第1034話 王家主従とブリス先輩と地獄谷へ飛ぶ
さっくりと午前の授業を終わらせ、今はお昼である。
昨日は王宮ランチだったので、今日はクララのパンワゴンで済ませる。
王家主従はビビアンさまの元に行った。
学園の中庭でみんなで日向ぼっこしながら食べるパンは美味しい。
「午後はマコト、どうするの」
「ダルシーの絵を描く」
「あの絵も素敵ですわよねえ」
「私の絵は完成したの?」
「したよ、巨匠に額装を頼んだ。したらアカデミーのコンテストに出さないかと言われたので匿名で出す事にした」
「あら、ま、まあ良いけど」
「可愛く描けたからみんなに見せたい」
「んもう」
カロルが脇腹をつねってきた。
にゃはは、やめろう。
午後は言葉通り集会室でダルシーの絵をペタペタ塗る。
うん、だいぶ良い感じになってきたぞ。
今度のガドラガ実習の時に、ちゃんと黄金の暁号の細部をスケッチしておかないとね。
ダルシーの細部はこの前観察したので良い感じ。
「はああ……」
ダルシーがお茶を持って来てくれて、じっと自分の絵を見つめてため息をついた。
「気に入った?」
「はい、素晴らしいです」
気に入ってくれたら何よりだなあ。
人のために絵を描くのは楽しい。
鐘が鳴ったので道具を片付けて、絵をイーゼルに乗せておいておく。
教室に戻ってホームルームの時間だ。
アンソニー先生曰く、一学期も折り返し地点を越えたので、後半に向けてがんばりましょう、とのこと。
この学園にきて、まだ一ヶ月半ぐらいなのか、色んな事件があって、もう何年もいるような気がするなあ。
色々な環境が整ってきて、お友達もいっぱいできた。
さて、卒業まで、どんな事がどれくらい起こるだろうかね。
なんだかワクワクするよ。
さあ、放課後だ。
コリンナちゃんがA組にやってきたぞ。
「あ、ジェラルドさま、こんにちは」
「うん、コリンナくん、今日は頼むよ」
なんだかギクシャクしているなあ。
ジェラルドの視線がコリンナちゃんの胸元に向いている。
ホーリーシンボルが無いのに気が付きおったか。
「やあ、今日は楽しみだね、行くメンバーはこれだけ?」
「あと、ブリス先輩ですね。ダルシー、ブリス先輩に地獄谷に行くけど、ご都合はと聞いてきて」
「はい、解りました」
この世界、スマホが無いのが困るよなあ。
ダルシーがブリス先輩を呼びに行った。
「飛空艇まで行こうか」
「そうだね、キンボールさん」
「それじゃ、行ってくるよカロル」
「うん、いってらっしゃいマコト」
笑って送りだしてくれる我が嫁であるよ。
校舎の裏口から外にでると、ブリス先輩がダルシーと共に階段を下りてきた。
「領袖、今日は地獄谷ですか」
「そう、サーリネン商会に計画書を渡す感じ、あと、王子さまは温泉に入る。私らは視察」
「了解いたしました」
アップルトンが誇る若手文官が三人揃った。
これで勝てる。
まあ、文官仕事は勝ち負けじゃないけどね。
《どっかいくの?》
(ホルボス山の北側よ、ヒューイも来る?)
《いく、ちょっと待って》
ヒューイがパスカル部長を鼻先でつついて鞍を乗せてもらい、厩舎を出るのを脳内映像で見た。
良い子だなあ。
《舟が出る所に行ってる》
(おねがいね)
私たちは、武術場倉庫口から地下道へ入り、格納庫へと歩いた。
私らが近づくと勝手にハッチが開くのでエイダさんは有能である。
便利だね。
「エイダさんありがとう」
【なんでもございません、マスターマコト】
皆でメイン操縦室に入る。
ケビン王子もジェラルドも後ろのベンチに行けい。
コリンナちゃんは航法技師席に座った。
私は艇長席によじ登り船長帽をかぶった。
「蒼穹の覇者号、発進します」
【了解しました、蒼穹の覇者号離陸シーケンスを開始します】
前方のハッチが開いていく。
遠くに渓谷の景色が見えて明るい。
私は舵輪を前に傾けて蒼穹の覇者号を微速前進させる。
やっぱビアンカ基地にもカタパルトが欲しいね。
まあ、渓谷の奥行きが足りないから難しいだろうけどさ。
斜めに中空に打ち上げられないものか。
岩盤まで出ると鞍を付けたヒューイが待っていて、飛び上がり甲板の上に乗った。
《ここでもいいよね》
(かまわないわよ)
「ヒューイ号は勝手に来るようになったのか」
「念話で連絡を取ってるけどね」
「それは便利ですね、領袖」
便利なんだよ、ブリス先輩。
王都が見渡せるこの瞬間が飛空艇の醍醐味だよねえ。
ホルボス山の方向へ回頭させて、出力レバーを押し上げる。
快調快調。
ディスプレイを見ると、甲板のヒューイが興味深そうに舳先のほうから進行方向を見ていた。
《舟もたのしい》
(うん、楽しんでね)
蒼穹の覇者号の高度を少し上げてホルボス山を飛び越すような進路を取る。
ホルボス村上空を通過したが、今日はまだアダベルは来てないみたいね。
飛空艇に気が付いた村人が手を振ってくれていた。
ホルボス山の頂上を飛び越し、旋回するように地獄谷へ。
いつもの馬車溜まりにサーリネン商会の小洒落た馬車があった。
フレデリク商会長は来ているね。
いつの間にかジェラルドがコリンナちゃんの航法技師席に来ていて、テーブル状のディスプレイを見ていた。
ケビン王子も近づく。
「やっぱり上から見えるのはいいね、地勢が解りやすい」
「王家に小型飛空艇が欲しい所です、内政が捗りますからな」
無い物ねだりすんな、王家主従。
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