第1155話 セイントンの街で肉とパンを買う
気の良い村人さんたちに手を振って蒼穹の覇者号に乗り込んだ。
「素朴で良い村だったわね」
「一応物価をメモしておいたわ、あとで値段を付き合わせてみましょう」
「さすが、CEO!」
「ふふん、これくらいは当然なのよっ」
カロルが副操縦席でドヤ顔である。
マメちゃんは彼女の席の袖机で立ち上がり背中をモシャモシャされていた。
「さて、パンと肉はどこで買おうかなあ」
「ここら辺の地方は物価が高い感じね、ちょっと南の大きい街が良いんじゃ無いかしら」
「牧場があって、麦畑がある街が良いわね」
ざっと遠くまで見通してみるが、町がポツポツとしかないなあ。
こういう時はマップを見よう。
マップモニターを拡大して街道とかを調べて見る。
あ、丁度、南に大きな街があるね。
セイントンの街と言うらしい。
操舵輪を回して街に向かって飛ぶ。
街の近くには牧場もあるし、小麦畑もあるね。
典型的な農業牧畜の街だな。
街の広場に蒼穹の覇者号を着陸させた。
住民が右往左往しているな。
まあ、今時は飛空艇なんか滅多に来ないからね。
タラップを下りると、街の偉いさんとおぼしき人が走って来た。
「聖女さま~~!! 聖女マコトさま~~!! 勇者モルハンの誕生地、セイントンにようこそ~~!」
勇者由来の街だったのか。
それでセイントンか。
ちょびひげの偉い人は涙目になってペコペコ頭を下げた。
「な、なんという事でしょう、聖女マコトさまが我が街にいらっしゃるとは、是非、勇者モルハン記念教会へおいでなさいませ、ぜひぜひ~~」
「いやその、私はガドラガに来ていて、ちょっとお買い物に」
下手に勇者記念教会とか行くと聖剣とか見つけそうで嫌だよ。
「左様でございますかーっ!! このセイントンの街は牧畜と農作に優れておりまして、是非とも自慢の豚肉をお買い求めくださいっ、パンも素晴らしい物がありますぞっ」
おっちゃんはなんか暑苦しいな。
「市場に案内してくださいますか、ええと」
「これは失礼いたしました、代官のクリフトと申しますっ、どうぞどうぞお見知りおきを」
クリフトさんね。
勇者由来の街だから、聖女さんとか大好きみたいね。
クリフトさんの案内で、大きめの市場を歩く。
ああ、物資が豊富で安いね。
カロルも値段をメモしながら、うんうんとうなずいていた。
《散歩したい》
「そうね、エイダさん、後部ハッチを開けてあげて」
【了解しました、マスターマコト】
遠くに見える蒼穹の覇者号の後部ハッチが開いてヒューイが出て来て、こっちに走って来た。
「おお、何と言う素晴らしい竜馬でありましょうか、聖女さまの騎獣として申し分ありませんな、綺麗だ綺麗だ」
「ヒューイというのよ、お友達なの」
《ともだちともだち》
「名産は豚肉なのね」
「はい、牛肉も良い物があるのですが、セイントン豚は特産となりますぞ、どうぞお買い求めください。これ、店主、聖女さまがご所望じゃ、たんと値引きをしてあげなさいっ」
「ははっ、代官さま」
「いや、値引きとか良いから、定価で買うわよ、申し訳無いわ」
「おお」
「おお、何と言うご慈愛!」
「普通の事ですっ」
店長さんお勧めの豚肉を買った。
大きい塊だったので、カロルが収納袋に入れてくれた。
あと、鳥の丸ごと一個と牛肉の塊だね。
わりと安い感じ。
「ありがとう、店長さん」
「いえいえ、聖女さまのお役に立てたなら末代までの自慢になりまさあね」
「あなたに女神の祝福がございますように」
「ははあっ」
「ああ、立礼で良いです、立礼で」
「なんというご慈悲かー」
なんだな、セイントンの人達は感情表現がオーバーなのか。
パン屋に案内して貰って、丸パンを買う。
「この地方の特産のパンは無いのかしら」
「そうだねえ、イチゴを練り込んだイチゴパンかねえ」
「面白いわね、六個ください」
「あいよう、ほんに、パンの聖人のマコトさまに来て貰って、あたしは嬉しいよう」
「ははは」
私の実家がパン屋なので、一部でパンの聖人と祭り上げられているのだ。
「朝に夕に、マコト様を拝んでいるんだあ」
パン屋のおばちゃんが店の奥の小さな私の石像を指した。
ああ、二年前のクリスマスぐらいに作った石像だね。
今よりちょっと小さいマコト様だ。
「これからも頑張ってね、おばさま」
「もったい無いもったい無い、今日の事は一生覚えているだよ、本当にありがとうねえ、聖女さまあ」
大歓迎だな。
さて、目的の物は買ったので、マルコアス修道院に寄ってガドラガに帰るかな。
「じゃあ、クリフト代官さま、私たちは帰るわ」
「ああ、御一泊なさって、勇者モルハン記念教会で、是非ミサを、是非是非~~」
「今日は迷宮実習の中日の休日なのよ、明日も授業だから、ごめんなさいね」
「それでは仕方がありませんなあ、まことに残念無念」
「来年も実習でガドラガに来るから、その時またお会いしましょう」
「ああ、本当ですか、ありがたやありがたや」
だが、ミサはしねえぞ。
あれは時間が掛かってだるいからな。
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