第1028話 皇帝陛下がアダベルに会わせろとうるせえ
デザートのプリンを食べて外交ランチは終わった。
美味しかったが、なかなか雰囲気は悪かったな。
「王様、ごちそうさまでした、シェフの方にとても喜んでいたとお伝え下さい」
「おお、ジャックめは喜ぶぞ、大急ぎで追加しておったからのう」
シェフさんはジャックさんというのか。
覚えておこう、さすがの腕前だった。
「それでは我々は午後の授業がありますので、失礼いたします。皇弟閣下も、ギュンター皇子も、皇帝陛下も、アップルトンをお楽しみくださいませね」
にっこり笑ってカーテシーを決めて大ホールを後にした。
と思ったら皇帝陛下が付いてきおった。
なんだよ爺さん。
「ものはついでじゃ、守護竜さまに会わせておくれよ」
「昨日会ったんじゃないんですか?」
派閥のみんなと王宮の廊下を歩きながら皇帝陛下と話をする。
「会おうと思って案内を頼んだ途中でキラーマンティスを見つけてのう、そしたら聖女さんを見つけたので会ってないんじゃよ」
「キンボールさん、できれば、その、皇帝陛下のご希望を叶えてあげてほしいと王家としてはお願いしたいのだけれども」
ケビン王子にまで言われたらしょうがないなあ。
大神殿まで行くか。
《飛ぶか、飛ぶか?》
ヒューイの思念が割り込んできた。
鞍を付けに行くのが面倒臭いなあ。
かってに付けて出て来てくれればいいのに。
《まかせろ》
イメージの中のヒューイが今日の当番のデュドネさんの背中を鼻面で押した。
どうしたと彼が聞くと鞍の方に顔をやった。
『聖女様が呼んで居るのかい?』
ヒューイがうなずくとデュドネさんは笑って彼に鞍をつけて、馬房の柵を開けた。
やってみるもんだね。
私たちが王宮門をくぐると、空からヒューイが舞い降りてきた。
《どうだい》
「偉いわ、こんどから馬丁さんとパスカル部長に言っておくから、またやってね」
《うん、まかせとけ》
「なんとも賢い竜馬じゃなあ」
「古式テイムしてるからね」
「なんと、ワシの子供の頃には古式のテイマーがおったが、滅んだ物と思っていたぞ」
「ジーンの宮廷テイマーが最後みたい、技術が市井に流れて、それからアップルトンに来たのよ」
「それはまた数奇な、たしかに隷属の首輪を独占しておるアライドの言いなりになるのは業腹じゃな」
「それもあるわね、古式テイムを復活させた方が良いかもよ」
私はヒューイに跨がって、皇帝陛下を引っ張り上げた。
「じゃあ、私は大神殿に行くね」
「うん、行ってらっしゃい」
笑顔のカロルに送り出されて、私たちは空に舞い上がった。
「ヒューイは飛ぶの好きね」
《だいすきだ》
正直でよろしい。
大神殿上空に行くと聖騎士の練兵場にアダベルと孤児達がいるのが見えた。
ヒューイを旋回させて着陸する。
「おおー、マコトーーーっ! だれ、その爺」
「知り合いの爺さん、あれ、今日はホルボス山に行くの?」
「そうだー、二日も行ってなかったから、トールもティルダも寂しがってるだろうからね」
そう言うとアダベルはトンボを切って竜へと変化した。
「なんと! あの子供が守護竜様であったのか」
『そうだ、恐れおののくがよい爺よ』
「はは~~」
爺さんが頭を下げると機嫌良さげにアダベルは籠を背負った。
「おお? 何をするんじゃ、何をするんじゃ?」
「籠に孤児達を乗せて、ホルボス山に行くのよ」
「な、なんじゃと、守護竜さまに乗れるのかっ」
アダベルは寝転んで孤児達が乗りやすいようにした。
年長のナタリーちゃんがハシゴを伸ばした。
「ワシも乗りたい、ワシもワシもっ」
「だ、駄々っ子かあんたはっ」
『爺は太ってるから籠に入らぬ、諦めよ』
「そんな~~」
うーん、子供が三人ぐらい下りたら爺さんも乗れるかな。
「ヒューイに乗ってホルボス山行きたい人~~」
「はい」
「はーいっ」
「のりたいのりたいっ」
三人のちびっ子が籠から下りてきた。
「ほら、乗りなさいよ」
「い、いいのかい?」
『しかたがない、特別に乗せてやろう、みんなには内緒だぞ』
「やったーっ!!」
爺は子供返りしてんじゃないだろうな。
というか、皇帝陛下をお供無しでホルボス山につれていって大丈夫かな。
とはいえ、爺さんは喜んでアダベルの体を這い上がり、籠の中に入った。
わりとキツキツだな。
ナタリーちゃんが扉を閉めて、ストッパーを確認した。
『爺さん、重いな、まあよい、しっかり捕まっていろ』
「ワクワクするのうっ」
私は子供を三人、自分の前に乗せた。
ちょっと落ちると怖いので収納袋からベルトを出して、一人ずつ私の体にしばりつけた。
「わあい、ヒューイで飛ぶ」
「おねがいねー、ヒューイ」
「うれしいうれしい」
孤児達の声を聞いてアダベルが少しむっとした顔をした。
大きな羽を広げてバッサバッサと羽ばたく。
《姉上、勇壮だ》
『ふふ、当然である』
アダベルは空に舞い上がった。
それを追ってヒューイも空に舞い上がる。
子供達がキャーキャー歓声を上げた。
爺さんもウホウホ喜んでいる。
では行こう、ホルボス山へ。
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