第107話 カロルと一緒に光るリボンを作るぞ
剣術組が部活に行き、エルマーが部活に行き、カロルが錬金作業に行った。
ペンティア同好会の三勇士も帰った。
コリンナちゃんも三勇士に付いていき、ペンティアを教えて貰うのだという。
集会室は、ヒルダさんと私だけだ。
まあ、シャーリーさんが書類の仕分けをしているけどね。
「マーラー領までは、川沿いを上がっていくの?」
「はい、ヒューム川をさかのぼって、ヒルムガルドで北海街道へ乗り換えて十日かかりますわ」
ヒルムガルドは命令さんの領地だな。
「帰りはヒルムガルドに出さえすれば船便で三日で王都ですね」
「帰りは早いのね」
「下り船ですからね、帰りは楽ですわ」
一ヶ月後に沢山のドレスを積んだ船がヒューム川を下ってくるのか。
沈没したら大変だな。
「では、キンボール家に行き、ご夫婦の採寸をしてまいります」
「え、わざわざ行ってくれるの、悪いよ」
「構いませんわよ、クラーク教授とお近づきになるのも嬉しいですし。私、歴史が好きなんですの」
「ありがとう、ヒルダ先輩」
「ブラッドさまには、手の物を走らせますわ」
「何からなにまで」
「領袖にはお世話になってますから、これくらい当然ですわ」
そう言うとヒルダ先輩は立ち上がり、シャーリーさんを連れて集会室を出て行った。
うーむ、助かるなあ。
ありがたいなあ。
さて、一人で集会室にいてもしょうが無いので、どっかに行こう。
立ち上がると、ヒルダさんの忘れ物か、白い布の巻物が落ちていた。
拾い上げる。
これはドレスの生地かな、目が詰まっていて結構厚い。
良い生地だね、滑らか~。
木綿じゃないようだ、絹でもないし、なんだろう、サテン?
そうだ、カロルに聞きに行こうかな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
女子寮五階まで一段飛ばしで駆け上がった。
はあはあ、人はどうして階段があると走って上がってしまうのだろうか。
やれやれ。
廊下を歩くと、出店の鎧戸が開いていて、アンヌさんが店番をしていた。
「アンヌさん、カロルはいる?」
「はい、作業中ですよ」
錬金室のドアを開ける。
「あら、マコト、いらっしゃい」
相変わらずカロルは錬金釜をグールグル回している。
「カロル、魔導具って簡単に作れる?」
「……」
なんだよう、そんな白い目で見るなよう。
「ち、ちがうよっ、変な物を作ろうと言うんじゃ無いんだよ、ダンスパーティで派閥の目印みたいのを作りたくてさ、布地に光魔法を仕込んで光るリボンとか作れないかって」
「ああ、そう」
カロルの表情が和らいだ。
「そうね、光魔法を付与するのは、他属性だと大変なんだけど、マコトは光属性だから簡単だと思うわよ」
「そうなんだ、教えて教えて」
「ちょっと待ってね、ポーション終わらせちゃうから、お茶でも飲んでて」
「わかったよー、ゆっくりやっていいよ」
「ありがとう」
カロルは返事をしてくるくると混ぜ棒で釜の中身を回し始めた。
アンヌさんが、お茶とお茶菓子を出してくれた。
ああ、錬金室は落ち着くなあ。
ソファにどっかりと座り込んでお茶を飲む。
漢方薬のような不思議な匂い。
ハーブティーの良い匂い。
お茶菓子も美味しい。
どこのお菓子かな、この偽ルーベラは。
もぎゅもぎゅ。
ポンと煙が釜から上がって、ポーションが出来たようだ。
「アンヌ、瓶詰めをお願いね」
「解りました」
アンヌさんが瓶の入った木箱を持って、柄杓でポーションを詰めていく。
カロルは応接セットに座って、お茶を口に運ぶ。
「お疲れ様」
「毎日の事だから、問題無いわよ」
カリカリと偽ルーベラをかじるカロルがくっそ萌える。
にまにま。
「この布地に魔法を付与するのね、こっちでやりましょうか」
カロルが布地を持って、テーブルに広げた。
「魔法の付与ってどうするの?」
