第1108話 敵の勢力を確認してたら敵が来た
「なんという邪悪なっ、さあ討伐に行きましょう、私も力を貸しますぞ!」
ジャンが立ち上がり力強く言った。
「座んなさいよ、まだ、相手の戦力分析と要所を確認してないわ」
「あ、ああ、すいません」
ジャンはミスリル冒険者なのに単純だなあ、豪傑か君は。
ベルモント司祭が憎いのは解るが、こちとら失敗は出来ないんだよ。
とはいえ、相手の準備が整う前に叩きたい気持ちもあるが、先に戦力分析だ。
後詰めの黄金の暁号に居る人にも情報を共有しとかないと。
「ガドラガ教会には聖騎士団があります、数は五百騎ほど、ベルモント司祭に忠誠を尽くしているか、聖女さまに寝返るかは不明です」
ハナさんが立ち上がった。
「聞き込みの感触では平の聖騎士は教会に忠誠を誓っているだけでベルモント司祭への忠誠心はそれほどでも無い感じですね」
「まあ、聖騎士団相手なら最悪【聖戦】を掛ければこちらの手駒にできるけど、あんまりやりたくないのよね」
「聖戦……」
「最悪そこまで覚悟しなくてはいけませんか」
【聖戦】は最後の武器だなあ。
強力なんだけど、冷ますのが面倒臭いし、後遺症残るし。
ちなみに、【聖戦】は執行命令者である、私に絶対の忠誠を強制的に抱かせる魔法だ。
洗脳みたいなんであんまり使いたくない。
ハナさんは黒板に『聖騎士団、約五百騎』と書いた。
「ガドラガ教会は古いタイプの神殿造りなので、要塞としての機能もあります。籠城されると厄介ですね」
蒼穹の覇者号で空爆もできるけど、これも最後だなあ。
なるべく人的被害が少ないようにしないと。
籠城されたら包囲して日干しにするのが良いかもね。
急な事で食糧の備蓄は少ないはずだ。
ガドラガ門前町での市街戦は勘弁だなあ。
意外に取れる手が少ないな。
「ベルモント司祭の手勢は?」
「表はミスリル冒険者のジャンさんですが……」
「私は奴とは袂を分かった、聖女さまに一生の忠誠を誓いますぞ」
「ありがとうね、ジャン」
「とんでもございませんっ」
あとは教会の裏仕事系が居るかな。
五年前の迷宮内魔導灯消灯事件も気になる。
「正体不明の手駒に、黒手のダーキン、白手のリッツオがおります」
「どんな奴?」
「ダーキンは暗い顔をした亡霊のような女で、リッツオはへらへらした小男ですよ。五年前に俺とジャネットを襲ったのが奴らだったとは……」
ドアがガチャリと開いた。
黒髪黒い服で目の下に隈があって色白の痩せた女が顔を出した。
「亡霊とは酷いじゃあない、ジャン」
「ダーキン!!!」
「ご挨拶にきましたよう、聖女さまあ、えへへへっ」
「あんた……、魔族だね」
「ご名答」
ダーキンは手を広げた。
とげとげの影のような大きな物が地面を走り私目がけて襲って来た。
「わんわんっ!!」
マメちゃんが影から飛び出して影のとげとげに体当たりした。
「マメちゃんっ!!」
ガッチャーン!!
マメちゃんの体当たりで影のとげとげは砕け散った。
「へ? なんで?」
「わんわんわんわんわんっ!!」
マメちゃんは私の前で守るように足を踏ん張ってダーキンに吠えかかった。
「影獣かあ、珍しい奴飼っているねえ、さすがは聖女さん」
「何が目的なの、ダーキン」
「知れた事、聖女さんの抹殺、ついでにベルモント司祭さんに敵対する人はここで皆殺しだよっ」
影のとげが二本、三本、地面を走り私たちに襲いかかる。
「うおいりゃっ!!」
バキーン!!
「せいっ!!」
ガシャーン!!
「……」
ガチガチガチ!!
カーチスがホウズで、ジャンが魔剣で影のトゲを砕いた。
私は障壁を発生させて影のトゲを食い止める。
「ぎゃっはっはっはっ、いいねえいいねえっ、あんたら強いわっ」
ダーキンが手を広げ印を切ると、砕けたとげとげの影の破片が広がり、どぷんと部屋の中の全員が影の世界に落ちた。
「!」
くそっ、クヌートの上位互換かっ。
だが、一度戦った事があるフィールドだ。
「あっはっは、これでお前達は私の思うままだっ」
「全員、魔力で視界を保持しろっ!! カーチスはホウズに力を貸してもらえっ!」
「おうっ!」
「え、あ? なんで? なんで落ち着いて対処してんだ? や、やだなお前」
魔力の視界で黒の地に魔力の強弱で白色のシルエットで対象が見える。
私の足下でマメちゃんが唸りながらダーキンを警戒している。
「ホウズ光臨!!」
『おうっ!!』
カーチス兄ちゃんのかけ声と共に、ホウズに光刃が閃いた。
ホウズの魔力は凄いな、真っ白で輝いている。
「くっ、難しい、目が見えないっ」
ジャンが悔しそうに言った。
「視界が取れない奴は私の声より後ろに行きなさい!」
部屋の中に居た人々が私の後ろによろよろと移動した。
影の中にうっすらと灰色の鳥が何匹も飛んでいるな。
影の猛禽類か?
(こいっ)
《いまいく》
(ヒューイじゃないよっ、でも来て)
ドーン!!
上からヒューイの巨体が降って来て鳥を何匹が踏み潰した。
「なにっ!!」
《ブレスする?》
「鳥を焼き殺せっ!! ヒューイ!!」
《わかった》
ヒューイは口を大きく開けて火を吐いた。
影の鳥がバタバタと落ちる。
「くそっ!! なぜ影の世界で普通に戦える!! それが聖女の力とでも言うのかっ!!」
なにしろ影世界戦闘は二回目だからな。
そして、呼んでいた三匹が影の世界を伝って飛びこんで来た。
「わおんっ!!」
「ばうばうっ!!」
「わおおおんっ!!」
「ペス! ジョン! ポチ!! その女を倒せ!!」
「「「わおおおおおんっ!!」」」
クヌートの影犬が影の空間を疾走して黒手のダーキンに一斉に飛びかかった。
「ぎゃーーーっ!!」
三匹に噛みつかれてダーキンは悲鳴を上げた。
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