第1035話 地獄谷温泉で見たく無いラッキースケベ
飛空艇を着陸させて、外に出ると、ヘイスさんとマダムエドワルダとダガンさんが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、御領主様」
「今日は大勢ですの……」
「や、やややっ」
罪人の二人はケビン王子とジェラルドを見て動揺した。
「やあ、マダムエドワルダ、ダガンさんもご無沙汰だね」
「ケビン王子……」
「いや、その、その節はご迷惑を」
「かまわないかまわない、君らは一度死んで、新しい人生に生まれ変わったんだ、そんなにかしこまる事は無いよ」
「ありがとうございます」
「さようでございましたか」
ロイクがどだどたとやってきた。
雑貨屋の店主らしくエプロンをして似合っているな。
「おお、聖女さん、お帰り。おお、ご学友かい」
「ロイクさん」
「ロイクよ」
「ん、なんだい、二人とも変な顔して」
「うん、僕らは温泉に入りに来たキンボールさんの友達さ、お風呂はどこかな?」
「こっちですがね、ぼっちゃん、貴族の人が入るような所じゃあねえですよ」
「いいんだ、ホルボス村の温泉と入り比べをしたくてね」
「お湯はこっちの方が強いなあ、野趣があっていいんだけど、湯あたりするかもしれませんぜ。お風呂セットが無いんだったら売店で売りますよ」
「それはありがたいね」
「そいじゃ、こっちにきなせい、ボロいんでびっくりしやすよ」
ケビン王子はロイクと一緒に共同湯の方に行った。
あとでロイクにバラしてびっくりさせてやろうっと。
「ダガンさん、フレデリク会長は?」
「計量事務所ですな、呼んできます」
「ありがとう、お願いね」
「打ち合わせですか、食堂を使いますか?」
「そうね、テーブルが有った方が良いわね」
「それではこちらへ」
マダムエドワルダが私たちを案内してくれた。
共同湯を見た後、売店に居たケビン王子がタオルと洗面器を持ってこっちに合流した。
食堂でマダムエドワルダに出してもらったコーヒーを飲んでいると、フレデリク会長が小走りでやってきた。
「聖女さま、ジェラルドさま、ケーベロスさま、ブリス代官、計画書がもうできましたか」
「はい、書き上がりましたので、説明をしてお渡しします」
「すばやいですね、もっと掛かるかと思いました」
「ケーベロス嬢は有能だからね」
「まあ、いやですわ、マクナイトさま」
コリンナちゃんも他人がいるのでお嬢さんぶりっこしてるな。
彼女は計画書をテーブルに広げて、下水整備から基礎工事、街の広場、住宅街とベースから順に積み上げていった。
すげえ、解りやすい。
弓の練習を嫌がっていたのはこれを書くためだったか。
正直すまん。
が、弓の練習はさぼるな。
「ありがとうございます、とても解りやすい計画書ですね。さっそく明日から既存の建物の取り壊しと下水設備工事を始めたいと思います」
フレデリク会長は頭を下げて計画書を受け取った。
よし、これで、地獄谷整備計画が進むな。
ダガンさんから、素人質問で恐縮ですがと、厳しい質問が飛ぶ、コリンナちゃんとジェラルドはそれに丁寧に答えていった。
ダガンさんも小領地の経営経験者だから良い質問をするなあ。
こういう、内政計画を聞くのも勉強になるね。
「やあ、良いねえ、内政の仕事って感じだ」
「ケビン王子は領地は無いの?」
「まだ無いね、だけど、王領はみんな僕らの領地だからね、どこか、丁度良い所で内政の仕事をしてみたいなあ」
「近場であまり豊かで無い村にてこ入れに行きますか」
「そうだね、いろいろ経験しておく方がいいね」
まあ、将来の王様だからね。
外を見ると、ヒューイがあちこちをうろうろしていた。
《なんだかくさい》
(温泉の匂いよ)
《水浴びか、入ってもいい?》
(ほどほどの温度の所に入りなさいね)
《はーい》
ヒューイは竜の一種だから、高温も大丈夫かもしれないね。
奴はどうどうと流れる温泉溜まりに足を付けてはしゃいでいた。
《あったかい、おもしろい》
(あ、戻って、鞍を外すわ)
《あ、そうだね》
私は食堂の前でヒューイの鞍を外して収納袋に入れた。
「はい、行ってらっしゃい」
《お湯の流れで泳ぐ》
ヒューイは温泉で出来た池にドボンと入ってすいすい泳いだ。
「では私たちも行こうか、ジェラルド」
「はい、こっちですかな」
ケビン王子とジェラルドがタオルと洗面器を持って共同浴場の掘っ立て小屋に行った。
私とコリンナちゃんは集落のまんなかの温泉がどうどうと落ちている所の横に座った。
良い雰囲気だなあ。
「竜馬って泳げるのね」
「私も初めて知ったよ。気持ちいいみたいよ」
「そりゃいいね」
ヒューイは温泉が滝のようになっている所の下でお湯に打たれて楽しんでいた。
《これは気持ちがいい》
それは良かった。
ヒューイの楽しいという気持ちが伝わってくるとこちらも楽しくなるね。
《色んな所に入ってみよう》
ヒューイは羽を広げ宙に飛び上がった。
そして、共同浴場の掘っ立て小屋に上から入った。
げ、イメージ切らないと、ケビン王子とジェラルドの裸とか見たく無い。
「ぎゃあ、わあ、なんだ君」
「ちょっと、竜馬くん、無理をしてはいけない」
王家主従が汚い悲鳴を上げた。
《人がいた》
(余所に行きなさい)
《わかった》
バターンと、哀れ共同浴場の掘っ立て小屋の壁が倒れた。
「ひゃあっ」
「ひいっ」
ケビン王子とジェラルドが慌てて湯船に飛びこんだ。
「「……」」
私とコリンナちゃんは首を振って後ろを向いて見なかった事にした。
まあ、不幸な事故という事で。
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