第102話 私ではなく、ダルシーがクレイトン親子に実験される
ふう、なんとか学園長から解放された。
まあまあの戦果だと思われる。
学園側が、聖女派閥の排斥を始めたらやっかいでかなわないからなあ。
もう、午後の授業始まってるやん。
早く魔術実習室に行かないと、エルマーとジョンおじさんが待ってるだろう。
「ダルシー」
「はい、マコトさま」
「集会室に行って、パンがあったら持ってきて」
「かしこまりました」
ダルシーは姿を消した。
あー、諜報メイドは便利だなあ。
一度使うと手放せなくなるな、これ。
誰もいない校舎内を歩く。
みんなそれぞれの実習教室で魔術のお勉強であるね。
階段を上がって、三階の魔術実習室へ向かう。
ドアをノックして入る。
中には、エルマーとジョンおじさんが居て、こちらを見ると立ち上がった。
「マコトくん、大丈夫だったかね、学園長は何を言ってきたんだい?」
「神学校に転校しろと書類を出してきましたよ」
「なんだとーっ!」
「なにい……」
「大丈夫、聖戦をかけて、ポッティンジャー公爵家第二公邸を更地にするぞと脅したら撤回してくれましたよ」
「そ、そうか……」
「恫喝……」
エルマーとジョンおじさんは顔を見あわせ、椅子に腰掛けた。
「撤回しなかったら、魔法省の全力で圧力を掛けていたところだよ」
「王家派閥、というか、ケビン王子に頼もうかとも思いましたが、借りを作るのもなんでしたので、手っ取り早く恫喝でしたよ」
「うん……、王子に、借りは……、駄目だ」
ノックの後、ダルシーが亜麻袋を持って入ってきた。
「マコトさま、パンをお持ちしました」
「ありがとう、ダルシー」
お礼に、ダルシーの頭をいいこいいこしてあげた。
「お昼まだなんで、先に食べて良いですか?」
「ああ、良いとも、お腹がすいては戦はできないからね。それより、その子が噂の重拳使いの諜報メイドくんかい?」
「はい、ダルシーといいますよ」
「ダルシーです、よろしくおねがいします、クレイトン長官様」
「土魔法の亜種、重力魔法はレア属性だね、見せて貰ってもいいかね?」
「マコトが……食べている間、重力魔法を実験しよう……」
ダルシーが助けを求めるように、こっちを見ているが、この二人が実験モードに入ったら誰も止められないぞ、がんばれ、ダルシー。
「ふむ、パンチ一発で約十ガルンの重さが付与されるのか」
「重さが……、対象に移る……のは、興味深い……」
ダルシーは二人が希望するままに、実験器具に重力を付与したり、削ったりしている。
それを見ながら、私はパンを食べる。
しまったな、ハムベーコンは肉肉で重い。
「重力を拳法で相手に作用させるのは面白いね、重力魔法の応用として理にかなっているね」
「主に……、重力魔法使いは……、建築魔法事務所に所属するが……、護衛に応用か……、すばらしい着想」
「重力使いは建築系に就職するの?」
「主にそうだね、重量物の重さを減らして移動させたり、ローラーを重くして効率的に整地させたりで、建築系に多いね」
この世界は、魔法を応用して建設してるのか。
前世の重機みたいな感じに運用するんだな。
「なんで、ダルシーは建築業界に行かなかったの?」
「私は、孤児院で育ちましたので、教会のみなさんを守る仕事をしたく……」
なんだか、ダルシーの表情が曇った。
トラウマに接触しちゃったかな。
私はソーダを飲み干して、瓶をテーブルに置いた。
「さて、食べ終わりました。実験を始めましょう」
「そうだね、ありがとう、ダルシーくん」
「今度……、別の実験を、しよう……、ダルシー」
「はい、失礼いたします」
ダルシーは姿を消した。
「綺麗に気配を消すね、出身は、里かね、舘かね」
「里らしいですよ、アンヌさんの同期らしいですし」
「やはり里か、すばらしい手練れだね、あのクラスのメイドは王族が望んでも、なかなか雇えないだろう」
「そうなんですか?」
「手練れの諜報メイドを持つと、それだけで家名が上がるからね、ウィルキンソン家のマルゴットが良い例だ」
そんなに凄いのか、あのお茶目メイドは。
そうすると、マルゴットさんにため口をきくアンヌさんも相当だな。
諜報メイドの世界は奥深いぜ。
「メイドの里とメイドの舘はどう違うんですか?」
「どちらも上流階級用の諜報メイドを教育する機関なのだが、すこし性質が違うんだよ。メイドの里は万人に開かれてやる気がある者は自由に入れる、その分メイドの実力はピンキリで幅が大きいね」
そうだね、アンヌさんもダルシーも孤児だったらしいし、入学が自由でないと二人とも入れなかっただろうね。
「メイドの舘は基本的に貴族の子女しか入れないし、訓練が厳しく、卒業生の質が高い、そして、すぐ自害してしまう」
「なんで、舘のメイドは、すぐ自害してしまうんですか」
「諜報メイドなので、敵に情報を渡すよりも自害、と教育されてるんだね。その分凄腕がすぐ死んでしまう可能性があるので、雇い主が仕事をよく考えて選ばないといけない」
そうか、メイドの舘の方が質の平均値が高いのか。
「マルゴットさんは、どっちの出身なのですか?」
「彼女は我流だそうだ」
「……」
マルゴットさんは、我流で諜報メイド最強なのかよっ!!
どんだけチートメイドなんだよっ!




