第1027話 王宮飯は美味い、だがギュンターはウザイ
王宮飯はさすがに美味い。
いきなり二十人増えたのにそんな事は感じさせない料理の完成度だ。
いやあ、このレベルのランチコースがただとかこたえられないねえ。
うひひ。
若い二人を仲良くさせようと私はギュンターの席の近くに座っているのだが、奴のしかめっつらも気にならないぐらい飯が美味い。
さすがは王宮料理人であるよ。
美食の国アップルトンだけの事はある。
「なによ、辛気くさい顔をしてないで食べなさいよ、美味しいよ」
「まったく、これだから下賎の者あがりは」
美味しい物に下賎も貴族も無かろうだろうに。
まったくうっとうしい男だなあギュンターは。
「教会の膨大な力を笠に着て全てをお膳立てしてもらっているくせに、世界の中心きどりか、滑稽だな」
「ギュンター」
皇弟がやめなさいというように名前を呼んだ。
「ご飯が美味しいと言っただけで世界の中心気取りとかいわれてもなあ」
「君の力で勝ったわけでは無いだろう、思い上がるなっ」
「いや、私は何にも勝ってないぞ、そこのローマンさんが勝手に自爆して勝手に謝罪にきただけだぞ」
皇弟がぎりりと歯を食いしばった。
皇帝陛下は愉快そうに笑った。
「自分で刺客を撃退した訳ではなかろうっ、リンダ・クレイブルなどに戦ってもらったのだろう? どうしてそれを誇れるのだっ」
ダンとギュンターが机を叩いた。
びょこんとローストビーフが跳ねた。
皇弟閣下が苦悶の表情で脂汗をかいていた。
「皇弟閣下、あなたこの人に今回の事件をどうやって説明したんですか?」
「い、いや、それはその、うむ」
「全ては教会の聖騎士団と諜報部隊が攻撃をはねのけたと聞いた、ちがうのかっ」
「ちがうけど」
「ちがうぞ」
皇帝陛下からも声が掛かった。
「い、いや、信じられなかったのだ、本当に聖女マコトが全てを跳ね返したのか? 甲蟲騎士団も、刺客も」
皇弟閣下が絞り出すように言った。
「だいたい聖女マコトが陰謀をつぶしおったな、王家はほとんど動いておらん」
「あの無敵の甲蟲騎士団をおまえが寝返らせたとでも言うのか」
「そうだが、皇弟閣下になんで寝返ったか聞いて無い?」
「い、いや、サイズの遺児たちを誘拐されてそれで……」
「元々甲蟲騎士たちが皇弟閣下に従っていたのは、サイズの遺児たちを手元に置いていたからよね」
「え? 叔父上がサイズの遺児たちを保護していたのではないのですか」
「え、ああ、それは、その見解の相違という物だな、うん」
「ディーマー皇子を殺さねばサイズの遺児の命が無いのだ解ってくれとか甲蟲騎士団の団長が寝言を言うから、私が奪還してやるからこっちに付けと寝返らせたんだよ」
「え? 兄上を暗殺? 甲蟲騎士団が?」
なんか、秀才と聞いていたが、何にも聞いて無いなこいつ。
「皇帝陛下、ちゃんと説明してやってくれよ、私はめんどうくさい」
「そうじゃな、あとでちゃんと知らせよう。なんじゃ、ちゃんと説明もせずに手駒につかっておったのか、ローマン」
「ど、どういう事ですか、叔父上」
「そ、それはとても政治的な問題でな、う、うむ、一面的な見方ではわからんのだ、うん」
ギュンターは青ざめて口に手をやっていた。
「まさか」
「あんたの皇太子の座を盤石にするために、皇弟閣下は甲蟲騎士団を動かしてディーマー皇子を暗殺しようとしたんだよ、で、察知した奴は覇軍の直線号でアップルトンに逃げて来たわけ」
ギュンターの目が丸くなった。
「それら馬鹿げたもめ事で私に迷惑を掛けたから教会は怒って皇弟閣下を破門したってわけ、理解したか?」
「……」
「したら、皇弟閣下は謝罪に来た振りをして、私に喧嘩をふっかけて謝罪に来たのに許さなかったって悪評をばらまくつもりだって、皇帝陛下が教えてくれたから、昨日はそれの先手をとって許したって訳だ」
「ぬっ、兄上っ!! なんて事をっ」
「馬鹿め、ワシはお前の仲間ではないわい」
こほんと王様が咳払いをした。
「悪評を広めようという悪漢は『塔』が捕まえた。そして先に聖女が皇弟を許したという一報を王都に振りまいておいたぞ」
王様GJ。
皇弟はがっくりと肩を落とした。
「他国にもめ事を持ち込む馬鹿がおるか、これでジーン皇国は返せないほどの借りを聖女と教会に負ったぞっ」
「おや、ワシらには?」
「ほっほっほ、アップルトン王国にはあまり借りを負わなかったのが幸いじゃな」
ギュンターが立ち上がり、頭を下げた。
「しゃ、謝罪いたしますっ、我が国が聖女さまに多大な迷惑をっ」
「いらない、頭をあげろ」
「しかしっ」
「お前は何も知らない子供だ、お前の謝罪はいらない。そして皇弟閣下の謝罪は昨日頂いた、教会のネットワークで大陸中にばらまいた。これで終わりだ」
「だけどそれでは、私の気持ちが」
「ガキの気持ちなんか価値はない、座って美味しい料理を食べてジーンに帰れ」
「わかり、ました……」
ギュンターは座って震える手で料理を食べ始めた。
「やあ、ギュンターと聖女さまが仲良くなったのう、秋からの留学時もこの調子でたのむぞよ」
まったく、この爺は食えないなあ。
まあ、そうでもなければ大帝国の皇帝なんかやってられないだろうけどな。
そして、食えない所も、私はそんなに嫌いではない。
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