「んー、ちょっとまってね」
近くの戸棚を開けて、カロルはインク瓶とペンを持ち出してきた。
「魔法陣用のインクよ」
ほほう、これが魔法陣を書くインクか。
「これで、ライトの魔法の呪文を魔法陣化した物を書いて、そこに魔力を流すと光ると思うわ」
「呪文の魔法陣化って?」
カロルが本棚から偉く分厚い辞書のような物を出してきた。
開いて見る。
うむむ、詠唱呪文と図形の対応表だな。
カロルに羊皮紙を出して貰って、ライトの呪文を分解して魔法陣を書いていく。
書き終わったら、魔法陣の端に手を置いて魔力を流す。
ペカーッ。
羊皮紙全体が光った。
「おおう、まぶしいっ」
「うわ、光るねっ」
「光度の調整は?」
「ええと、ここの抵抗のひげを増やすのかな」
ひげを足したら、少し光が弱くなった。
ふむ、なるほどね。
「魔力はどうやって供給するのかな?」
「ええとちょっと待ってね」
カロルが羊皮紙に手を当てて魔力を流した。
ぺー。
む、あんまり光らないね。
ひげをナイフでそぎ落とす。
む、少し、光度が上がったな。
「光魔力ではないと、適合度が下がって光量が下がるみたいね。魔力貯蓄記号でマコトの魔力を貯めておくか、魔石を接続してそこから魔力を供給するかね」
「貯蓄記号って、どれくらいの時間貯められるのかな?」
「作用する魔法陣にもよるけど、ライトなら、これくらいの大きさで一時間ぐらいかな」
カロルは三十センチぐらいの大きさを示した。
それくらいで一時間か。
「ピカピカ光るリボンを作りたいのだけど、間欠に光らせるにはどうするのかな」
「スイッチ記号とタイマー記号を組み合わせて、回路をくみ上げて」
さすがカロルは慣れていて、空いた記号の間に、スイッチ記号とタイマー記号を書き足した。
ほうほう、こうやって回路を組み立てて付与するのか。
前世の電子回路の制作みたいだね。
大体の構成要素の形を整えて、実験する。
おお、ピカピカ光るね。
タイマー記号を二つ使うと、ピカピカピカカみたいにリズムを取って光らせられるね。
「楽しい」
「綺麗ねー」
「リボンにするには、魔法陣を小さく書かなくちゃだめかな」
「そうね、回路要素さえあれば良いんだから、細長くしちゃえば?」
「ああ、そうか、魔法陣だからって円でなくてもいいのね」
「そうそう、円は魔力が均等に流れるから好まれているだけで、細長くても四角くても回路が通じていれば作用するわよ」
ハサミを出して貰い、白い布をリボン状に切った。
そこに、インクで魔法陣を書いていく。
貯蓄記号が結構小さいな、三十分ぐらいかな。
白いリボンが紫色のインクの魔法陣模様でいっぱいになった。
なんかまがまがしいなあ。
「あ、魔力を通して回路を閉じると、インクは無色透明になるわよ」
「おお、それは便利」
できあがったリボンをカロルの髪に止める。
貯蓄記号の上に手を置き、魔力を貯める。
スイッチ記号に手を置き、魔法陣を起動させる。
おお、ピカピカ光る。
わ、なんだか良いなあ。
「え、どんな感じ、どんな感じ?」
アンヌさんが鏡を持ってきてくれた。
カロルがリボンを付けた自分の姿を見て笑顔になった。
「あはは、凄く目立つわね」
「ちょっと光りすぎかな、少し光度を落として、魔法が持つようにしようかな」
回路を閉じてしまったので、インクの道筋が解らない。
が、線の一部にペンを置くと、回路が開いて紫の線が見えるようになった。
調整をして、光量を下げて、また回路を閉じる。
再び、カロルの髪に付けて光らせる。
うーん良いねえ。
「凄い目立つわね」
「いっしっし、これで聖女派閥かそうでないか一目でわかるね」
「みんな喜ぶわね」
「第一号はカロルに上げよう、大事にしてね」
「ありがとう、マコト、嬉しいわ」
カロルは私の手を取って、頭を下げた。
いやあ、たいした事じゃないしさ。
気にすんなっ。
もう、カロルめっ。




