第1166話 青道の浅い階を行く
青道というのは、ガドラガの六本の主道のうち、赤道に次ぐ難易度の洞窟だ。
途中地下水脈が川になっている所があり、地下十階層では地底川が滝と成って落ちている場所がある。
観光名所グランデの大滝だな。
雄大で絶景らしい。
地底の川はグランデの縦抗と呼ばれる穴に垂直に落ち込んでいて、大滝の落下高度は百クレイドほども有ると言う。
観光名所なのだが、地下十階という事もあり、見に行く為にはツアーパーティを組むのが一般的だね。
貴族の人がプロ冒険者を雇って観に行く所らしいぞ。
我々ベロナ隊は青道をどんどん進んでいる。
最前列はヤニクさんとダルシーとヒルダさんだ。
ベテランのヤニクさんが道の先を見通して魔物を発見し、ヒルダさんが糸で輪切りにする事でずんずん進んでいる。
ダルシーは念の為だね。
「なんでヒルダ先輩はあんなに強いんだ、暇でしょうがねえ」
『糸使いは強敵と決まっておる。細い糸は見えない上に名剣のように肉を切り裂くでな』
まあ、ヒルダさんはチートだからな。
仕方があるまい。
まだ浅い階なので、ゴブリンとか角兎とかだし。
ヒューイとかチェーン君とかなら五階ぐらいまでの魔物なら苦戦もしないと思うぞ。
よっぽど沢山とかでない限りね。
「前方に学生パーティでさあ」
「広がってるね、誰だろ?」
前方で学生パーティがゴブリン四匹と激闘中であった。
黒豹が居たのでストライト隊だな。
戦闘中にどけというのはルール違反である。
この場合離れて見ているのが正解だ。
ああ、ロデムはちゃんと強いな。
ゴブリンを噛み殺した。
ジェルマンも剣を振るって一匹倒した。
セザールが短弓で、ユーグが杖で残りのゴブリンを牽制している。
命令さんは一番後ろで応援しているな。
ロデムが一匹、ジェルマンが最後の一匹を倒して戦闘は終了した。
セザールがナイフを抜いて魔石を掘り出し始めた。
「ベロナ隊、通ります」
「お、おう」
ジェルマンが道の端に寄って空間を空けた。
我々は奴らの横を通って追い越していく。
「なんだよ、聖女も青道かよ」
「そうだよ、ストライト隊も?」
「ああ、レアキメラは俺達が倒すぜ」
「……」
というか、実力がぜんぜん足りないぞ。
「危ないと思ったら逃げなさいよ」
「私のロデムちゃんが居れば大丈夫よ」
「がんばってね。もしも重傷を負っても諦めないで、死ななかったら私が治してあげるわ」
「こっちにはユーグが居るから大丈夫だっ」
大丈夫かな?
ちょっと心配である。
わりとスタスタと歩いて下り階段、地下二階である。
ここらへんもゴブリン角兎スライム地帯である。
スパンスパンと、魔法のように魔物は輪切りになり、ダルシーがナイフ片手に魔石を切り出す。
「いやあ、ヒルダさま、お強いですな」
「これくらいはなんでもありません。対人用の技なので、オークぐらいまでは、すぐ片付きます。オーガーになるとちょっと困りますね」
アラクネ糸も装甲があったり表皮が硬くなったりすると無双は出来なくなる。
が、無効化される訳では無いので、ヒルダさんが役に立たなくなる事は中層まででは無いはずだ。
オーク一匹、ゴブリンが三匹出て来た。
ヒルダさんが手をひらひらと動かすと、魔物達は輪切りとなって通路に転がった。
「凄いね、斥候役なのに、全部片付けてしまうね」
「諜報系の凄い人だからだわ。マーラーさん凄い」
「楽に進めるのは良いですな」
三階への下り階段を見つけた。
というか、ヤニクさんが案内してくれるので迷わないで最短距離を行けるね。
アタックドッグ、カピバラ、ゾンビが現れる。
スパスパスパ。
ゾンビなんかは私がターンアンデッドを使えば一発だが、バラバラにしちゃえば同じだね。
魔石を切り離せば死体の動力が無くなって停止する。
「アタックドッグは速いのに」
「糸の方が速いですわよ、領袖」
ヒルダさん無双だなあ。
ちなみに前方にも糸を放ってあって、敵の接近も糸で感知できるという。
なんという高度な糸使いか。
強キャラであるな。
「リンダさんの方に行くべきだったかも」
『これが目的で来たのであろう』
「カーチスは下では役に立ってたの?」
「いや、足手まといだった」
そりゃあまあ、リンダさんとジャンさんが居て、五本指もいるからなあ。
「ローゼよりもみそっかすだったのがショックだった。もっとやれると思ったんだけどな」
「ローゼはあれで場数を踏んでおりますからね。剣客は殺した数でも強くなれますわ」
「殺しかあ」
辻斬りとかやめろよ坊ちゃん。
まだまだ学生だから、だんだんと強くなれば良いんだよ。
「そんでも、リンダさんとか、ジャンの戦っている姿を直接目に出来たのはよかった、凄い勉強になったよ」
「ブロウライト卿は存外真面目ですわね」
「俺は剣の方だと真面目なんだよ」
『まだまだ若い、カーチスが名を轟かせるのは成人してからじゃろうて』
「だと良いけどな。あー、強くなりてえ」
戦闘馬鹿にも切実な悩みがあるんだなあ。
未来の成りたい自分に向けて努力していくしか無いんだろうな。
一足飛びとか近道とかは無いんだよ。
地道にやるしか無いね。
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