第1075話 まずはホルボス山へ
では、ホルボス山に向かうかな。
アダベルが部屋の外に待たせていたカマ吉に乗り込んだ。
「どこいくのっ?」
「孤児たちを連れてくるっ、今日雨だからっ」
ああそう。
マメちゃんがアダベルの腕の中からピョンと飛び出して影に隠れた。
「あ、マメがっ!」
マメちゃんは影の中で移動して帰ってきた。
おお、影になって移動もできるのか。
リンダさんと一緒に大神殿の端まで来た。
「というかリンダさんも来るの」
「はい、隊員の異動なので」
ハナさんとの交換の女官さんと、ローランさんとの交換の聖騎士さんも一緒だな。
アダベルがカマ吉に乗ってどどどとやってきた。
孤児たちが後を走ってきた。
「わんちゃん、わんちゃん見せてマコねえちゃん」
「子犬子犬っ」
「こらー、みんな順番順番」
これはマメちゃんを出さないと暴動が起きますね。
私の影からマメちゃんがぴょこっと顔を出すと、孤児達がぎゃーと叫んだ。
マメちゃんは顔を引っ込めた。
「大声を出しちゃだめよ、怖がりだからね」
「「「「はーい」」」」
マメちゃんが再び顔を出すと、孤児のみんなが我慢していた。
ぷるぷると小刻みに震えて可愛いなあ。
「わんわんっ」
「ひゃあ、可愛い可愛いっ」
「ねえねえ、マコねえちゃん、抱かせて抱かせて」
「乱暴しちゃ駄目よ」
「わかった、わかりましたっ」
ちびっ子にマメちゃんを抱かせてあげる。
「うわあ、ふわふわ、もふもふっ」
「どうだい、マメちゃんは可愛いだろうっ」
なぜ君が威張るのだね守護竜。
孤児達が順番でマメちゃんを抱くのを、大人のみんなは優しい目で見守っていた。
マメちゃんは人気者だなあ。
人数が増えたので蒼穹の覇者号までの道に障壁で回廊を付けた。
えいやってもんですよ。
「きれーっ!!」
「すごーい、雨粒が沢山っ!」
「雨に濡れなくて安心っ」
全員濡れないで蒼穹の覇者号に乗り込めた。
ハッチの所で障壁回廊を全部消す。
「「「「あーっ」」」」
なんで残念そうな声なのだ。
障壁なんか残しておいたら聖騎士の人が練兵できないじゃんよ。
結構な大人数になったな。
なんでカマ吉が乗っておる。
「たまにはカマ吉も外に出たいだろうからっ」
「ヂッヂッ」
そうです。だそうだ。
まあ、いいや。
ゴブ蔵は?
と思ったら、あやつは治療院でせっせと働いていた。
偉い奴だ。
(ゴブ蔵、今度、ガドラガに行く?)
《ああ、聖女様、ありがとうございます、行きたいですね》
(んじゃ、カマ吉とゴブ蔵も連れて行くね)
《感謝です》
なんだな、ゴブ蔵は念話でもテラ子安ボイスだな。
さて、メイン操縦室に入り、艇長席によじ登る。
マメちゃんも影から出て袖机で仁王立ちだ。
しかし、今日は後ろが一杯だな。
カマ吉が結構かさばる。
足を畳んで座っているけどね。
「それでは発進します。目標、ホルボス山基地」
【了解しました。蒼穹の覇者号離陸シーケンスを開始します】
カロルが流れるように操縦している。
ふわっと浮き上がり、雨の中を上昇していく。
ある程度まで行くとカロルは操舵輪を回してホルボス山の方へ回頭した。
出力レバーを押し上げて、徐々に速力を上げていく。
カメラに雨粒がいっぱい付くなあ。
しばらく行くとホルボス村が見えて来た。
雨降りだから、人の姿は見えないね。
畑で農作業をしている人がちょっといるぐらいか。
船はホルボス村を飛び越し、峡谷の中に入ってホルボス山基地の張り出し台へと付いた。
微速前進して格納庫へと進んでいく。
もう、学者さんはいないだろうな、と思ったら五人ぐらいいるな。
なにしてんだ、あいつらは。
んもう。
ハッチを開けてタラップを下りると、学者さんたちが挨拶をしてきた。
「もう、みんな帰ったと思ってましたけど」
「いや、もうちょっと、もうちょっとだけ、研究が残っていてね」
「そ、そうそう、あとちょっとなんだよ、聖女さま」
「どれくらいですか?」
「え、一週間……、ぐらい」
「そろそろ、帰ってくださいね」
「「「はい……」」」
学者さん達はシュンとしてしまった。
悪い人じゃないのだけどなあ。
今度、魔法塔に滞在費と食費を請求しよう。
アダベルがカマ吉の背中にのった。
子供達も乗りたがり、カマ吉の背中に子供が鈴なりとなった。
蒼穹の覇者号の後部ハッチが開いて、ヒューイが顔を出した。
《ついた?》
「そうね、目的地の一つよ。ヒューイも足を伸ばしてなさいな」
《解った、飛んでも良い?》
「雨が降ってるわよ」
《雨の空、けっこう好き》
「近所で飛んでなさいね」
《わかった》
ヒューイはたったったと走って、着陸台の上から空に飛び上がっていった。
地下礼拝堂に入ると、リーディア団長とガラリアさんが下りてきた。
「お帰りなさい、聖女様。お、カマ吉もきましたね」
「あ、青白い、カマキリ……」
「ガラリア、これは、カマ吉だっ、女神様に祝福された大神殿の聖獣だっ」
「そ、それは凄いですね、ア、アダベルさま」
ガラリアさんがニコニコしながらカマ吉の鎌を撫でた。
「カマキリの甲蟲騎士さんはいないの?」
「前には居たのですが、戦死してしまいまして、それから生まれていませんね」
「騎士団は大変ね」
みんなで階段を上がり、ホルボス邸宅に入った。
「アダちゃんっ!! 聖女様っ!! カマ吉、みんなっ!!」
「わああ、カマ吉だあ。今日は雨だから来ないと思ったよう、アダちゃんっ!」
「はっはっは、飛空艇で来たのだ~~。あ、マコト、マメちゃんを出して」
「はいはい」
「これが新しい子分のマメちゃんだっ」
誰が子分か。
マメちゃんがぴょっこり顔を出すと、トール王子、ティルダ王女、リーディア団長、ガラリアさんが、わあと歓声を上げて飛びついてきた。
マメちゃんはモテモテだなあ。
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