第1119話 お腹が空いたので教会の庭で炊き出しを食べる
教会の庭には大きなテントが張られて、半裸の男どもが座らせられていた。
ガドラガ聖騎士五百人のなれのはてのようだ。
甲冑はまとめられて庭で雨ざらしになっている。
しかし、もう夜半だ、お腹が空いたな。
テントの中の半裸どもも何か食べているな。
「聖騎士団が炊き出しをしています」
「お腹が空いた、食べて船に戻ろう」
「船でご飯をご用意できますが」
アンヌさんが言うが、なんかもう面倒臭い。
雨降っていて寒いし。
リンダさんが騎士隊の部下に進捗を聞きにいった。
「黒手のダーキンと白手のリッツオはどうした、殺したか」
パットミル博士が聞いて来た。
「リッツオは……、あ、あそこで箱詰めにした」
庭の隅に障壁棺に入れられた魔族たちが転がっていた。
障壁は雨を通さないから便利だね。
「ダーキンは船に攻めて来たから迎撃して箱詰めしたよ」
「生きてはいるのか、そうか……」
「あんたは爺さんだから箱詰めは勘弁してあげるよ、教会が制圧されたら牢屋だね」
パットミル博士はドッペルゲンガーの数を数えているようだ。
「全員……、箱詰めか、というか死者はいないのか」
「いないな」
「なんで殺さない、ワシらは人類の敵ぞ」
「興味無いなあ、教会の調べで人を殺していたら処刑されるだろうけど、積極的に死んで欲しいとは思わないなあ」
「なぜ?」
「死んだらお終いじゃんか」
「変な聖女だのう」
リンダさんが戻って来た。
「今夜半に制圧を完了出来そうです。役所に向かったケビン王子も制圧完了だそうです。マコトさまは蒼穹の覇者号にお戻りになってお休みください」
「お腹が空いた、あそこの炊き出しを食べるよ」
「あれは捕虜と我々の夜食です、不味いですよ」
「今日は戦争だから、不味い飯もしょうが無いよ、爺さんも一緒にどうだい」
「いや、手が」
「ヒルダさん」
「了解です、領袖」
ヒルダさんが糸を外したので、パットミル博士は動けるようになった。
「なんじゃ、ワシが襲いかかったらどうする」
「私の養父は学者なんだよ、学者は喧嘩とかしないよ」
「まったく、嫌な人間じゃな、そうやって器の大きい所を見せつけて懐柔しようというのじゃな」
「まあ、飯でも食おうよ、豪傑が一杯居るから爺さんは逃げられないしさ」
私はヒューイから下りて、カロルが下りるのを手伝った。
カーチスとジャンが肩をすくめた。
「聖女さんはいつもこうなのかい、カーチス卿」
「超甘いんだよ、まあ、そういう奴だから色々スムーズに流れる時もあるがな」
「うるせえよ」
オガ太郎がやってきた。
大神殿系の聖騎士の甲冑を着て太刀を腰に付けて、すごい立派な感じになったな。
マッチョイケメンオーガーだ。
「博士の監視は私がいたしましょう」
「たのんだよ、オガ太郎」
「まったく馬鹿みたいな名前を付けられて喜びおって、ハイオーガ四号よ」
「あなたに従った事なぞ一度もなかったと記憶しているが」
「迷宮産はコントロールしにくくていかんわい」
みんなで配給のテントに行って、炊き出しを貰った。
粗末な木の椀にシチューと黒パンだった。
「いただきます」
「「「「「日々の粮を女神に感謝します」」」」」
「いただくぞ」
ぱくり。
うん、味はまあまあだな。
黒パンもまあまあ。
でも雨の夜で寒いから暖かいシチューがしみるね。
「この五百人、どうすんの、リンダさん」
「粛正するのが手っ取り早いのですが、マコトさまが嫌がりますので、還俗させて放りだします」
私たちを案内してくれた、トーマスとジョーイも聖騎士の鎧を脱いで肌着すがたでシチューをぱくついていた。
「トーマス、ジョーイ、あんたたちどこに住んで居たの?」
「あそこの宿舎ですよ」
「ビタリから来た幹部騎士以外はあそこで共同生活をおくっていました。貧しい生活でしたが、規律正しく武道も教えて貰って楽しかったです」
そうか、楽しかったのか。
それは不幸中の幸いだね。
「リンダさん、教会の金庫は押さえた?」
「はい、金が唸っていやがりました、まったく売僧ですなベルモントめは」
「明日、ガドラガ聖騎士に当座のお金を配ってから放逐してください」
「こいつらはベルモントの私兵ですよ、そこまで面倒をみる義理は」
「教会の生活が楽しかった者がいる以上、それは聖心教の仲間でもありました、慈悲の心を持って送り出しましょう」
「うむむ」
教皇様が輿にのって通りかかった。
「リンダ、聖女マコトの言う通りにいたしましょう。私は承認いたします」
教皇様は私にだだ甘だな。
「わかりました」
「総本山所属の聖騎士はビタリに帰ってもらいましょう。総本山のお世話になりたい偽聖騎士は一緒に行ってもらえばよろしい。聖女マコトに帰依したいという偽聖騎士、僧侶、女官は残しましょう」
そうだね、ガドラガ教会を潰しちゃうと治療院が無くなってしまうし。
「聖女マコトはここで教会の建て直しをしませんか?」
「いやです」
即答だね。
というか、王都からはなれたガドラガ教会の責任者なんかまっぴらごめんだよ。
魔法学園やめないといけないじゃん。
「そうですか、残念です。では、とりあえず、この教会は大神殿の支配下におきましょう。後任の司祭は総本山との交渉しだいですね」
「この際だから総本山の大掃除もするべきでは無いですか」
「それには聖女マコトの協力が不可欠なのですよ、リンダ。どうですか、蒼穹の覇者号で総本山に一緒に行ってくれませんか」
「面倒臭いので冬とかにしたいですね、あっちに行ったら一週間は帰ってこれないのだし」
教皇様はふんわりと笑われた。
「という事なのですよ、リンダ。私は聖女マコトの気持ちのまま動きたいと、そう思いますよ」
「残念ですが、冬の楽しみにしておきますか」
リンダさんは残忍そうな笑顔を浮かべた。
ああ、コワイコワイ。
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