第10話 夕食はホールで寮生全員で食べるのだが、そこでも事件
「マコト、起きなさいよ」
「んふぇ? 私寝てた?」
「ぐっすりだったわよ、今日はいろいろ大変だったでしょうからね」
そういや、望まぬイベントが盛りだくさんだったなあ。
今日は、まだ、入学一日目なのに、三人も攻略対象と知り合ってしまった。
ゲームではありえんぜよ。
普通に当該パラメーター上げたら出てきんさいよ、攻略対象を沢山出すと、フラグ管理が大変なんだからね。
「今日は寮のホールで歓迎会だって、おいしい物がでるらしいわよ」
「それは楽しみ」
私はうーんと伸びをしてから立ち上がった。
「マコトって気ままで猫みたいね」
「え、私はこんなに人様に気を使って生きているのに」
「ぷっ、そうは見えないわよ、やりたい放題してるように見えるわ」
解せぬ。
私はこんなに礼儀正しく頑張っているのに。
カロルと一緒に、階段を降りて、多目的ホールに入る。
おおお、これはあれだ、ハリーポッターの寮の夕食会みたいな感じ。
フクロウ飛ぶ奴。
大きくて長いテーブルが何列もあって、そこに、ごちそうが沢山並んでいる。
ひゃあ、ローストビーフとか、ミートパイとか、シチューとか、美味しそうな料理が山盛りだなあ。
飲み物は、ノンアルコールのブドウジュースか。
まあ、16才の子供にワインは出さないわな。
前世で大学生だった私としては、ビールとかチュウハイとか欲しいなあ。
「どこに座っても良いのかな?」
「ええ、良いんですのよ、マコト様、一年生はあそこあたりに固まっていますわよ」
「あ、ありがとうございます」
上級生っぽい、おっぱいの大きい美人さんに教えて貰った。
リボンが緑色だから、ここら辺は三年生のテーブルっぽいね。
おっぱいさんにお辞儀をして、一年生テーブルへ。
上流貴族と、下級貴族でテーブルが別れてる感じだなあ。
ここは無難にメガネちゃんの隣に座ろうかな。
「カロルはこっちで大丈夫?」
「問題無いよ、マコトの近くなら」
「ふおー、カロル大好きっ」
「もう、マコトったら」
カロルとイチャイチャしてたら、上級貴族の令嬢からの目が冷たい。
「あれは同性愛者ですの?」
「汚辱令嬢と、パン屋の娘、お似合いのカップルですわ」
「恥知らずですわね」
くそう、陰口攻撃かあ。
イジメは良くないぞ。
あと、カロルに汚辱をつけんな、奇声を上げながら殴り倒すぞ。
「さあ、皆、席についたね、僕は舎監のエステルだ、よろしくね、子猫ちゃんたち」
うわ、エステル先輩は、なんだか宝塚っぽい令嬢だなあ。
エステル様ぁ、って目をハートにして見ている令嬢もいるし。
この人はゲームでは見なかったな。
女子寮の舎監というと三年生だろうから、主人公と接点がなく描写する暇も無かったんだろうね。
しかし、乙女ゲームの世界と思っていたのだけど、ここは本当にゲームの世界なのかなあ?
ゲームで描写されてなかった、膨大な世界設定はどこから来たのだろう。
どうみても、設定が無い神殿とかにも、たくさんの生きている人がいる。
同室のメイドさんたちだって、ゲームでは名前もないだろうけど、彼女たちには確かな人生があるのだと思う。
逆、なのかもね。
元々こちらの世界があって、ゲーム制作者に必要なデータだけが、脳内降臨したとか。
ここが、誰かの脳内で自然発生したとすると、データ量が膨大すぎると思われる。
もしくはー、コワイ考えで、嫌なのだけど。
私がコミケの追い込みで倒れた床の上で、鼻血をながしながら夢を見続けているか、もしくは病院で昏睡状態になって夢を見続けているだとか……。
うわー、コワイコワイ。
「今回の宴は、西女子寮の歓迎の宴だよ、どうか、楽しんで欲しい。そして、明日からの勉学への励みにして欲しい。この学園は、とても有意義な場所だから、青春を謳歌してくれたまえ。そして、勉学に、剣に、魔法に、芸術に、恋に、自らの可能性を爆発させて、未来の王国を背負う素晴らしい令嬢になってくれたまえ。これは僕からの切なる願いだ。では、みんなの未来に乾杯っ!」
よし、乾杯。
うはは、食べるぞー。
ミートパイ美味い~!
