第1104話 放課後ガドラガ門前町
アントーン先生と別れてゲートをくぐる。
先生はガドラガ実習全体の責任者だから、最後のパーティが戻るまで見ているそうだ。
係員のお姉さんが切符の裏に時間のスタンプを入れて返してくれる。
一日二十四時間はガドラガに入り放題なんだね。
まあ、実習期間中に自由探検するパーティは居ないみたいだけどね。
「うぇ~~い、放課後だ~~」
ガドラガの入り口にある柱時計を見ると三時ぐらいだね。
「さて、どうするの? 観光する?」
「っても、雨降りだからなあ、残念な事に」
ここら辺は木造の屋根があるけど、外は本降りだ。
ちょっと肌寒いね。
「おまえら晩飯は? レストランに行くか?」
カーチス兄ちゃんが聞いて来た。
「ガドラガのレストランってどうなの?」
「どうだろう?」
「わりと美味しいよ、馬鹿高いけどっ」
「ミリアナ先輩、行ったんですか?」
「せっかくだから予約して行ったよー、他は船ご飯だったけどねー」
「これから私たちはメインストリート観光だけど、一緒に行く?」
「ちょっと冒険者ギルドに用事がありますので」
「そっかー、残念、また明日ねーっ」
「またねーっ」
「マメちゃんにも挨拶しといてね~っ」
ほがらか元気なラクロス三勇士先輩たちは去って行く。
「阿呆だが明るい人達だな」
「うん、良い人たちだよ、ダルシーと同室なのよ」
「そうか、女子にも色んな人がいるな」
ベロナ先輩たちも歩き始めた。
「先輩達はこれからどうするんですか」
「ちょっと疲れたから、船で休むよ、また明日ね」
三人とも顔色が悪いな。
やっぱりトラウマを殺して迷宮に入るので無理してたのかな。
「また明日、マメちゃんによろしくね」
「明日もよろしくな」
ベロナ先輩達は第三駐機場の方へ歩き出した。
「さあ、早く冒険者ギルドに行くわよ」
「「「……」」」
命令さんがいきなり声を掛けてきたので黙り込んでしまった。
「ああ、俺たちも用事があんだ、ガドラガの道案内を雇いにな」
「マジで迷宮を攻めるつもりなのね」
「まあなあ、なんか良い物を見つければ箔も付くしよ」
ジェルマンのくせに意外だな。
みんなで冒険者ギルドを目指す。
と言っても、迷宮の入り口からはわりと近い。
また、ヒューイが雨の中で嬉しそうに歩いている。
迷宮から濡れずに行けるようアーケードとなっていた。
ここら辺は冒険者用品街なのか、武器屋や防具屋、道具屋などが立ち並んでいる。
「どれもこれも高いわね」
「ガドラガ大玄洞値段なんだよ嬢ちゃん」
赤ら顔の道具屋のおじさんが笑って言った。
「ポーションは、うわ、高いわね」
「でも良く効くぜ」
カロルがラベルをのぞき込んできたので見えるように動かした。
これ一本でカロルのポーションが二本買えるな。
「一本頂戴」
「あいよ、やっぱポーションは無いとな、安心がちがうぜ」
ダルシーが現れて銀貨を払った。
「瓶も品質が悪いな」
「問題は中身よ、後で調べて見るわ」
カロルはポーションを収納袋に入れた。
「おらおら、急げっ!! 雨だからってさぼってるんじゃないっ」
パシリパシリと神父服の男、カラス神父だな、が鞭を振り回して歩荷の人を追っていた。
歩荷?
