第1023話 コリンナちゃんを震え上がらせる
205号に入るとコリンナちゃんは勉強中であった。
「おう、マコト帰ったか」
「うん、ところであんたは何時弓の練習をするのだね」
「うっ、あー、そのー、い、色々忙しくてさ、うん、試験とかさあ、だからしかたが無いんだよ、わ、忘れていた訳じゃ無いんだよ、やろうかなあっと思うとね、色々とほら、カロルの方の帳簿を見たりさ、派閥の会計計算とかね、うん、あるんだ」
「ナージャが来てるぞ」
「ぎゃーっ!」
悲鳴を上げてコリンナちゃんは立ち上がった。
「ば、ばっかおまえおまえっ」
「再戦に来たとか言ったから一緒に連れてきた」
「な、なにしてんだよっ、し、始末しろようっ」
「んで、コリンナちゃんが練習さぼってるってチクったら激怒していた」
「ぎゃーーっ!!」
本日二発目のギャー頂きました。
「ひいいっ、い、今どこに、わ、私は逃げるから、そうだ王都脱出だ」
「ここまで連れてこようと思ったけど、途中でパスカル部長とナージャが良い感じになったので置いてきた」
コリンナちゃんは胸に手をあてて荒い息を静めていた。
「マコトは私を殺す気か、いったい、なんの恨みがあるというんだっ」
「弓の練習をしてない」
「そ、そろそろしようと思ってたんだよっ、うるさいなっ」
「今再戦すると?」
「100%負ける、電磁誘導弓なんか種を知られたら別に強くもなんともないしっ、二発しか撃てないし、弓の地力がないから勝てる訳が無い」
「練習しときなさいよっ」
「そういわないでくれよう」
コリンナちゃんは涙目だ。
「ナージャがこないように恋の神様にでもお祈りするのね」
「いつまで居るんだあいつ」
「明日の夜には帰るわよ、皇弟の謝罪は受け入れたから」
「あれ、早いね、一週間ぐらいかかるかと思った」
「王城に突撃して最速で許してきたんだ、めんどくさいし」
「マコトらしいなあ」
ナージャが来ませんようにとコリンナちゃんは小声でお祈りをしていた。
あれ、ビリケムさんって恋の成就の聖人じゃなかったっけ?
ちがったかな?
うーん、なんだっけか。
まあ、いいや。
「恋の成就のおまじないのホーリーシンボルを授けよう」
私は収納袋からビリケムさんのお守りを取り出した。
「おお、そんな物が」
せっかくだから水差しから水をコップに取って、聖水化してと。
ビリケムさんのお守りに聖水を捧げて聖別した。
ついでに乾いた布で磨いてみた。
「わあ、綺麗なホーリーシンボル」
くすみが取れたら何だか凄く高そうな感じになったな。
価値ある物じゃないだろうな。
まあ、いいや。
私はお守りをコリンナちゃんの首にかけた。
「ナージャとパスカル部長の恋が実りますように」
「ナージャとパスカル部長の恋が実って、私の所に攻めてきませんように」
二人でお祈りをするとお守りはキラキラ光った。
き、綺麗だな。
「高えんじゃないか? これ? マジックアイテムな匂いがするぞ」
「わ、私もだんだんそんな気がしてきた」
毒殺避けのシンボルか?
まあ、聖なる感じだから呪いって事は無いだろうけど、効能が解らない。
「まあいいか」
「まあ、いいや」
私もコリンナちゃんも下町ッ子で、あまり物事を深く考え無いたちであった。
「貰っていいのか? これ」
「ビリケムさんの祠で拾った物だからいいよ」
「……、聖女が拾い物すんなよ」
「聖人様のお礼の品物なんだよっ」
「なんというネコババ聖女か、おまえはっ」
「うっせえ、黙れ、破門すっぞ」
コリンナちゃんとぽんぽんやり合うのはテンポが良くて良いな。
楽しい。
「とりあえず、一日二時間ぐらいは弓を引け」
「そ、そんなに?」
「弓の練習をしないとせっかくエーミールに教わった技術を忘れるぞ」
「ぐぬぬ、師匠にも悪いか」
「あれは敵対派閥だからなかなか教えてもらう機会は無いんだから、自主練が大事だぞ」
「解った解った、一日五分はやるよ」
「みじかっ!! 勉強の時間を半分にしろっ!!」
「えー、弓引くのあんまり好きじゃないんだよ」
「ちゃんとやんなさいよ」
「うん、ちょっと不味いかなとは思ってた、明日からやる」
弓道場は夜は開いてないんだよね。
放課後は弓道部が占拠してる時が多いし。
どこか、心おきなく弓が撃てて人が居ない場所……。
ぴこりん!
閃きました。
「地下道に的持って行ってやんなさいよ、これなら夜の時間が使えるよ」
「ああ、そうか人が居ないし、十分な距離もあるね」
「弓と矢と的さえあればピュンピュンできるわよ」
「そうだね、うん、明日行ってみる」
「まだ、晩餐まで時間があるから行こう」
「えー、勉強がーっ」
「黙れ、早く来い、弓道場から的を盗み出すぞ」
「盗む言うな」
私はコリンナちゃんを引きずるようにして寮の外に出た。
もう、あたりは夕暮れで真っ赤だね。
「見つけたわ、蛇メガネっ!! 勝負よ!!」
「げえええっ、ナージャっ!!」
運悪く、学園の外に行こうとしていたナージャと行き会ってしまった。
「もう遅いからやだ」
「何を軟弱な、夜戦で勝負よっ」
「晩ご飯を食べるからだめ」
「じゃあ、明日の午前中ねっ!」
「が、学校がある」
「ちっ」
ナージャは舌打ちをした。
「では、午後に決闘しましょうっ」
「あんた、パスカル部長と遠乗りするんじゃ無いの」
「あっ……、そ、それは外せないわね……、じゃあ、明日の夜」
「帰るんじゃ無いの?」
「ははは、馬鹿ね、教会の決定は一週間ぐらいかかるわよ、皇弟さまの謝罪を受け入れる決定なのよ。時間が掛かるに決まっているじゃない」
「さっき許して来たよ。皇帝さんが明日のレセプションパーティが終わったら帰るって」
「な、なんですって!! あんたは、どうして皇帝陛下に気安いのっ」
「私が聖女マコトであるからだっ!」
「……、忘れていたわ、そうだった。あんたがあんまりフランクだから聖女候補だって失念していたわ」
「では、決闘はまた今度という事で」
「くっ、しかたが無いわね、遠乗りは行きたいし。そうね、秋よ、ギュンターさまの護衛に立候補してアップルトンに来るから、その時ね!」
なるほど、ナージャはディーマー派閥だけど、ギュンター皇子の護衛という事でアップルトンに来て、パスカル部長とラブラブするつもりか。
意外に乙女な奴め。
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