ブドウジュース甘い~!
ローストビーフ美味しい~!
「マコトは、本当に美味しそうにたべるね」
カロルが微笑んでそう言った。
「実際美味しいから、明日からの寮の夕食は、これくらい美味しいのかな」
骨付き肉を頬張ったぐるぐるメガネちゃん、コリンナちゃんがこっちを向いた。
「そんなわけないじゃない。これは、上級貴族さま用の食事よ。明日から、下級貴族向けには、もっとパサパサして美味しくない物がでるわ」
「まじか~、コリンナちゃん、じゃあ、沢山食べないとね-」
「マコト、そちらの方は?」
「頑張り屋さんのコリンナちゃん。同室なんだよ。彼女はカロル、えっと、カロリーヌ・オルブライト伯爵令嬢さま、私の親友」
「これまた、親友認定が早いわね」
「よ、よろしくおねがいします、オ、オルブライト様」
「よろしくね、コリンナ様、カロリーヌでいいわよ」
「そ、そんな、恐れ多いっ」
カロルは伯爵令嬢だからなあ、男爵令嬢だと、身分差でおどおどしてしまうかあ。
綺麗なメイドさんが、生徒にスープをついでくれる。
テーブルの上は冷えた物が多いから、暖かいスープはありがたい……。
ん?
私の目の前のボールに注がれたスープだが……。
なんか、金臭い、かな?
ぴっと、手から細い光線を出して分析する。
光の分析魔法『オプチカルアナライズ』だ。
ふむ。
「カロル、チェーン君もってきてる?」
「もう、なによ、人のゴーレムに勝手に名前をつけて……。なに?」
「あそこのメイドを拘束できる? 密かに」
カロルのスープもピッと光線分析、コリンナちゃんのも。
「? なにしてるの? 魔法?」
「コリンナちゃんのスープは大丈夫ね」
カロルが眉を上げた。
ジャリジャリジャリとチェーンがうごめく音。
机の下を蛇のように這って動いてるっぽい。
私は体の周りに、光分子を一つだけつなげた細い光線の輪を作り、室内に広げる。
光の輪は、私の魔法的な視界だ。
ナノサイズの光が触れた物を、立体的に脳内に投影してくる。
中級光魔法『フィールドライトサーチ』だ。
本来は、迷宮で索敵をするための魔法だね。
聖女マリア様ご謹製の魔法らしい。
ファンタジーというよりも、SFっぽいよね、この魔法。
襲撃者に後詰めはいるか?
いたっ、カーテンの影に背の高いメイドがいる。
筋肉質、スカートの下にボウガン。
うわ、口封じに実行者を殺す気、まんまんですか。
「金髪のメイド?」
カロルが小声で聞いてくる。
「うん、金髪」
「で、どうするの?」
「隙間無くチェーン君で拘束して、矢が通らないぐらい、今っ!」
机の下から出てきたチェーン君がメイドを拘束する。
真っ黒い鎖ゴーレムが、ぐわっと現れ、カワイイ金髪メイドを襲う姿は、さながらホラーであるな。
女生徒たちがチェーン君に気がついて、悲鳴を上げた。
メイドさんは、チェーン君に巻き付かれて動きを止めた。
カーテンの影から、ボウガンが発射されたが、チェーン君の鎖の体に当たり跳ね返った。
『ライトッ!』
ライトの魔法をカーテンの影に目がけて高速発射。
ライト玉がカーテンを通り過ぎた瞬間、四倍の魔力を注ぎ込み、崩壊させる。
ボンッ、と音を立てて、膨らんだカーテン越しに閃光が瞬いた。
「ぎゃあああっ、目が目がーっ!!」
ボウガンメイドが目を押さえて転げ出てきた。
光の輪を再発射。
私を見ている人間を探す。
いた、二年のテーブル。
悪鬼のような顔で私を睨んでいる。
振り返り、彼女と目を合わせる。
驚愕の表情を浮かべる二年生令嬢。
私は、にやりと笑い、椅子の上に立ち上がり、毒スープの入ったボールを手にして、ごくごくと飲み干した。
「ちょっとっ! マコト、毒がはいってるんじゃないのっ!!」
カロルが慌てて止めようとするが、必要ないぜ。
「聖女に毒なんか効かないっ!! 無駄な事をすんなっ!!」
と、二年生令嬢に怒鳴ってやった。
令嬢は恐怖の色を浮かべると、ふらっと揺れて、ご馳走の皿をひっくり返しながら気絶した。
「ざまあっ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
