第1059話 ジーン皇国皇宮上空に侵入する
ブオンと蒼穹の覇者号は西に向けて飛んだ。
「ほわー、自分の力じゃなくて空に飛ぶなんて初めて~~」
「そうなんだ」
竜は自分の羽で飛ぶからね。
「不思議~~」
ペペロンはうっとりとした声でそう言った。
マメちゃんは艇長席の袖机の上に立ってディスプレイを見ている。
たのしいかー。
背中をモシャモシャしてみる。
「わんわんっ!」
とても楽しいらしい。
よしよし。
影獣迷宮から皇都までは西に一時間ぐらいか。
めちゃくちゃ遠い訳でも無いな。
到着したらだいたいお昼過ぎなので、ディーマーにランチでもたかろう。
農地を飛び越し、低山を越え、町を眼下に見て蒼穹の覇者号は飛ぶ。
「もう、リッテンの町を越えましたぞ、なんという速力なのか」
「飛空艇は速いな、やはり」
ギュンターと隊長さんが話をしておる。
初めてだとビビる速度だよね。
順調に飛行して一時間弱、遠くに大都市が見えて来た。
「おお、あれが皇都であるぞ」
「おおきいねえ~~」
「わんわんっ」
【ザザッ こちらはコールサイン354127、ジーン皇国皇都管制塔、所属不明の飛空艇、所属と船名をのべよ】
私は伝声管の蓋をパコッと開けた。
「こちらはコールサイン547498、聖心教所属、蒼穹の覇者号、皇宮への着陸許可を願いたい」
【え? なんだ? 教会の御座船? なんで……】
なんか、通信の向こうで揉めているな。
【蒼穹の覇者号、皇政府の許可が出ていない、皇都上空への侵入も許可できない】
ギュンターが艇長席に寄ってきた。
「喋りたいなら、その管な」
「わかった。あーあー、こちらは第十三皇子ギュンターだ。現在、蒼穹の覇者号に乗せてもらって里帰りである、融通を効かせて許可を貰いたい」
【(え、どうする、ギュンター皇子? 本物か?)】
また後ろで揉めてるな。
「これで、三日ほどすれば許可がでるぞ、聖女よ」
「皇国ってさあ、非効率だよなあ」
「しかし、許可を取らないと問題になるぞ」
「いらねえよ、めんどうくさい」
そう言って私は舵輪を回し、大都市のど真ん中、皇宮に向けて直進した。
「防衛魔法とかは無いよね」
「ない、とは思うが、このような無法をした者が歴史上出て無いのでわからんな」
【あ、あー、やめて下さいっ、皇都上空ですよっ、勝手に領空侵犯しないでくださいっ】
「うるせえ」
蒼穹の覇者号はズンズン進んで皇宮上空である。
【魔法的防御は微弱ですね、船外障壁にて中和可能です。迎撃用対空武器の存在もありません】
「わりと無防備だなあ」
「ああ、昔、対空兵器が生きていて、他国の飛空艇を落としかけたので全廃されたのだ。今では飛空艇を侵略に使う国はいないからな」
お、中庭に誰かいるな。
ズームしてみる。
ディーマー皇子が上を見上げてぽかんとしているぞ。
よし、着陸してやれ。
「というか、無茶苦茶無法だな、貴様は」
「うるせえ、破門するぞっ」
ガチャコーンとディーマー皇子の目の前に蒼穹の覇者号を着陸させた。
ハッチを開けて外に出ると、ディーマーが走り寄ってきた。
「な、なにごとだ、マコトーー!!」
「お前に会いに来た」
「えっ?」
「真っ赤な嘘だ、兄さん」
「ギュンター、きさま、何故?」
わ、衛兵が山盛りやってきたぞ。
「ペペロン、竜化して」
「わかったー」
ドロンとペペロンが竜化した。
アダベルほどじゃないけど、結構でっかいな。
「吠える」
『解った』
Gaooooooon!!
あー、うっせーっ!
近くの噴水の水がビリビリ震えてまき散らされるぐらいの吠え声だ。
衛兵達とディーマーが揃って腰を抜かした。
マメちゃんが影から出て来て、ディーマーの近くに行って匂いを嗅いでいるな。
「影獣迷宮で竜を見つけて来た、ジーン皇国皇都の守護竜にどうかなと思ってつれてきた。要らないなら、アライドに持って行くが」
「竜! 守護竜!! ほ、本当か、マコト?」
「まあ、ペペロンが気に入ったらだが、ちなみにギュンターは嫌われた」
『いばりんぼの人は嫌いー』
「これがディーマー皇子だ、小物だが、結構良い奴だ」
「あいかわらず、失礼だな、マコトは」
ペペロンはでっかい頭をディーマー皇子の近くに移動させて匂いを嗅いだ。
『あー、竜の匂いがちょっとするー』
「あ、ああ、祖先に竜人がいるからな、ペペロン殿」
『あんまり良い匂いじゃないなあ』
「そ、そうか」
ディーマー皇子はがっくりした。
意外にペペロンは好みがうるさいな。
宮殿のガラス戸が開いて、グレーテ王女が出て来た。
「まー、マコトさんっ!! 皇宮にいらっしゃい、嬉しいわ」
「グレーテ久しぶり」
久しぶりでもないか。
「わ、立派なドラゴンさん、こんにちは」
『こんにちは、あ、この子からも竜の匂いがする」
ペペロンはグレーテの匂いをくんくんとかいだ。
「この子はペペロン、影竜の女王の娘だよ」
『マコト、この子良い匂い』
なんと、グレーテ王女が気に入ったのか。
次代のジーン皇国は女帝が立つかな。
「グレーテのお世話なら受ける?」
『うん、仲良くなりたい』
「まあ、ありがとう、私もペペロンさんと仲良くなりたいですわ」
グレーテ王女は花のように微笑んだ。
「では、グレーテが責任を持って、ジーン皇都の守護竜ペペロンのお世話をしてください」
「え、守護竜? えっ、えっ?」
「グレーテいいなあ、俺もギュンターも気に入らないって」
「えっ、えっ?」
グレーテはまだ事態が飲み込めないようだ。
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