第108話 怪二年生男子に森に誘い込まれるんだぜ
光リボンをもう一本作って、カロルに頭に付けてもらった。
おそろいおそろい。
二人で一緒にリボンをピカピカさせて鏡に映るとなんだか仲良し感があふれるねえ。
ああ、なぜこの世界にはプリクラが無いのだ。
プリクラさえあれば、これをシールにして、色んな物にはっ付けるのに。
ほっぺとほっぺをくっつけ合って感触がふにふにだ。
うへへへ。
「よし、良い感じね、男子にはハンカチーフに付与しようかな」
「いいわね、ポケットから光る布が出てたら目立つわね」
うひひ、良いねえ、良いねえ。
「じゃあ、お邪魔しました、まったねー」
「うん、またね、マコト」
カロルは錬金釜にカットした薬草を入れながら私に手を振ってくれた。
手を振りかえして錬金室を出た。
販売所のアンヌさんにも手をふって廊下を行く。
アンヌさんもにっこり笑ってお辞儀をしてくれた。
「さて、お風呂にでも行こうかな」
「はい」
すっとダルシーが横に出てきた。
なぜか、チェストに入れていたお風呂セットを持っておる。
うえー、またダルシーに隅々まで洗われるのかー。
顔をしかめていると、ダルシーはにっこり笑った。
「光るリボン、素敵ですね」
「そうでしょ、そうでしょ」
嬉しくなった私はリボンの端を触って光らせて見る。
廊下のガラスに光が反射して綺麗だな。
通り過ぎる生徒がこちらを振り返る。
えっへっへ、目立つなあ。
ニマニマして油断していたら地下大浴場につれこまれ、ダルシーにまた隅々まで洗われた。
くそうっ。
また髪がピカピカだよっ。
リボンも綺麗に付けてくれたよっ。
あー、ドライヤーが欲しい。
ドライヤーを魔導具で作るとなると、筒状の物に、風魔法を付与して風を出して、火魔法で温度を上げる感じかな。
魔力供給は火か風の魔石で、スイッチ回路と温度調節の抵抗回路を組み合わせると。
お、意外に簡単にできるんじゃないかな?
風属性って知り合いにいたかな?
火はカーチス兄ちゃんか、魔法陣を組めるかな。
プラスティックが無いから、木製は燃えるか、金属かあ、熱くなりそうだな。
石とかが良いかな、うーむ。
開発チートをせねば。
大浴場を出て、はたと気がついたが、食堂バイトは終わってたので、夕方まで暇やん。
ぐぬぬ。
こういう時は学園内散歩だ。
……また、ビアンカ様から何か貰ったらどうしよう。
ここは元ビアンカ邸があった所らしいからなあ。
遺跡には入らないようにすればいいか。
女子寮の外に出ると風が涼しい。
ほてった体を冷やしてくれるね。
ふらふらと学園の敷地を歩く。
噴水とか、崩れた壁とか、すごく古そうなのはビアンカ邸の名残なのかな。
二百年だからねえ、それは崩れるよなあ。
図書室にビアンカ様の邸宅の様子とか書いた本が無いかな。
無いよな。
ビアンカさまの伝記が一冊あっただけだし。
大神殿の図書室の方がありそうだね。
光魔法が時空間魔法なら、過去知の魔法もありそうなもんだが、ビアンカさまはケチだから、教えてくれないだろう。
それがあれば、ビアンカ邸の在りし日を目撃できるのに、残念だ。
自分で編み出せって言われてもなあ、雲を掴むような話だしね。
予知、過去知、転移魔法は、編み出したいなあ。
でも、あんまりチートを重ねると、人の枠を飛び越しちゃう気がしてコワイね。
今でも大概チートなんだから、ほどほどが良いかも。
考えながら中庭方面から、池に向かう。
池には柵が作りかけだね。
業者さんが作業をしている。
無粋だけど、やっぱり池は危ないからなあ。
うっそうとした森が近くなってくる。
今日は昨日とは別の森の入り口から入ろうかな。
「マコトさま、怪しい生徒が」
ダルシーの声だけが耳元でした。
前方に、顔色の悪い男子生徒がいて、手を振っていた。
「ダルシーは隠行のまま付いて来て」
「かしこまりました」
しかし、怪しい。
超怪しい。
近づくと、男子生徒のネクタイは青だ、二年生だね。
「す、すまない、君は聖女候補さんだね、も、森の奥で友達が魔物に襲われて怪我をしたんだ、一緒に来てくれないか」
「……」
えー?
なんだこの見え見えの誘いは?
もうちょっと自然な工作しろよう。
私に護衛が付いてたらどうすんだ?
私は、ナノサイズの光感知魔法の輪を発射する。
ピーーーン。
ふむ、森の中にはあと二人の男子生徒、小道の奥に馬車と男性だな。
私とダルシーで制圧できるかな?
誰かを呼ぶべきか。
「解りました、大変ですね-、一緒に行きましょう」
「あ、ああ、こ、こっちだ」
なんか凄い汗だな、この人。
具合が悪いのか?
「学園の森に、どうして魔物が?」
「わ、わからない、いきなりオオカミの魔物に襲われてっ、仲間が怪我を」
ん? 左手に包帯してるな。
人差し指が無くなってるっぽい。
髑髏団の一人か?
「その指は魔物に?」
「えっ、あ、いや、そ、そうだよ、うん、急いで手当したんだ」
よせやい、急いで手当した包帯じゃないぞ。
「ちょっと手を貸して下さい」
わたしは怪生徒の手を取った。
『エクストラヒール』
包帯を突き抜けて人差し指がにょきにょき生えてきた。
すごいぜ、さすがエクストラヒール。
欠損した手足でも生やせる治癒魔法だぜ。
「えっ、わわっ、えーっ!!」
「これで大丈夫です、ちょっとまってくださいね」
ついでに頭に手を乗せて、『キュア』を掛けた。
よし、顔色が良くなったな。
「……あ、ありがとう、その、聖女候補さん……」
「マコトですよ、キンボール家の娘です」
「ぼ、僕はライアン、カソード男爵家のライアンです」
そうか、ライアン、真面目そうなのに、ポッティンジャー公爵家派閥とかに入ってちゃだめだぞ。
あと、髑髏団もいかんぞ。
何か言いたげなライアンを押すようにして森の奥に行くと、二年生の男子が二人、うんこ座りをしていた。
二人とも顔色悪いな、なんだ? 徹夜明けなのか?
「ぐえへっへっ、まんまと誘われてきたなあ、偽聖女め」
「うえひっひっひ、可愛いじゃあねえか、なあ、先にやっちまわないか」
ダルシーが怒気と共に出てきそうなので手で制止した。
「きゃあ、だましたのねっ、なんて酷い人たちなのー」
私の可憐な悲鳴が森に響き渡ったのであるよ。
さて、どうぶっ殺すかな。
 




