第1037話 蒼穹の覇者号は守護竜牧場へと飛ぶ
蒼穹の覇者号が上昇すると、ヒューイが飛んで甲板に乗った。
《まにあった》
まあ、可愛いヒューイを置いて行ったりはしないけどね。
私は操舵輪を回して飛空艇を回頭させた。
出力を上げてバッキューンと空を行く。
高度が低いと速度感が出て良いよね。
「王宮に守護竜牧場のお肉は届いてないの?」
「それがね、ブロウライト伯の肝いりで届いたお肉をだね、王宮キッチンの者が毒味と称して食べた所、無くなった」
「ぶっ」
「あまりに美味しくて厨房で無くなってしまって、食べれなかったコック長が怒る怒る。かといって、ブロウライト伯に追加注文するのも恥ずかしいなという事で有耶無耶になったんだ」
まあ、婆っちゃの所のお肉は凄いからな。
収納袋にももうジャーキーは残っていないし。
低山を縫うようにしてカメオ村上空に着いた。
守護竜牧場の脇の草地に着陸しようとしたら、中庭で子供達が遊んでいるのが見えた。
アダベルが船を見つけて手を振ってきた。
蒼穹の覇者号を草地に着陸させた。
ハッチを開けて外に出ると、アダベルと孤児達が走ってきた。
「おお、奇遇だなっマコト!」
「今日も来てたのね」
「うん、婆っちゃがご馳走してくれたぞ」
「あらあら聖女さま、いらっしゃい」
「ダシャお婆ちゃん、こんにちは」
まだ動きがギクシャクしているコリンナちゃんと、王家主従も下りてきた。
「お、王子もいるな、あとメガネ」
「やあ、アダベルさん、守護竜牧場だから君もいるんだね」
「そうだともっ」
「いつもすいません、お婆ちゃん。アダベルがあんまり沢山食べるようなら断ってもいいんですよ」
「おっほっほ、私たち年寄りの楽しみはね、若い子が沢山食べる所を見る事なんですよ。……あら、本物のケビン王子さま?」
「こんにちは、ケビン王子にそっくりですが、王都のちりめん問屋の若旦那です」
「あら、そういう事にするのね、いらっしゃい、若旦那さん」
ちょっと見ないうちに守護竜牧場は綺麗になっていた。
看板には私のデザインしたマークと『守護竜牧場』の名前が掲げられている。
従業員も何人か増えたみたいで、牧童の人が働いているね。
「今、ちょうど、子供達にお茶を出していたところなんですよ。聖女さまも若旦那もどうですか」
「ありがたくいただきます」
「うれしいわ、お婆ちゃん」
中庭のテーブルでアダベルや孤児達と一緒にお茶とクッキーを頂いた。
「ご主人、申し訳無いが、お肉を分けてはいただけないか」
「あら、喜んで、どれくらい必要かしら」
「そうだな、二キロほど頂ければありがたい」
「はい、よろしゅうございますよ、王家に奉仕するのは国民の務めですからね」
「代金はお払いしよう」
「いいんですのよ、だって王家の方々に召し上がってもらうのでしょう? とっても光栄だわ」
「金をちゃんと払いなさいよ、ジェラルド」
「と、当然だ」
お婆ちゃんは母屋に行って、お孫さんに語りかけ、大きな肉の塊を持って来た。
「はい、皆さんでおあがりくださいね」
「い、いささか、多いのでは無いか?」
五キロはありそうだな。
「かまいませんわよ」
そのあと、お孫さんがジャーキーとかチーズとかどさどさ持って来た。
もう、お婆ちゃんは人が良すぎるなあ。
破産してしまうぞ。
「こんなにしてもらっては」
「良いのですよ、王様が頑張っているからこの国はあるのです。美味しい物を食べてがんばってもらわないとね」
「ジャーキーが美味しいですねっ!!」
「おほほ、自慢の品ですのよ」
アダベルがケビン王子の後ろからジャーキーを掴んで逃げた。
「あ、アダベルくんっ」
「もらいーっ」
ヒューイも甲板から下りてきてケビン王子の所のジャーキーをむしゃむしゃ食べた。
「君もか」
《これはうまい》
「おほほ、あなたは綺麗な白い竜ね」
《この人、良い匂いだ》
ヒューイがダシャお婆ちゃんに頬ずりをした。
「まあ、良い子ね」
お婆ちゃんに撫でられてヒューイがご機嫌になったな。
なんか異類に好かれる波動を出しているのだろうか。
ローランさんが村の方から走ってやってきた。
「聖女さまっ」
あ、本当にちょっとふっくらしてやがる。
良い物食い過ぎだな、こやつ。
「ローラン、首尾はどう?」
「だいぶ良い感じに推移してますが、村長が強情で、まだ、村道の使用料の返還には応じませんね」
「むかつくわね」
「詳しく説明してくれないか、キンボール」
「代わりに私が」
コリンナちゃんが解りやすく守護竜牧場と村の確執を説明した。
「それは酷い、こんな良い牧場を権力でもって迫害するとは」
「あってはなりませんね、若旦那」
「我々に出来る事は何かあるかね、番頭さん」
「そうですね、街道に続く道を建設しますか。あと王家御用達の御免状の発行と、新しい代官の派遣ですね」
「よし、さっそく帰ったらやろう。こんな美味しいジャーキーを作る牧場を潰すなんてとんでもない」
「おほほ、お手柔らかにしてあげてくださいね、村は一つの一族のような物なので、親戚が込み入っていますのよ」
「ああ、なるほど、力押しではいけないのか」
「行政の末端は民衆の気持ちに直結しているのか、難しいね」
まあ、この二人に任せておけばやっかいなカメオ村の問題も解決するかな。
うんうん。
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