第1047話 蒼穹の覇者号、ガドラガ着
「そういえば、お昼ご飯をすっかり忘れていた」
「どこか途中の街に降りますか」
どっかの修道院に行けば只でご飯をいただけるだろうが、迷惑だろうしなあ。
どっかの街でパンでも買って囓るか。
街道沿いに中規模な街があった。
宿場街だな。
「ええと、ティンケルの街ですね」
「どこか、降りる場所は無いかなあ」
あった、中央広場があって広いぞ。
私は蒼穹の覇者号の速度を落とし、垂直に着陸させた。
伝声管を開く。
「エバンズ、お昼買ってくるけど、なにかリクエストはある?」
「なんでもいい」
まったく、世話の焼き甲斐の無い奴であるな。
ヒルダさんと一緒に船を下りると、甲板からヒューイも降りてきた。
「ヒューイは後ろの貨物室に移る?」
《甲板のほうが景色がいい》
そうですか。
髭の偉い感じの紳士が息せき切ってやってきた。
「聖女さま、聖女さま、ティンケルの街にようこそっ。私は町長のギャバンです」
「あ、昼ご飯のパンを買いに来ただけよ、ギャバン町長。美味しいお店を教えてくださらない」
「おお、ではこちらへ、メリーアンの店が大評判ですぞっ」
ギャバン町長さんについていき、ヒューイを表の馬繋ぎ柵に繋いで、メリーアンのお店に入った。
わりと良い感じのお店ね。
掃除も行き届いているし、良い匂い。
「メリーアン、聖女さまがパンを所望だぞっ!」
「まあああっ、なんてこと」
太って優しそうなおばさんがメリーアンさんのようだ。
「ちょっと買わせてくださいねー、あら、聖女パンがある」
「おほほ、お恥ずかしい、元祖のひよこ堂さんのものを食べて、なんとか再現したくて頑張りましたの」
まあ、パンのレシピに著作権は無いからね。
美味しそうだ、買っていこう。
私は偽聖女パンと卵サンド、あと葡萄ジュースを買った。
ヒルダさんは、偽聖女パンと厚切りベーコンパンと葡萄ジュース。
エバンズ用に、偽聖女パンとホットドックと葡萄ジュースを買った。
ダルシーが出て来てお財布を出した。
「ダルシーも自分の分を買いなさいよ」
「は、はい」
ダルシーは偽聖女パンとツイストドーナツを買っていた。
(ヒューイも欲しい?)
《せいじょのパンをたべたい》
よし、偽聖女パンを一個追加じゃ。
「ありがとうございます、お代はよろしいのに」
「そうはいきませんよ、商売ですからね」
「まいどありがとうございます」
メリーアンおばさんは深々と頭を下げた。
ヒューイに偽聖女パンを食わせながら船に戻る。
《王都のせいじょぱんの方がすき》
そうかそうか。
解っているなヒューイくん。
ヒューイはひらりと甲板に飛び乗った。
タラップを上がりメイン操縦室に入る。
「ダルシー、エバンズにパンを持っていってあげて」
「かしこまりました」
ダルシーがエバンズの分のパンと葡萄ジュースの瓶を持って行った。
艇長席によじ登って発進準備。
外では街の人達が沢山出て来て蒼穹の覇者号を眺めていた。
出力上昇、垂直離陸、操舵輪を回してガドラガ方向に回頭し、直進させた。
艇長席の袖机にパンを置いて飛行しながらもしゃもしゃ食べる。
うん、偽聖女パンは良い所まで行ってるけど、やっぱり違うね。
卵サンドも良い味だな。
意外に良いパンを焼くねメリーアンさん。
凄く美味しい訳じゃ無いけど、ほっとする美味しさだ。
「まあまあですわね」
「そうだねー」
まあ、お腹がくちくなれば良いのさ。
高度をあげて低山を飛び越す。
モニターを見ると、甲板で景色を楽しんでいるヒューイと、エンジンルームでパンをむしゃむしゃ食べているエバンズが映っていた。
低めの山を四つ飛び越すとガドラガ大玄洞が見えて来た。
やっぱりここら辺は荒涼としてるね。
大地から魔力が吹き出す関係で植物の生長が阻害されているのかな。
「こう、荒涼としてたら薬草とか生えないじゃん、ポーションは輸送中心なのかな」
「ダンジョンの中で薬草が採れるそうですわよ」
おお、ダンジョン内に薬草が出るのか。
それは便利だな。
でも、冒険者の需要を満たせるのかね?
それでガドラガ教会が拝金なのかもね。
あ、リンダさんにガドラガの司祭さんが何派閥なのか聞くの忘れた。
まあ、いいかあ。
「ガドラガ飛行場管制塔、応答願います。こちらはコールサイン547498、聖心教所属、蒼穹の覇者号です」
【ザザザ、こちらはコールサイン000547、ガドラガ飛行場管制塔。蒼穹の覇者号確認いたしました、西側からアプローチして第三駐機場へ着陸ねがいます】
前と一緒の場所だな。
西側からカーブするように進入して何も駐まっていない駐機場に着陸した。
「さて、行きましょうか」
「そうですわね、冒険者ギルドにクヌートたちが居ると良いのですが」
まあ、勝手に来たから迷宮攻略している可能性もあるな。
その時はその時だ。
《街にいく?》
(行くわ、乗せていってくれる?)
《もちろん》
タラップを降りるとヒューイが待ち構えていた。
私は彼に跨がり、手を伸ばしてヒルダさんを引き上げた。
「馬よりも大きいので結構高いですわね」
「そうなのよ、じゃ、街に行ってヒューイ」
《わかった》
私はヒューイをとっとこ走らせてガドラガの街の門をくぐった。
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