第1019話 謎の爺と王都遊覧飛行
「じゃあ、またねー」
「マコねえ、またねーっ!!」
「明日も来て明日っ」
「暇だったらねー」
私はヒューイを引いて孤児院を後にした。
孤児とアダベルはまた庭で大暴れをはじめていた。
子供は元気だなあ。
女神像の前を通り過ぎ、回廊を行くと、太ったおじさんがカマ吉に絡んでいた。
「なんともまあ、キラーマンティスなのに大人しいな、ほれ、お菓子を食うか?」
「み”っみ”っ」
カマ吉はお菓子は食べないだろう。
私とヒューイが近づくとお爺さんは振り返り、にっこりと笑った。
身なりは良いな、貴族かな。
しかし、太ってる人だな。
大汗をかいている。
「わお、聖女さんじゃ、わあ、竜馬じゃ竜馬、すごいのう、白いのう」
「こんにちは」
「こんにちは、聖女さん、ぶしつけで悪いが、この子に乗せてもらえんかのう」
「えーっ」
私が嫌な顔をすると、お爺さんは拝むようにした。
「なあ、この通りじゃ、今生のなごりに一度竜馬に乗ってみたいんじゃ」
強引な爺さんだなあ。
どっかでこの声聞いた事があるような。
ま、いっか。
「特別ですよ」
私はヒューイに跨がり、お爺さんに手を差し出した。
太っているのにわりとひょいっとお爺さんはヒューイに乗ってきた。
「これは凄い凄い、ちょっとだけ、王都を練り歩いてみたいのう」
「んもう、図々しいなあ」
とは思ったが、わりと嫌な感じはしなかった。
「陛下~~、どこですか~~、陛下~~」
「いかん、ワシじゃ、聖女さん早く行こう」
「いいんですか? 陛下?」
「ああ、南の小国の王様なんじゃよ、ワシ」
後ろをみると太ったハゲが回廊を探し回っていた。
あっ。
双子の宰相の片割れじゃん。
そうすると、爺さんは……。
ま、いいか。
これも何かの縁かね。
そうか、デブエロ皇帝の夢の時は自分が見えてなかったからか、宰相の時は双子の弟出て来たからな。
私はヒューイの脇腹をかかとで叩いた。
とっとことと彼は走り出す。
そのまま大階段を駆け下りる。
後ろを振り返るとカマ吉が手を振っていた。
「おっほーいいのうっ、もっと走っておくれ」
「はいようっ」
私はヒューイを疾走させた。
爺さんを乗せて環状線を馬車を追い越してヒューイはダカダカと走る。
三叉路を抜け、堀の向こうに王城が、手前に時計塔が見えて来た。
「あれが名高いアップルトン時計塔か、意外にちいさいのう」
「観光名所なんてそんなものよ。見たい所ある?」
「『塔』が見たいな、行けるか?」
「中は無理じゃない、外国人に開放してる訳がないし、近くまでだったら行けるよ」
「よし、見に行こうではないかっ」
「飛ぶよ」
「マジか~、ご機嫌じゃのうっ」
ヒューイの羽を展開させて私たちは宙に舞い上がる。
「うわあ、これは凄いの、空から王都が丸見えじゃわい」
「あれが『塔』本部」
「あ、わりとしょぼいのう、悪辣諜報組織だというのに」
「小さい塔だけど、地下にヤバイ施設があるらしいよ」
「外からではつまらんな、あれだ、あれ、魔法塔にいこうぞ」
「わかった」
爺さんは空飛ぶ騎獣に乗った事があるらしく、体重移動が上手かった。
くるりと綺麗にターンをして私たちは魔法塔に向かう。
遠くに天を突くような魔法塔が見えてきた。
「うんうん、魔法塔は凄いのう、さすがは先史超魔導文明の遺産だけはある」
「中に入りたければ仲介するよ、魔法省長官とは知り合いだし」
「いらんわ、魔法の説明されてものう、難しいばかりでつまらん。空から眺めるのがいいな」
私はヒューイを魔法塔を巻くように旋回させた。
オフィスの人達が私たちを見つけて手を振ってくれる。
お爺さんは手を振りかえしていた。
「あれが、あんたの通う魔法学園か、綺麗な建物よな」
「帝都とくらべてどうですか、皇帝陛下」
「おや、気が付いておったかい」
「まあ、なんとなくね」
「ほっほっほっ、さすが聖女、肝っ玉が据わっておるな」
ジーン皇国のエッポ皇帝はほがらかに笑った。
なんか夢に出て来た時と印象が違うな、むこうはもっとエロエロ爺だったが。
まあ、私が年齢的に範囲外なんだろうな。
もっと、ボイーンとしてないと駄目なのだろう。
この爺にダルシーを見せてはいかん。
「爺さん、王城まで送るか?」
「ほほ、皇帝と知っても爺さんよばわりか、よいぞよいぞ、英雄はそうでなくてはな」
爺さんはあたりを見回した。
「そうだの、大神殿の天辺に止まれるか? あそこで少し話をしようではないか」
「なんだよ」
「なに、爺の繰り言よ、こんな機会は滅多に無いでな」
私はヒューイの頭を大神殿に向けた。
ドームの天辺で王都を見ながら話をしたいってか?
ヒューイをドームの天辺に止まらせた。
丁度屋根が出っぱっていて展望台からは見えない位置だ。
「うんいい、とても絶景じゃ、アップルトン王都は綺麗じゃなあ。すばらしい」
「帝都はもっと大きいんでしょ」
「帝都はもっと大きくて、良い所と悪い所があるな」
爺さんは景色を見ながらしみじみと言った。
なんだか、皇帝というよりも、田舎の人のいい爺さんに見えるな。
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