どの人も片手が無かったり、足を引きずったりしている障害者だ。
ボロを纏って垢だらけで、背中に大きな荷物をしょって歩いている。
なにしてんだ、こいつ……。
思わず障壁も張らずに道に出ていた。
「なにやってるの、カラス神父」
「え、ああ、これはこれは聖女さま、歩荷ですよ歩荷」
「どうして教会が歩荷しているの」
ざざっと、私の額に雨が降りかかった。
ヒューイが寄ってきて羽を広げて雨を遮ってくれた。
「こいつらはですねえ、教会に治療費を払えなかったんで、歩荷で現物弁済してるんですよ、ははは、まったく困った奴らでして」
「障害を負ってる人を……、どこから歩荷させてるの」
「麓の村ですよ、いやあ、朝から大変でして、やっとガドラガに上がって来たわけです。何しろ馬車だと時間が掛かってしまいますからね、ガドラガの食糧は歩荷で上げている訳です。大変なんですよ、ここは聖女さま。王都に居るあなたさまは解らないかもしれないですけどね」
……。
私の殺気を感知したのかダルシーが現れた。
「殺しますか」
「え、え、な、なんでですか、私は教会の仕事をちゃんとしてますよ、何を怒ってるんですか?」
「これはあんたが考えた仕掛けなの? カラス神父……」
「ち、ちがいます、その……」
カラス神父は横を見た。
ベルモント司祭が雨の道に出て来た。
「これはこれは聖女さま、大変お見苦しい者を見せてしまいました。この者たちは教会で尊い聖者たちから治療を受けたにもかかわらず、料金が払えない哀れな者達でして、酷いようですがこうして費用を弁済しているのですよ、これはガドラガ教会固有の問題……」
「だまれ」
「は?」
「お金が払えないからって障害のある人達を奴隷のように扱うのが女神さまの教えか、お前は総本山で何を学んできたのか、ベルモント司祭」
「はははははっ、これは異な事を、聖女さまとおっしゃられておりますが、あなたさまはまだまだ若輩、階級は司祭と司祭、私の方が先任ですぞ」
「エイダさん、今すぐ大神殿に戻る」
【了解いたしました、急行いたします】
蒼穹の覇者号で行って、聖騎士団を拾って二時間というところか。
「……、な、何をっ」
「お前は腐りきっている、聖騎士団でガドラガ教会を殲滅する」
「ば、馬鹿なっ!! そ、そんな横暴が許されるとでも思っているのか」
もう、お前はゆるさん、リンダさんたちと殲滅してやる。
と、思ったら歩荷の一人が地面に膝を付いた。
いかん、怒りすぎて回りが見えて無かった。
私は急いで歩荷隊の上に障壁で屋根を作った。
「だいじょうぶ? ごめんなさいね」
「と、とんでもない、わしらが悪いんでさあ、お気になさってはなりませんぜ」
「そんな事は無いわ」
私は詠唱を始めた。
『来よ、我が祈りを持ってこの優しき人々の憂いも悲しみも癒やしたまえ、エクストラヒール』
雨の路面に青白い光が灯りくるくる回転しながら大きな魔法陣が歩荷隊を包んだ。
なんだか、いつもより魔力の動きが強い。
迷宮に近いからか。
「腕がっ! 腕が生えてきたっ!!」
「足が、足が元通りにっ!!」
「目がっ、聖女さまっ、目が見えます、聖女様ああっ!!」
「さあ、みんなは自由です、ガドラガから去るもよし、迷宮で冒険者に戻るもよし、すべての負債はこの私、聖女マコトが引き受けますっ」
歩荷隊の人々は荷物を放り出して跳び上がって喜んだ。
おっと、ガドラガのメインストリートの人や冒険者さんたちがアーケードの床に膝を付けて私を拝んでいるぞ。
ファンファンファンと蒼穹の覇者号が降りてきた。
「お待ち下さい、歩荷の者達をどうするのですっ!?」
「大神殿に保護します。歩荷の人はここに居る人だけ?」
「しゅ、宿舎にあと十人ほど、お、お助けくださいますか、聖女様」
「もちろんっ」
カロルが水たまりを飛び越しながら障壁の屋根の下へ来た。
「手分けをしましょう、私が大神殿に歩荷さんたちを運んで行くわ、マコトは宿舎の人を保護して黄金の暁号へ連れて行って」
「カロル、おねがいできる?」
「もちろん、で、聖騎士団はリンダさんを連れてくるので良いのね」
「ええ、第三騎士団を全員積んできて」
リンダさんの名前を聞いてカラス神父が青ざめた。
「俺が残って宿舎に案内しよう」
「いいの?」
「乗りかかった船だよ聖女様」
そう言うとおじさんはニヤリと笑い、往年の冒険者時代の面影を見せた。
よし、そうしよう。
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