第112話 パメラ・ゴーフル子爵令嬢救出作戦
しかし、覚醒剤なあ。
乙女ゲームに実装されているとは思えない薬剤だな。
この世界は錬金術がある関係で化学的な薬の発展が遅れているのだ。
キュアポーションで、色々な病気が治ってしまうので、個々に作用する薬が作られる訳もない。
だから、麻薬があったとしても、アヘンか大麻といった植物由来の物を直接作用させる物しか無いはずだ。
覚醒剤はどうやって作るんだっけかな。
もの凄く臭いという話だけは聞いたけど。
ちなみに、酩酊、麻酔作用をする物に魔物由来の物もある。
睡眠、混乱の攻撃をしてくる魔物の体から取れる薬剤だね。
これらは錬金術師が医療用に少し作ってるだけのはずだ。
怪しいな。
転生者かねえ?
ヤクザの転生者とか居たら面倒だぞ。
拳銃とか開発しそうだ。
口径にもよるけど結界障壁では弾丸を止められないだろう。
やばいなあ。
ガクンと馬車が揺れて止まった。
外に出てみると、見るからに怪しげな屋敷が建っていた。
ナノサイズの光の輪を発振。
ぴーーーーーんっ。
中には、男が二人、女性は二人だな。地下室にも何人かいそうな雰囲気だけど、解らないな。
「ふむ、行きがかり上無計画に来てしまったが、制圧後にここを保持する戦力がいるな」
「あ、そうだね。敵が来たら取り返されて燃やされてしまうかも」
ダルシーが出てきた。
「ここから一番近い戦力は?」
「王城の騎士団かと」
「これからダルシーが呼びに行った場合の到着予想時間は?」
「一時間内外かと」
「王城三番騎士団を指名してくれたまえ、機動騎馬部隊だから一般騎士よりも早い。騎士団長にこれを見せて要請してくれ、ダルシー君」
ロイドちゃんが懐からメダルを出して、ダルシーに渡した。
「かしこまりました」
ダルシーがポーンと跳ねて、うっすらと見える王城方面へ飛んだ。
「え?」
「重拳使いですかい、珍しいねえ」
「そんな希少な諜報メイドを……、ダルシー君をくれない? マコトっち」
「いやだよ、ダルシーは、私の可愛いメイドなんだから」
「くそう、いいなあいいなあ」
ダルシーを欲しがられて、なんだかすごく誇らしい。
ロイドちゃんにどや顔してみた。
「リック、君がダルシー君を落として、結婚して国王派に連れてくるんだ」
「ふふ、それは良いですなあ」
「こらっ、うちのダルシーに色目つかうんじゃないよ、でかぶつっ」
「ふふっ、ふふふ、ああ、あんたも良いなあ、聖女さん」
さて、冗談は置いておいて。
「四人で制圧できるかな?」
「リック一人でも可能だよ。ただ、誰か逃がして増援を連れて来られると辛いな」
「急いで制圧して、中で騎士団の到着をまちましょうや」
リックさんはそう言いながら、馬車の中のグレイブに猿ぐつわをして縄で縛り上げた。
グレイブは麻酔魔法で眠っているようだ。
「聖女さまは私が守りますっ」
そう言ってライアンが前に出た。
んまあ、がんばれ。
リックさんがいれば大丈夫とか、空気を読まない事は言わない。
たぶんリックさんの次に強いのは私だろうなあ。
ナノサイズ光魔法の輪を放って、室内の人間を感知する。
入り口の所の部屋に男性が一人、二階に一人。
二階に女性が二人、パメラさんと金髪メイドだろうかな。
リックさんが扉の取っ手を持って、ふんっ、と力を入れると、取っ手が壊れてドアが開いた。
どんだけ凄い力だよ。
「ん、なんだ? なんだ?」
出てきたチンピラくさい男の腹を、リックさんはドンと殴って失神させる。
うん、リックさんの筋肉無双で、なにもしなくていいや。
室内に入る。
なんだかパイプ煙草のような嫌なにおいがするな。
部屋は散らかっていて、窓ガラスも汚れている。
ライアン君が縄でチンピラを縛り上げた。
「一階に人は居ないよ、二階に男一人、女二人」
四人でドアを開けて、家の奥に行く。
あちこち汚いアジトだなあ。
掃除ぐらいしろよ。
リックさんが背を丸めて階段を上がっていく。
「あ? なんだおまえ、ぐあっ」
私たちが二階に上がると、ヤクザ風の男が気絶して倒れていた。
奥のドアを開けると、煙がもわっと漂ってきた。
「ご飯買ってきたの~、ん~、あんたたちだれ~」
そこにいたのは、パメラ・ゴーフル子爵令嬢だった。
目の下にクマを作り、髪の毛がぼさぼさで、目の焦点が合ってない。
ベットにごろんと横たわってけだるそうにしていた。
サイドテーブルには水パイプだろうか、煙を出している器具が置かれ、吸い口からパメラさんは煙を吸い、空中にぷうと吐き出した。
「助けに来たわよ、ゴーフルさん」
「あんただれ~? 助け? 私は困ってないわよ~」
頬がそぎ落とされたように痩せている。
碌な物を食べてないのか。
リックさんが、別の部屋から金髪メイドを連れてきた。
こちらもやつれた感じだが、パメラさんよりはましな状態だ。
「お、お嬢様っ」
「あら、サーラどうしたの~、怖い顔よ~」
「なんです、これはなんなんですっ、どうしてお嬢様がこんな姿にっ?」
「サーラさんはここで何してたの?」
「朝晩の料理を作ったりです、あまり外に出してもらえなくてっ、お嬢様にも会わせてもらえなくてっ、こんなっ、こんな事って」
「どうする、マコトっち、パメラさん廃人だぞ」
「一週間ぐらいで酷いことになるんだなあ」
「治せるかい?」
「まかせろ、聖女候補なめんな」
私はパメラさんから水パイプを取り上げ、部屋の隅に動かした。
「あ~~、あ~~~っ」
うるせえっ。
『ハイヒール』
私はパメラさんの頭を包み込むようにハイヒールを掛けた。




