくださいっ」
「いらんっ」
「そ、そんなあ、僕はどうしたら」
「自分で考えろ、うるせえ」
「なんと、にべもない聖女候補なのか、聖堂騎士団に入れてやればどうだ?」
「聖堂騎士は聖女マニアで一杯で、もういらないよ」
「聖堂騎士団!! そうすればあなたのおそばで戦えますねっ!! 僕は俗世から離れっ、聖堂騎士になろうと思いますっ!!」
「マコトっち、聖女候補がそんな渋い顔をしない」
「どっちにしろ、王宮で放免されてからだ、連行されて頭を冷やして考えろい」
「はい、僕の信仰は堅く一生変わりません、天地が焼け果てようと、この身は聖女さまのためにっ」
まったくもう、大神殿に聖女ファンはもういらんぞ。
第三騎兵騎士団にポッティンジャー公爵家の騎士たちは連行されていった。
まあ、隊長以下逃げられる奴はみんな逃げ散っていったけどね。
もう空は真っ暗だ。
そろそろ学園に帰ってご飯を食べよう。
お腹がすいた。
「では、マコトっち、王宮へ行こう」
「寮に帰ってご飯を食べたいんですけど」
「まあまあ、大戦果のお礼に王宮で晩餐をご馳走しようではないか」
王宮飯かあ。
「では、僕はここで、あちらに出頭しなければなりません」
ライアン君が頭を下げた。
「うむ、君のことはちゃんと王に伝えておくよ、派閥を移りたいなら口添えしよう」
「はいっ、ありがとうございますっ。聖女さまっ、それで、僕の家も聖女派閥に入れて欲しいのですがっ」
「そういうのはね、お父さんに相談してからにしましょうね」
「父も麻薬の事を伝えれば、必ずポッティンジャー公爵家派閥から脱退するはずですっ、どうかっ、おねがいしますっ」
ライアン君は頭を深くさげた。
うーん。
まあ、良い奴だけどなあ。
どうしようかなあ。
「お父さんの了解取ってきたら、良いよ」
「ありがとうございますっ、必ず父を説得しますっ!」
ライアン君は王宮に向かう捕虜の馬車に乗り込んだ。
「さ、僕らも王宮に行こう」
「わかったよう」
豪華な黒塗りの馬車に乗り込んだ。
ロイドちゃんと、リックさんが一緒だ。
ダルシーは、またどっかに消えた。
馬車が動き出すと、ロイドちゃんが手を握ってきおった。
ふんっ、と言って振りほどくと、なんだかがっかりしたような顔をする。
「こんなに女性に邪険にされたのは初めてだよ」
「まあ、王子さまだしなあ、みんな我慢してんだよ」
「そ、そうなのかい? 僕が王子だから、みんな笑顔を作って従っていたというのかいっ」
「かもねえ~」
「そんな事はありやせんよ、みんな王子の事が好きなんですぜ」
「ロイド王子はチャラすぎるよ、もっと自重しましょう」
「そ、そんな、まさか……」
ロイドちゃんは手を見つめ、ぷるぷる震える。
こいつ本当に見境無いからなあ。
ゲームでも女子とみると口説き始めるから。
「わ、わかった、これからはマコトっちへの愛をなにより優先する、だから良いだろう」
わ、肩抱いてくんな、そういうとこやぞっ。
アイアンクローしてやれ。
「う、うぐおおお、痛い痛いっ!」
「マ、マコトさま、王子に乱暴は、そのやめて下さいな」
「すぐセクハラするロイド王子が悪いんだよ、私は悪くない」
「どっちもなん なのだと思いやすけどねえ」
高級馬車は滑るように夜道を王宮に向けて走って行った。