第1088話 新しい入浴剤を開発するぞ
エレベーターに乗ってカロルの部屋にお邪魔する。
やっぱり漢方薬みたいな匂いがして落ち着く部屋だなあ。
マメちゃんが目を覚まして影から出て来て、あちこちに鼻をつっこんでクンクン匂いを嗅いでいた。
カロルが黙ってマメちゃんを抱き上げてなでなでしていた。
「やっぱりマメちゃんは良いわね、おちつくわ」
アンヌさんも出て来て、マメちゃんをなでなでしていた。
珍しく表情が緩んでいるね。
「さて、今回はどんな入浴剤を作りましょうか」
「梅雨時だから、さっぱりサラサラするのが良いな」
「そうねえ、前のはペパーミント、オレンジピール、リコリスだったから。ローズを中心に、ラベンダー、ローズヒップかしらね」
「ほうほう、効能は?」
「ローズは皮膚を整えて、ラベンダーで沈静、ローズヒップはシミソバカスの予防ね」
「おお良いねえ」
さっそくカロルは薬草棚からそれぞれのハーブと薬草を出してまな板で刻み始めた。
トントントンとリズミカルで良い音がする。
マメちゃんはアンヌさんに抱かれて撫でられている。
カロルは、大釜に刻んだ材料を入れて、純水を注いだ。
火魔石に指で触ってスイッチオン。
「マコト、おねがいね」
「まかせてっ」
カロルから混ぜ棒を渡されて、釜の中身をぐるぐる攪拌する。
おお、バラの香りがするね。
ローズヒップってなんだ、と思ったら、バラの実らしい。
ラベンダー以外はバラ関係だね。
ぐーるぐーる。
回す回す。
煮え立つまで魔力は入れてはいけない。
ただ、かき回すのみ。
意外に手の力が要るんだよね。
けっこう大変。
ぐーるぐる。
煮え立ち始めたので、混ぜ棒にヒールの魔力を込めてぐーるぐる。
混ぜる混ぜる。
ぐーるぐる。
はあはあ、腕がだるーい。
ヒールの魔力は手の平から混ぜ棒に直結しているので、途中の手には作用しないのである。
ぐーるぐる。
だんだん重くなってきた、もう少し。
ぼわん!
赤い煙が立ち上がり、鮮やかな赤の聖女の湯の素ができあがった。
綺麗綺麗。
ほんのりとバラの匂いがする。
「わあ今回のは綺麗ね」
「そうでございますね」
マメちゃんがアンヌさんからカロルにパスされ、彼女は瓶に聖女の湯の素を詰め始めた。
中瓶、小瓶、結構出来るね。
わあ、日に透かすと本当に赤いなあ。
今日は雨だから日は出てないけどね。
ちょっとのこった聖女の湯の素を舐めてみた。
前世のバラガムみたいな味がするな。
「わんわんっ」
「マメちゃんは舐めちゃだめよ」
イヌ科の動物には良く無い薬剤は多いからね。
具合が悪くなると困るしな。
まあ、キュアかヒールで治るだろうけど。
「時間停止かけようか」
「そうね、そうすれば長期保存ができて良いわね」
アンヌさんにテーブルに瓶を並べて貰って、えいやと厚みのある障壁を作り、瓶以外の部分の所を消した。
よしよし、時間停止も慣れて来たな。
マジックポイントの消費が激しいのが玉に瑕だね。
「いつものように小瓶は王家とか顧客に流すわね」
「そこらへんはよろしくね」
「出来た物は集会室の金庫に入れておきましょう」
カロルは瓶を収納袋に入れた。
大きい収納袋は良いなあ。
一仕事終わったので、応接セットに座って、アンヌさんの入れてくれたハーブティを飲む。
ああ、落ち着くねえ。
いつもの異世界ルーベラも美味しい、カリカリ。
マメちゃんも食べる?
ぽりぽり食べてるね。
可愛いなあ。
「明日からガドラガね」
「何時ぐらいに出発すればいいんだろう」
「黄金の暁号は朝に出発のようですね」
ふむ、時間合わせて併走するか。
それとも速力に任せて先に行くか。
「明日の天気はどう?」
私は胸につけたブローチに声をかけた。
【一日中雨ですね】
「雨かあ」
「雨降りの飛行も楽しいわ」
そうだね、カロルと一緒ならどこだって何だって楽しいね。
私たちは顔を見あわせて笑った。
幸福感が胸からポカポカと湧き上がるね。
「冒険の装備の方は大丈夫?」
「一応、この前のホルボスダンジョンの時のがあるけど」
「まあ、大丈夫かな、靴は運動靴ね」
「そうね、ローファーだと危ない」
「装備は、ああ、装甲聖女服だったわね」
「そうだよー、カロルは?」
「一応皮鎧に皮籠手、皮脚絆ね」
金属製の方が防御力高そうに見えるのだけど、重いので敏捷を削ってしまうのだよね。
皮装備は良い感じかも。
特に足りない物はなさそうかな。
カーチス兄ちゃんもよく迷宮行ってるから装備は大丈夫だろう。
「朝ここから発ってガドラガ着、黄金の暁号を待って、二年生と合流して、実習に参加かな?」
「そんな感じね、七日間の内、自由に潜れるのは三日ぐらいかな」
「ひえ、レアキメラ捕まえられるかな」
「ガドラガで案内のシーフさんとか雇おうか」
「うーん、ダルシーにアンヌさんと斥候系は多いんだけど、私のサーチも使えるし」
「それでも道案内とか必要じゃないかな」
「それもそうか」
しかし索敵に優れたパーティになりそうだなあ。
ハイノ爺さんとかに聞いて良さげな盗賊を見つけるか。
ああ、しかし、楽しみだなあ。
「今日は水曜日だから、さっそく新しい聖女の湯の素を試しに行きましょうか」
「お、いいねいいね」
バラの香りに包まれようぞ。
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