第1141話 フロッティを綺麗にする
鍛冶屋『ダルタロス』は裏路地にあった。
ガッキンガッキンと激しい鎚の音が聞こえるな。
店売りもやっている鍛冶屋のようだ。
ヒューイから降りて店の中に入る。
「こんにちは~」
ドワーフのおっちゃんは鎚を打つ手を止めてこちらを見て目を丸くした。
「聖女さん」
「聖女候補だよ」
「そうか、ああ、ちょっと待ってくれ、今手が離せねえ」
「ああ、お店見てるからゆっくりでいいよ」
ガッキンガッキンとまた鎚を打ち始めた。
色々な武器が無造作に置いてあるなあ。
でっかい盾や両手剣、鉄製の物が多くてミスリルとかの高級品は少ないようだ。
無骨な感じの物が多いね。
ふいーと言っておっちゃんは鎚を置き、柄杓で水を掬って飲んだ。
「またせたな聖女さん、なんのようだい」
「ギルマスにこれを清掃して貰う鍛冶屋を教えてって言ったらここを教えられたのよ」
「そうかい、あいつも律儀だな。剣の清掃か、調整は?」
「調整は問題ないみたい、外装が汚くてさ」
「どれ……、え、なんだこれ?」
「聖剣フロッティ」
「え、マジか、どこから出土しやがった」
「三軒隣の小間物屋さん」
「ゼルダババアの店か!! なんてこったっ、こんなスゲえものどこに?」
「店先のカメの中に、一本金貨一枚で売ってたわよ」
「まじかーまじかー、気が付かなかったぜ、ちょっと見るだけでスゲえもんだって解るのによっ、抜いても良いか?」
「柄の宝玉に魔力を流すと抜けるよ」
「ん、んんんっ、お、抜けた、はー、中は綺麗なもんだなっ、すげえ鍛冶だ」
おっちゃんは剣を隅から隅までじろじろと観察した。
「こいつはすげえ、真の掘り出しもんだな、良い物を見せてもらった、外装の汚れを取りたいのか?」
「そう、あんまりにも汚くて」
「埃と脂、あと土だな、どこから流れて来た物やら」
「わかんないわ、どの聖女さんが持って居た物かも解らないし」
「女性用か? 様式はビタリとかの感じだがなあ」
そうすると総本山で製作された物かな。
なんでガドラガまで流れて来たかな。
「ちょっと待ってろ」
おっちゃんは戸棚からガラス瓶を取り出すと、ビーカーに少し落とし、水で希釈した。
その溶液を剣の外装に垂らした。
「もう、洗剤じゃおっつかねえ、溶解液で溶かすぜ」
「外装が傷まない?」
「そんなヤワな作りじゃねえよ、最高級品だからな」
溶液を垂らしてしばらくして布で拭くと汚れが落ちて本来の鞘の色があらわれた。
銀色だったのか。
「すげえすげえ彫刻もはめている宝玉もすげえな。よくバラされなかったなあ、おまえ」
おっちゃんは愛おしそうにフロッティに声を掛け、じゃばじゃばと溶解液を掛けた。
意外に簡単に清掃できるな。
小さいヘラとこよりで汚れを拭っていき細部も綺麗にしていく。
宝玉は琥珀色で金の縁取りがあった。
おー、綺麗な姿だなあ。
「わ、綺麗になったね、ありがとうおっちゃん」
「わしはゴロンだ、聖女さん」
「わたしはマコトだよ、ゴロンさん」
「おう、マコトさん」
「清掃料は幾ら払う?」
「んー、すげえ物見せてくれたからただでいいさ、あんたはガドラガの為にがんばってくれたしな」
「そりゃ悪いって」
「聖剣を使う所を見せてくれ、調整が必要ならやるしよ、そっちは金を貰う」
「悪いねえ、んじゃ、使って見るか」
私は綺麗になったフロッティを腰に差した。
「そっちの刀も聖剣かい?」
「子狐丸は聖刀だね、蓬莱の刀だよ」
「あとで見せてくれよ」
「いいよー、あと今ガドラガにホウズも来てるよ」
「マジか! 聖剣中の聖剣がっ」
あいつは有名なんだよなあ、うるせえくせに。
「明日見せてあげるよ」
「それは、ありがてえ。こっちだよ」
木人形が立てられた試し切りのブースに案内された。
「そこからじゃ届かねえよ」
「いや、斬撃飛ばせるから」
「マジかあ!」
綺麗になったフロッティを握ると手触りが良いね。
魔力も良く流れるようになった感じだ。
フロッティを振って斬撃を飛ばす。
パシュンと木人形の頭を切断して後ろの土壁に切れ目が入った。
「こいつはすげえっ」
ゴロンのおっちゃんは歓声を上げた。
木人形に近づいてスパスパ切ってみる。
ああ、清掃前より切れ味が増してる感じだな。
いいねいいね。
「うん、軸も狂ってねえし、これは自動修復付いてるな」
「そうだろうね、聖剣クラスには付きものなんでしょ」
「ああ、聖剣が長持ちなのはそのせいだよ」
そうか、自動で修復されるから、狂いとかねじれとかが無くって壊れ難いんだな。
聖剣は便利だな。
魔力で伝わる昔の持ち主の動きに変なのがあるな。
柄に魔力を溜めて、溜めて、解放、か?
ビュワンッ!
おっ!
自然に体が回転して、聖属性の刃が少し伸びた。
回転斬りかあ。
雑魚に囲まれた時に良いねえ。
面白いギミックが付いてるなあ。
「良いねえ、聖剣らしい聖剣だ」
「そうだね、聖女さんが使ってたらしいんだけど、重さも長さも丁度いいわ」
「マコトさん向きの剣だなあ」
ゴロンさんに子狐丸を見せたりして楽しく過ごした。
剣が綺麗になると嬉しいね。
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