第1106話 ミスリル冒険者ジャンと戦う
雨の中、メインストリートを皆で歩く。
雨脚が強くなり、頭上の障壁から水が落ちてくる。
道の真ん中に驟雨に打たれて大きな男が一人立っていた。
「ミスリル冒険者、鋼鉄のジャンです。ベルモント司祭の犬でさあ」
「それは豪華ね、大陸に何人も居ない冒険者じゃないの」
ボーモンさんが小声で教えてくれた。
カロルのお父さんもミスリル冒険者だったね。
ぜんぜん帰ってこないらしいけど。
「あんたが聖女マコトさんだね」
「そうよ何かしら」
「一緒に来て欲しい、大人しくしてくれれば乱暴はしない」
カーチス兄ちゃんが前に出ようとしたので障壁を張って止める。
奴は障壁に当たり、ぐえっと声を出した。
「俺が行くぜ」
「無理よ」
『無理じゃ、この我、聖剣ホウズを使ってもな。マコトよ、お主が我を振るうならば勝てるやもしれぬ』
「しないわ馬鹿馬鹿しい」
「大人しく付いて来てくれるかい?」
「何を言っているのミスリル冒険者、あなたごときが私を止められるとでも? 私は聖女なのよ」
「おい、マコト!」
黙ってろ、カーチス兄ちゃん。
アーケードの柵を跳び越えてローゼが雨の中に着地した。
私は彼女の上に障壁を掛けてあげる。
「初めまして、ミスリル冒険者のジャンさん。私は五本指のローゼだ」
「俺は五本指のブルーノだ」
「ふん、ジーンの暗殺者か、面白い」
ジャンは背中から大剣を抜いた。
轟っと音を立てて火が刀身にまとわりつく。
「五本指の二人か、勝てるか?」
「難しいわね」
私は前に出て二人と並んだ。
「さがって、ローゼ、ブルーノ」
「やらせてくれねえの?」
「勝ち目はある、あんたが後ろにいれば無限に回復できる、倒せるぜ」
「倒せるけど、あんまり良い勝ち方では無いわよ」
「そうなのかい?」
「何をするつもりだ?」
もうちょっと右か、うん、ここら辺のようだ。
「なんだ、何をしている聖女よ」
「ジャン、あなたは何故、ベルモント司祭に協力しているのかしら?」
ジャン、ローゼ、ブルーノの表情が変わった。
そうだろう、声が違う物な。
「俺は彼に命を助けられた、義によって彼を助ける。彼は俺の敵を見つけ出してくれると約束してくれた、だから助ける」
私の喉は、私では無い声でジャンに話しかける。
「ジャン、あなたは変わらないわね、騙され易くてお人好しで」
「や、やめろ、どういうつもりだ、なぜそんな声で俺に話しかける」
「ジャン、良く見て、ここを」
「! ま、まさか、こ、ここはっ!!」
「そうよ、あの夜、あたしとあなたが敵に襲われた場所よ」
「ジャネット……」
「あなたが瀕死の重傷を負わされて、私が死んだのは、この場所よ」
「やめろっ!! 貴様っ!! 俺の大事な人を穢すなっ!!」
「私たちを襲ったのはベルモント司祭の手の者よ。黒手のダーキン。私たちははめられたのよ」
ジャンは呆然として棒立ちになった。
大剣が地面に落ち、ジュッと音を立てて火炎が消えた。
私は腰から子狐丸を抜き地面に突き刺した。
「信者ジャネットの魂を、女神様の御許にお送りいたします。地上におり立ちて苦難や喜びを経てここに、この者の魂は成長いたしました」
「や、やめてくれ、聖女さま、ジャネットを天に送らないでくれっ」
私は無言で首を横に振った。
あんたに一言言うために、ジャネットはここで待っていたんだ。
送ってやるのが情けなんだよ。
地面から子狐丸を通って光があふれ出した。
呆然として涙を流すジャンの顔に優しく光が触れる。
「魂に刻まれた喜びや悲しみを女神様に奉納し、純真無垢な魂となりて、ジャネットの根源を天に送り返します」
一層輝く光の大きな玉が地面から浮かび上がり震えた。
「ご唱和ねがいます! 『光の空へ、祝福を!』」
「「「「「光の空へ、祝福を!」」」」
カーチス兄ちゃんや、ローゼやブルーノ、歩荷倉庫にいた冒険者さんたち、アーケードに鈴なりになったガドラガの冒険者や、王立魔法学園の生徒達が一斉に祈りの言葉を唱和した。
光の玉が凄い勢いで空に向かって上がっていった。
「ジャネット!! ジャネットォォ!! 俺は、俺はあっ!!」
ジャンは地面を叩いて泣いていた。
そりゃあ、悔しいだろうなあ。
ジャンは立ち上がった。
そして深々と頭を下げた。
「すまなかった、俺ごときが聖女さまに勝てる訳が無かった。あなたさまの言う通りだ。たのむ、どうか、あなたの仲間としてベルモント司祭を討たせてくれっ」
「しらねえよ、うるせえっ。ついてくるなら勝手についてこい」
「はいっ!!」
こいつは凄く強いんだろうけどなあ、お人好しの馬鹿だなあ。
ジャンはローゼとブルーノに一礼して私の後ろに付いた。
「ぐぬぬ、ミスリル冒険者と戦いたかったのに」
「ほんとだよなあローゼ」
『それだけ、マコトは怒っておるのだ』
私は振り返った。
「ああ、もう今回はさ、私が聖女の力で全部持って行くから」
カーチス兄ちゃんが肩をすくめた。
「本気のマコトと対決しなきゃならないベルモント司祭が気の毒だぜ」
ヒューイがまったくだというように、カーチス兄ちゃんの頭を羽でぺしぺしと叩いた。
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