第1029話 ホルボス村で皇帝陛下が危機一髪
アダベルの後を飛んでホルボス山に向かう。
今日は良く晴れて飛行日和だね。
ヒューム川を飛び越えて森の上を行く。
前に乗せた三人のちびっ子も大人しくしている。
「アダちゃんの籠よりも高さを感じる~~」
「私は風になる~~」
「ヒューイはやーい」
爺さんも楽しんでいるかな?
程なくしてホルボス村が見えた。
アダベルを見つけた村人が手を振ってくる。
広場で遊んでいたトール王子とティルダ王女がぴょんぴょんと跳ねているのが見えた。
アダベルの後に付いてヒューイも着陸させる。
よし、到着。
「たのしかった、ありがと、ヒューイ」
「また乗せてねヒューイ」
「私は風になった」
ちびっ子のベルトを外して地上に降ろしてあげた。
村人が手伝ってくれる。
「いらっしゃい、聖女さま」
「ちょっと来たわ」
村人が歓迎の挨拶をしてくれる。
私はヒューイから下りて馬繋ぎ柵に手綱を巻き付けた。
アダベルから爺さんが下りてきた。
「どうだった?」
「ご機嫌じゃったよ」
「それは良かった」
みんなが下りたので、アダベルが広場の隅でぼふんと煙を出して変化した。
「トール、ティルダ!!」
「アダちゃん~~!」
「もう、もっと来いようっ」
「わっはっは、ごめんごめん」
アダベルとトール王子とティルダ王女は抱き合ってくるくる回る。
村の三馬鹿も広場にやってきたな。
爺はそれを優しい目で見ていた。
「あれがサイズの遺児かえ?」
「そうだよ」
「楽しくやっておるみたいじゃな」
「まあね、ここなら怪しい奴が来ても一発で解るから」
「そうじゃな」
爺さんは村を見回し、ホルボス山を見上げた。
「良い場所じゃな、気候もいいし、ワシも亡命してきたらここに匿っておくれ」
「亡命してくんな」
「聖女さま、こんにちは……」
あ、やべえ、リーディア団長が来た。
爺さんを見て顔色を変えたぞ。
片手が剣に掛かった。
「……」
「……」
「……」
凄い殺気があふれた。
そりゃあ、まあ、母国滅亡の敵、ジーン皇国の皇帝陛下がいたらそうなるわな。
甲蟲騎士団の人達も殺気をあふれ出させる。
障壁を無詠唱で張っておこう。
んで、斬られたら治せば良いか。
リーディア団長は大きく息を吐くと、剣から手を離した。
「聖女さま、ご説明を」
「まあ、連れてきた」
「そうですか」
「斬らんのかい?」
爺さんが聞くとリーディア団長は睨みつけた。
「一刀両断にしてやりたい所だが……、斬れば聖女さまに迷惑が掛かる」
「おお、これは、賢明な戦士よの」
「あなたに褒められたくはないっ」
私は黙ってリーディア団長に近づき、頭を撫でてあげた。
「……、これは嬉しいです」
「うん、ありがとうね、リーディア団長」
「もったい無いお言葉です」
リーディア団長は体の緊張を緩めた。
「なに、お主らが祖国に帰る日もそんなには遠くなかろうて」
「皇国人の言う事はあてにならない。嘘ばかりだ」
「うむ、何も言い返せんのう。先日、ディーマーが正式に旧サイズの総督に任命された、奴め張り切っておったよ」
「……」
「その日まで幼子をしっかり守るがええ」
「いわれずとも」
それを聞くと爺さんはうんうんとうなずいた。
「爺さん、帰るか?」
「ああ、そうじゃな、見たい物は見れたしのう」
やっぱ狙ってやがったか、この爺め。
「爺、帰るのか、温泉入ってけよっ」
アダベルが寄ってきて、そう言った。
「そうだよ、温泉、気持ちいいよっ」
「ホルボス村の温泉は凄いよ」
トール王子とティルダ王女にそう言われて爺さんは目を細めた。
「それはいいのう、良いかな、聖女さん」
「ついでだから入っておいで、一人で入れるよね」
「わしゃ、そこまでもうろくしておらんぞ、失敬な」
「私は待ってるから、いっといで」
「では、お言葉に甘えて」
村人が爺さんを共同湯に連れていってくれた。
私はリーディア団長と共に宿屋の酒場に入った。
「おばちゃん、そば茶ください」
「あいよう、聖女さま」
二人で席に付いて一休みする。
「ごめんね、行きがかり上で連れてきてしまったよ」
「かまいません、我々は今、聖女さまの配下ですから」
「皇弟が私に謝罪に来て、それを大陸中に知らされた、奴はもう終わりらしい」
「そうですか」
「サイズの方もディーマー主導で再独立に動いているらしい、トール王子とティルダ王女が成人するまえに帰れると思うよ」
「……」
リーディア団長は黙って頭を下げた。
目に涙がにじんでいる。
「もう、サイズの苦難は終わりになっているから、元気だしなさい」
「はい、何から何まで、ありがとうございました」
「トール王子とティルダ王女の教育はこちらでも考えるから、安心してね」
「はい」
「高等生になる前に再独立すれば良いけど、そうでなかったら魔法学園に入学できるように手配するよ」
「はい」
リーディア団長は私の手を取った。
だまってぎゅっと握り、そして静かに泣いた。
「辛かったね、もう大丈夫」
「ありがとうございました、聖女さま」
リーディア団長は静かに泣き続けた。
ああ、長かった皇弟がらみのもめ事が、今、本当に終わったんだなあ。
私はそう思った。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




