第1113話 聖女は商工会議所を急襲する
「たのもーっ!!」
ドカーン!!
私はヒューイの前足でドアをぶっ壊して騎乗のままガドラガ商工会議所に乗り込んだ。
「な、何事かーっ!! 誰だ貴様ーっ!! ぬうっ、聖女か!!」
商工会議所の奧にいた偉そうなハゲ茶瓶が私の狼藉に怒鳴った。
「商工会議所で一番偉いのはお前か」
「な、なんという無礼な女だ貴様っ!! 騎乗でこの神聖なる商業の聖地たる商工会議所に乗り込むとは失礼千万!! で、出ていけっ!!」
「だまれ、ハゲ茶瓶、今、ガドラガ教会を滅ぼす下準備中だ、聖心教大神殿の聖女、マコト・キンボールに協力しろっ」
「なんだと、ふざけるなっ、ガドラガ教会を滅ぼすだと、偽物の聖女の貴様にそんな事が出来る訳があるまいっ!! 帰れ帰れっ!!」
窓の外でゴウンゴウンと飛行艇の作動音が響き、雲を割って白銀の城号が降りてくるのが見えた。
「な、白銀の城号……、ま、まさか王族が乗っているのか……」
「ケビン王子と宰相の息子ジェラルド卿のご降臨だ、さあて、観念して私に協力しろ、商工会長」
「ぐぐぐ、ふ、ふざけるなあ、お前などに屈したらポッティンジャー公爵閣下に申し訳がたたんっ!! で、出ていけっ!!」
「おおそうか、王府の裁きを待つというのだな、それで良いんだな」
ハゲ茶瓶の目に迷いが浮かんだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ベルモント司祭を滅するというのは、その、聖心教の決定か? 聖女殿」
「ガドラガ教会全体を破門済だ、あいつら魔族を引き込んで、冒険者ギルドにまで紛れ込ませてやがった、この件一本で火あぶりだぞ」
にこやかな顔をした女子職員の肩が動いた。
『ライト』
「ぎゃあああっ!!」
やっぱりここにもドッペルゲンガーが居たか。
『ライトライトライトライト』
ライトをいっぱい作って商工会議所職員にぶつけまくった。
「ぎゃああっ!!」
「くそうっ!! 聖女めっ!!」
「がああっ!!」
「しねええっ!!」
近寄って来たドッペルゲンガーはジャンによって切り伏せられた。
私は手当たり次第、障壁の棺に閉じ込めていく。
ハゲ茶瓶は惜しくもドッペルゲンガーではなく只の人間だった。
「ま、魔族? こ、ここにもか?」
「おうよ、ハゲ茶瓶、ベルモント司祭はクソ臆病だから悪事仲間が裏切らないように潜入させてたんだ。こいつら五年前のガドラガ魔導灯消灯事件で迷宮内にいたろ」
「…………」
ハゲ茶瓶の目がせわしなく動き、はげ頭に沢山の汗が浮かび上がる。
「さあ、早く決めろっ!! ベルモント司祭について魔族に加担した売国奴になるかっ!! 聖心教について名誉だけは残すか、どっちだ!!」
「お、王家に取りなしを、してくれるのか?」
「しないっ!! お前達はお前達の悪事で裁かれ滅びるだろう!! だが、やって無い悪名まで背負い、子々孫々まで石を投げられるのだけは避けられるぞ!! 今すぐ決めろっ!!」
ハゲ茶瓶は頭を抱えた。
「私はポッティンジャー公爵閣下に忠誠を誓っている、だが、アップルトンや人類の裏切り者では無い、聖女殿、あなたに降伏いたします……」
「よし、お前達の罪は教会の調査員と王府の調査員が隅々まで調べ白日の下にさらしてやる、だが、人類を裏切った犬畜生との悪名は免除する!!」
「あ、ありがたき、しあわせ……」
ハゲ茶瓶はがっくりと肩を落とし、机につっぷした。
カロルがヒューイから下りた。
「こんにちは、私はオルブライト商会のCEO、カロリーヌ・オルブライトです」
「オルブライト商会!!」
「こちらのお願いはただ一つ、オルブライト商会のガドラガへの商業免許の授与です」
「ば、ばかな、錬金薬の流通はコモンカン商会が一手に……」
カロルは売店で買ったヒールポーションを前に出した。
「このポーション、アップルトン王府が定めた効能の四分の一の効き目しかありません。この危険なポーションを販売停止にして、わがオルブライト製のポーションを流通させます」
「せ、先例が……、それだけは勘弁してくれないか」
「薄いポーションで、まださらに冒険者を苦しめるというのですかっ!! それでも錬金商会のトップですかっ!!」
「ああ、ちがうんだ、ベルモント司祭に頼まれて、そして、わが錬金工場の精度もたりんのだ、頑張ってもあんたたちの製品の二分の一の効能しか出なかったんだ……」
ハゲ茶瓶は錬金薬の商会長も兼任してやがったか。
腐敗の元だぞ。
「我々オルブライト商会は、しばらくガドラガの錬金薬の販売網、食料品の販売網を独占させていただきます、良いですね」
「そ、それでは、いくつもの商会がつぶれてしまう、それはあんまりだ……」
「魔石売買や、各種武具の販売網は残ってるだろ、それで我慢しろ。ポーションと食糧はお前達に任せてはおけないんだっ」
往生際の悪いハゲ茶瓶に私は怒鳴った。
「ベルモント司祭からの裏金と、商品の暴利で儲けたお金をガドラガからの撤退費用に使いなさい」
カロルの声は氷のように冷たかった。
さすがCEOだぜっ。
「わ、わかった、言う通りにしよう」
よし、ガドラガ商工会議所を落としたぜ。
「こ、この魔族たちはどうすれば」
ハゲ茶瓶は障壁の棺の中でうごめくドッペルゲンガーたちを気味悪そうに見つめた。
「その棺からは出られないから、隅にでも集めておいて、聖騎士団が引き取りに来るわ」
「わかった、なにとぞ、なにとぞ、教会からの破門だけは勘弁してください。我々は知らなかったんだ」
「それは、これからの協力しだいね」
「はい……」
ハゲ茶瓶はなんだかしぼんだ感じで一気に何十才か歳を取ったようになった。
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