護衛女騎士さんたちがやってきて、金髪メイドとボウガンメイドは捕まり連行、歓迎会は中止となり、私は、舎監のエステル先輩にめっちゃ怒られた。
「もっと穏便なやり方は無かったのかい、マコトくん」
「いや、早急に金髪メイドを確保しないといけませんでしたから」
「それにしたって」
「金髪メイドは捨て駒です、毒に気がついて誰かが金髪を取り押さえたら、ボウガンで殺害して口止めですよ」
「うむう、だが、寮内で魔法の発動は、寮則で禁じられているのだし」
「人死にが出るより、なんぼかましではないでしょうか?」
「まあ、そうなんだけどさ。校内で毒殺未遂だなんて、学校始まって以来かもしれない。……ちょっと、君はなぜ、モンテルノ風子牛のシチューをパクパク食べているんだいっ」
「シチュー美味しいですよ、エステル先輩」
「もー、君は困った子猫ちゃんだなあ」
ろくにご飯も食べれずに、護衛女騎士さんたちの事情聴取を受けていたのだから、これくらい勘弁してほしい。
というか、こんなに豪快に晩餐の料理が余って、もったいないじゃないですか。
もぐもぐ。
あたりでは護衛女騎士さんたちが、現場検証していて、多目的ホールには、私と、エステル先輩と、カロルと、おっぱいさんしかいない。
おっぱいさんは副舎監さんらしい。
なんか、キラキラした目でうっとりこっちを見てらっしゃるぞ。
エステル先輩は周囲を見回し、声を潜めた。
「で、卒倒した二年生、パメラ・ゴーフル子爵令嬢が、この毒殺劇の犯人だと、そう言いたいのかね」
「たぶんですが。私が威圧したとき、犯行がばれたと思い、卒倒したんでしょう」
「証拠は」
「まったくありませんから、こっちからの告発はできないです」
「ふう、まったく」
エステル様は、目を閉じ、やれやれと首を振った。
しかし、宝塚系美少女がそういう仕草をすると絵になるなあ。
「マコトさまの回りには陰謀がうずまくのですわね。敵の悪巧みをこの華奢な肩で背負って、親友のカロリーヌ様を守ってらっしゃるのね、素敵だわ、素敵だわ」
「ちょ、触んないでくださいよ」
「ユリーシャ、今は、その、控えたまえよ」
ユリーシャ・アップルビー先輩は感極まったように私の手を引き、ぎゅっと抱きついてきた。
うわあ、おっぱいが、顔がおっぱいに包まれるっ。
「おことわりですわ、エステル様。わたくし、マコトさまの朝の金的令嬢爆誕も、この目で見ておりましたの。こんなにお人形さんみたいに可愛らしくて愛らしくて華奢なのに、大男のマイケル卿に一歩もひかない男前。そして、令嬢としては口にもできない部分を、容赦なく蹴り上げ、昏倒させて、魔法騎士相手にまさかの大金星。今回の悪辣な陰謀に対しても、雄々しく毒杯を飲み込み「聖女に毒は効かぬ、無駄な事をするなっ!」と、愛するカロリーヌ様を守って悪徳令嬢に大喝し、哀れにも卒倒させる。ああ~、素敵ですわ~、しびれますわ~、あこがれますわ~」
やめろー、おっぱいで窒息するー。
「あの、アップルビー様、マコトが窒息してしまいますので」
「あら、わたくしとしたことが、はしたない。興奮してしまいましたわ」
はあはあ、ありがとうカロル。
お、なんだなんだ?
口をとがらせたカロルが、私の肩に手を回し、頭をきゅっと胸に抱きしめてくれたぞ。
う、うむ、嬉しい、とても嬉しいのだが、君のちっぱいでは、私の顔は包めないぞ。
くくく、嫉妬か、私がユリーシャ先輩の胸に豊満なおっぱいに包まれたから、嫉妬したのか、このカワイイ奴め。
ぐふふ。
「な、なんか言いなさいよ、マコト」
何も言わずに、顔をこしこしと、カロルのちっぱいに擦り付けたら、ひゃんとか言いおった。
カワイイなあ、カワイイなあ。
カロルの生ちっぱいを舐めたい。
くんかくんか。
「わっ、匂いを嗅がないでっ!」
赤面したカロルに突き飛ばされて離れたら、現場検証の護衛女騎士の人が口を覆って笑いをこらえていた。
あー、なんか、すいません。
「尊いわ、尊いわ」
「君も大概にしたまえよ、ユリーシャ」




