第1101話 ガドラガ大玄洞に侵入す
切符にハサミを入れて貰ってゲートをヒューイとくぐる。
その先は……。
普通のホールであった、大玄洞の入り口は奧の階段のようね。
アントーン先生の先導で奧の螺旋階段を下りると大きな扉があって、そこからガドラガ大玄洞のようだ。
ヒンヤリとした空気が漂ってくるね。
ちょっとかび臭い感じもする。
中には魔導灯が灯っていてわりと明るいな。
「ガドラガ大玄洞の地下五階までは魔導灯が灯っていてランタンは要りませんが、念の為リュックの中には入れておいてくださいね。五年前のトラブルで魔導灯が全部消えた事がありまして、その時は学生が十人ほど遭難し、五人が死亡しました」
「トラブルの原因は何だったんですか?」
カロルが質問をするとアントーン先生首を横に振った。
「暗殺とも陰謀とも只の事故とも言われています、原因は不明です」
それは大変だな。
魔導灯は前世のようにケーブルに繋ぐタイプではなく、個々に魔石を入れて光らせている。
これが一斉に消えるのは考えにくい。
陰謀か、それとも魔法的な障害だったのか。
「マコトが居れば灯りが無くても怖くないわよね」
「まあ、そうだけど」
聖女候補の『ライト』は強力だからね。
ガドラガの門をくぐる。
おおおおおお。
四方八方が石造りの壁で圧迫感があるな。
《故郷のようだ》
「ヒューイは迷宮産だったっけ」
《そう、海の向こうの迷宮》
アライド王国のどっかだな。
一度里帰りさせてあげたいな。
石造りの回廊を歩いて行く。
スライムがたまにうごめいているね。
ブルースライムだ。
ホルボスダンジョンでも見たな。
「一階層目はスライムとゴブリン、カピバラなどが出ます」
わりと普通だな。
「ガドラガ大迷宮は先史魔導文明の大崩壊時代に出来たと言われ、その頃から魔石を産出し、色々なアイテムを産しております。ここらあたりの石造りの回廊は先史魔導文明の遺跡とも言われ、現代では失伝した高度な建築魔法で組まれております」
そうだなあ、石と石の隙間にカミソリも入らないぐらいきっちり組まれている。
「崩れたり崩落したりしないんですか?」
「良い質問です、キンボールさん。ダンジョンというのは高度な自己再生の魔法が掛かっており、一部が壊れると徐々に直っていきます、まるで生物のようにね」
「自己修復の魔法が掛かっているのね。魔法陣はどこなのかしら」
「石組みを剥がした所、裏側にびっしり未知の魔法陣が書かれていたそうですよ」
「それは凄い、研究すると自家製迷宮も作れそうですね」
「歴史上何人かは迷宮の自作に挑みましたが、短期間で崩壊し、いままで残っている迷宮は皆無です」
ホルボスダンジョンはビアンカさまの自作迷宮だったのかな。
色々となぞが深まるね。
アントーン先生の説明はよどみなく歌うように続く。
ガドラガの解説本を読んでアウトラインは知っていたけど、実際に迷宮の中で聞くと臨場感があるね。
《もたれてくる》
ヒューイの方をみたら、ナッツ先輩がうつらうつらしながらヒューイにもたれかかっていた。
他のラクロスの先輩も眠そうにしていた。
あんたらーっ。
脳筋かっ、勉強が出来ねえ子たちだなっ。
いけ、マメちゃん。
「わんわんっ」
「はっ、マメちゃん!!」
「ああ、マメちゃんマメちゃんっ」
「可愛い可愛い」
「マメちゃん抱いていても良いですから目を覚まして話を聞いていてください」
「は、はーいっ」
アントーン先生を見たら苦笑をしていた。
「可愛い犬だね、しかし、どこから」
「普段は私の影の中に隠れているんですよ」
「それはすばらしいねっ」
「授業をどうぞ」
「あはは、ありがとう、でもキンボールさんとオルブライトさん、ブロウライトくん以外は復習になるからね、しかたがあるまい」
本当に温厚な先生だなあ。
命令さんなんか初見なのにアクビをしているぞ。
「ガドラガ大玄洞の一階は迷宮関係の展示も行っているんだ。ほらごらん、同一個体が時間を置いて再ポップした標本だ」
ウォードッグの剥製が二体、ガラスケースに入れられて展示されていた。
同じ場所に同じ大きさの傷がある。
「このように、迷宮に出る魔物は過去にここに迷い込んだ魔物が迷宮に取り込まれて、再構成されて出現するもの、と言われているね」
ほほー、これは面白い。
ヒューイの故郷に行くともう一匹ヒューイをゲットできるのかな?
《魂は一つだ》
「あ、そうか、この二体の剥製はどちらも遺骸だから、魂は無いのね」
「ん、どうしたのかね、キンボールくん」
「いえ、ヒューイの故郷の迷宮に行けばもう一匹ヒューイが取れるかなって考えてたら、この子が、《魂は一つだ》って」
「なるほど、それは面白い考えだね、そうか、迷宮産の魔物と会話出来るのかね、では倒されたら意識は前に戻るのか、それとも生きていた時間分記憶がのびるのか、どっちだろう」
「どっちかな、ヒューイ?」
ヒューイはちょっと考え込んだ。
《何回も何回も生きて死んで生きて死ぬよ、外に出たときは嬉しかった》
「生き死にしている間の記憶はあるみたいですね、なるほどなあ」
「そうだったのか、生き死にして経験を積み、迷宮の奥に向かうのかもしれないな、これは面白い、論文にして発表してみたいな」
「お手伝いしますよ、先生」
マメちゃんも生きて死んでたのかな。
いや、彼は一回目だ、うん。
勘だけど。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




