第105話 ダンパのエスコート相手探しに隣を強襲す
「コイシちゃんとカトレアさんのエスコート相手はいるの?」
「いないみょん」
「おらぬっ」
なんでカトレアさんは自信満々に答えるのだ。
「一学期の初回のダンスパーティだから、適当な相手でも良いだろう、コケシとカトレアの相手は辺境伯関係の騎士生徒から適当に選ぼう」
「カーチスしゃまぁ、なにからなにまでありがとうみょん」
「かたじけない」
「カトレアはうちの騎士でもありますから、相手が居なかったらマーラー家関係から選ぶ事も可能ですわよ」
「ありがとう、ヒルダさま」
ふむ、コイシちゃんとカトレアさんの相手は問題なさそうだね。
「で、コリンナちゃんはダンパには出ないの?」
「出ないぞ、そんな非生産的な催しは」
「ドレスを調達出来そうなんだから、出ても良いのに」
「あ、相手がいないしさー」
ふむ、まあ、ダンパに文官の出番は無さそうだから良いかな。
今回は初回だしね。
でも二年生までに、コリンナちゃんも、カロルも、ダンパに参加できるようにしたいなあ。
あとは、メリッサさんと、マリリンの相手か。
「メリッサさんとマリリンは意中の相手とかいないの?」
「えっ、きゃっ、そ、そんな人いませんわ」
「いませんわねえ」
「C組だったのに」
「C組は女生徒ばっかりですし、C組の男子は、そのチャラくて……」
「C組男子は恋愛対象にはなりませんわー」
そうか、男子でC組はあり得ないな、たしかに。
ちなみに、魔法学園のC組なら、多額の寄付金さえ納めれば誰でも入れる。
生徒の質は推して知るべしであるよ。
魔法学園卒業でも、A組ならば一目置かれるのだが、B組なら軽く見られ、C組だと馬鹿にされるのだな。
なので大貴族の令息令嬢は家庭教師を付け、猛勉強でA組を目指すのだ。
ほら、貴族って、見栄と外聞で出来てるからさ。
よほど出来が悪く無い限り、C組に男子が放り込まれる事は無い。
ただ、女子の仕事は社交という面もあるので、C組の女生徒はそんなには悪く見られないね。
「よし、男子を調達に行こう」
「ど、どこへですの?」
「隣」
私が立つと、カロルとコリンナちゃんも立ち上がった。
な、なんだよ。
「心配だし」
「お隣に迷惑をかけちゃだめだわ」
「かけないもーん」
あ、そうだ。
「ヒルダ先輩、お隣の構成員はどうですか?」
「ペンティア同好会の三人は全員国王派ですから、問題ありませんわ。ちなみにペンティアの成績も上々、国内三位です」
「い、意外にやるね」
諜報系の人が居ると楽よねえ。
さっそく五人で外に出て、お隣に押しかける。
「こんにちはー」
「はーい、……げっ! 聖女!!」
ガシッ。
くくく、閉じようとしたドアに足を突っ込んでやったぜ。
「な、なんですか、聖女さまなんかに用事とかありませんよっ、か、帰ってくださいっ」
「くっくっく、こっちには用事があるんだぜ、カーター部長」
「ひいいっ、帰って、帰って」
「そう邪険にするなよう」
私はニヒルに笑いながら、無理矢理、ドアを開き、ペンティア同好会の中に入った。
あんまり家具も無くて閑散とした部屋だなあ。
真ん中のテーブルでチェスみたいな物で対局しているデブとのっぽがこっちを見て怪訝な顔をしておる。
「お茶をお持ちしましょうか?」
「あ、シャーリーさんおねがいします」
「メ、メイドさんがいきなり現れた、あれはいったい」
「気にすんな」
私は、部屋の中央に立った。
「さて自己紹介と行こうじゃないか、私はマコト、キンボール男爵家の娘だ。聖女候補をやっている、一年生だ」
「はあはあ、ぼ、僕はカーターです、ヘイワード子爵家の息子です。ペンティア同好会の会長をやってます、二年生です」
私はカロルを指さした。
「あ、カロルです、オルブライト伯爵家の娘で新入生よ、よろしくね」
「こ、これはどうも、オルブライト様でしたか、僕はエバンです、ワイアット男爵家の息子です、二年生です」
次は私か? というようにコリンナちゃんが眉をあげるので、うなずいておく。
「コリンナよ、ケーベロス男爵家、ペンティアに興味があるわ、教えてくれる?」
「本当かい、女の子にペンティアは人気が無いんだ、大歓迎だよ、ケーベロスさん。僕はセシル、ウォンボール男爵家の次男坊、二年だよ」
メリッサさんが前にでた。
「わたしは、メリッサですわ、アンドレア家の娘ですの、宜しくおねがいいたしますわ」
ペンティア三勇士はこくこくとうなずいた。
「私は、マリリンですわ、先輩方、ゴーゴリー家の娘ですの、よろしくね」
うっふんとマリリンがしなを作ると、カーターが口をぽかんと開けて凝視した。
まあ、マリリンはでっかいからなあ。
顔もごついし。
「あんたたちは新入生歓迎ダンスパーティに出る予定はあるの?」
「え、無いよ、僕らはダンスパーティには縁が無いし、出たこともないよ」
よしよし、もくろみ通り、ダンパは陽キャの世界で、オタク君たちは行かないのね。
「よし、じゃあ、メリッサさんと、マリリンさんの相手をしてくれないかな、エスコートしてくれる人が居なくて困ってるの」
「ごめん、僕は駄目だ、領地に婚約者がいるんだ」
あ、のっぽ君は駄目なのか。
ダンパは縁を結ぶ場でもあるから、律儀で堅い人は参加を嫌がる事もあるんだよね。
カーター君が立ち上がった。
ふらふらとこちらに歩いてくる。
よし、メリッサさんを気に入ったか。
メリッサさんはにんまりと笑った。
その横を通り過ぎ、カーターくんはマリリンの手を取った。
「あ、あの、僕は、その、あなたのような女の子が趣味なんですっ、よ、良かったら一緒にダンスパーティに出てくれませんかっ」
「え、ええっ、そ、そんな、私なんか、ゴツいのにっ」
「大きい女の子が好きなんです、僕」
カーター君がキラキラした目で見つめると、マリリンもうっとりと見返した。
メリッサさんが、目をむいてショックを受けた顔をしておる。
うむむ。
「新入生歓迎ダンスパーティに相手が居ないと困るね、僕で良かったら協力するよ。相手はコリンナさんで良いのかな」
「わ、私は、出ないし」
「そうなのか、残念だね、でも、今度ペンティアをやりに来てよ」
「は、はい、興味あるから」
コリンナちゃんにペンティア教えたら、たぶんおまえら一人残らず勝てないぞ。
「では、メリッサさんか、僕でよかったら」
「は、はい、ありがとうございます。セシルさん、宜しくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
セシルくんは太っちょだけど、意外に社交的だな。
メリッサさんもまんざらでは無いようだね。
問題は、未だにうっとり見つめ合っているマリリンとカーター君だ。
このまま恋に発展しそうじゃあないかい?
子爵家の息子と男爵家の娘か、まあまあ、釣り合いは取れてるかな。
うむうむ。




