第106話 ヒルダさんに採寸されてこしょばい
よし、新入生歓迎ダンスパーティのエスコート役ゲットだぜっ。
一カップルは依然として見つめ合っておるが、まあ、よしっ。
「それじゃ、一ヶ月後の新入生歓迎ダンスパーティではよろしくね。礼服とかある? 無かったら半額で作れるわよ」
「え、そうなの、僕作ろうかな」
陽気なふとっちょ、セシルくんがそんな事を言い出した。
「カーター様も、素敵な礼服をお作りになりませんか、私、見とうございますわ」
「マリリン君が言うなら、作ってもいいな」
ええい、いちゃいちゃすんな、バカップルめ。
部室で一人で居るのも暇という、のっぽのエバンくんも付いて来た。
「聖女派閥の集会室へようこそ」
「うわああ、なんだこのゴージャスな部屋はっ」
「すごいでしょ、みんなが家具を持ってきてくれたのでこうなりました」
「すごいなあ、女性の手が入るとこうなっちゃうのか」
カーター君が部屋の中を見回して感嘆の声をあげておる。
「ヒルダ先輩、ペンティア部の人たちが二人、礼服を作りたいって言ってるけど、大丈夫」
「あら、こんにちわ、カーターさま、おひさしぶり」
「げげっ、ヒルダ・マーラー……、様、な、なんであなたが服の販売なんかを」
「マーラー領の特産は紡績ですのよ、一貫生産でコストを下げて王都の礼服業界に殴り込むんですわ」
カーター君とヒルダ先輩は知り合いなのか、まあ二年生同士だしね。
シャーリーさんが手早く採寸して、コリンナちゃんが服飾カルテを書き上げる。
ドレスや礼服のデザインも書いてあるな。
「さて、マコトさまの採寸もいたしましょうね」
「え、いや、まだ私は買うとは」
「買うんでしょう?」
「か、買うけど、そのお金の算段がついたら……」
「お金なんか、ずっとお待ちしますよ、何年でも」
「それは、マーラー家に悪いし」
「借りは支配力を上げる良い手段なんですわ、嫌なら早く返すことです」
ヒルダ先輩は目を笑わせて私の頭をなでた。
うぐぐ。
こうやって金銭の借り、事件の後始末、性的な相手の融通などで、諜報暗闘家は裏から支配するのかあ。
なんとかして早めに大金をつかんで、ヒルダ先輩の支配から逃れなくては。
ヒルダ先輩はシュルシュルと流れるように私の体のサイズを採寸していく。
手際が良いなあ。
「デザインはどういたしますか? 流行のふわっとしたデザインとかお似合いそうですわよ」
「デザインねえ」
乙女ゲームの世界だから、シンプルな昔っぽいデザインのドレスとか、モダンな感じのデザインとか、色々とあるんだけど、なんか中途半端なんだよね。
羊皮紙の上に、こう、ふわふわモフモフのデザイン画を描いた。
「……」
「ん、何?」
なんでヒルダさんは私の絵を見て固まってんの?
「凄くお上手ですわね、これ、お金を取れる絵ですわよ」
「なんですの、わあ、マコトさまがこれを? 素敵なデザインですわあ」
「まあ、ふわふわで天使さまみたいな、そして綺麗な描線ですわっ」
メリッサさんとマリリンまで寄ってきおった。
しまったなあ、うっかり漫画スキルを発動してしまった。
効果は抜群だ。
「これで行きましょう、とても難しいデザインですが、マーラー家のお針子は天下無双、なにを恐れる事がありましょうや」
「そ、そう」
「私も、私もこのデザインをっ」
「私にはちょっとふわふわしすぎかもしれませんわ」
んじゃあ、マリリンには……。
私はシンプルなマーメードライン風のドレスを描いた。
マリリンはゴツい、言い換えれば体の線が綺麗なので、マーメード似合うかと思うのだ、おっぱいも結構あるしね。
「「「……」」」
あら、反応が無い、とんがりすぎだったかな。
「なんでこんな斬新なデザインを、そんなにすらすら描けますのっ?」
「天才? 天才画家なのですのっ!?」
「わ、私の現し身のようですわ、まああ、こんな風になりますのっ?」
「い、いや別にたいした事ではないよ」
うへへ、前世で頑張っていた絵を褒められると嬉しいな。
なんだか調子に乗って、ふわふわ感を増したメリッサさん用のデザインとか、ヒルダさん向けの妖艶な感じのデザインとかを描きちらした。
「良いですね。この三本のデザイン画を買い取りますわ、マコト様のドレス代でいかがかしら」
「わあ、それは助かるよ。嬉しいな」
「嬉しいのはこっちですわ。どうしてもマーラー領の作成班ではデザインがもったりしてしまいますので、このような斬新なデザインをいただければ鬼に金棒ですわよっ」
「ああ、じゃあ、その、お養父様とお養母様とお義兄様の礼服も欲しいのだけど、デザインと交換で作ってくれる?」
「いいですわっ、良いデザインはいくらでも必要ですの、それくらいは何でもありませんわ」
コリンナちゃんがやってきた。
「ちょっとまった、マコト、ちゃんとした契約書をつくろうぜ」
「ああ、そうですわね、このままではマーラー家が有利すぎますわ、さすがコリンナさま」
「え、別に良いのに」
「いけませんわっ」
「だめだよ」
テーブルの隅に座ったカーター君がこちらを見て、ニマニマしながらお茶を飲んでいた。
「なによう」
「いや、思っていた怖い派閥と違ってて、びっくりしているんだ。しかも、あのマーラーさんがこんなに嬉しそうに笑うなんて、思わなかったよ」
「な、なんですの、裏から手を回して廃嫡させますわよ、カーター・ヘイワード」
「ふふふ、怖い怖い。今後ともお隣さんとして、仲良くしてくださいね、キンボールさん」
「うん、お隣さんだからさ、仲良くしような」
私が笑うと、カーター君も、セシル君も、エバン君も、にっこり笑った。




