第1018話 本堂へ巨匠を訪ねる
通路を歩いて本堂まで行く。
本堂の中でマルモッタン師が天井を見上げながらスケッチをしていた。
後ろからのぞき込む。
おお、やっぱり上手いなあ。
「なんだっ? お、あ、聖女さんか、こんにちは」
「孤児かと思った?」
「ああ、時々絵の好きな子が覗き見にくるからな」
誰だろう。
絵が好きなら伸ばしてあげたいものだが。
マルモッタン師は真面目な顔をしてスケッチを重ねている。
天井に女神様、守護竜アダベル、ヒューイにのった私がいる。
「あとでヒューイ号を見せてくれるかい」
「乗ってきたよ」
「ありがてえ、渡りに船だ」
マルモッタン師はふうと一息ついて木炭を置いた。
「んで、なんか用か、絵の具なら弟子に言ってくれ」
「絵が描けたから額装しようと思って、業者知らない」
「おお、出来たか、見せてくれよ」
「ほい」
私は収納袋からカロルの絵を出してマルモッタン師に渡した。
「こいつあ……」
マルモッタン師の眉間にシワがよった。
気に入らなかったかな。
「すげえ」
よかった。
「ああー、良い絵だなあ、あんたこの子好きだろう。うん、わかるわかるわかるぞーっ、尊い気持ちが伝わってくる。技法的にも良いな、ふわっとした背景がこの子をよく目立たせている。うーんすばらしい」
「あはは、ありがとう」
マルモッタン師は満面の笑みを浮かべた。
「聖女さん、こいつはアカデミーのコンテストに出してみねえかい?」
「ああ、この子にすぐあげたいんだけど」
「わかる、わかるが、誰かの書斎にしまっちまうのはもったいねえ出来だ。特選とれるぜ」
「聖女の名前無しでも?」
マルモッタン師はちょっと考えた。
「おう、匿名でも特選とれると思うぜ」
「じゃあ、出しても良いよ」
「匿名か、俺の女弟子って事にしとくか、うん。額装もやっといてやるよ。コンテストが終わったらこの子にあげて喜ばせてやれよ」
「そうだね、じゃあ頼むよ」
「承った。じゃあヒューイ号を見にいくか」
「おうよ」
マルモッタン師はカロルの絵を大事そうに木綿の布で包んで戸棚にしまった。
そうか、アカデミーのコンテストかー。
賞が取れたら嬉しいが、落ちても笑い話になるから良いね。
マルモッタン師と一緒に孤児院に戻った。
ヒューイは孤児達にたかられていた。
「大丈夫?」
《たのしい》
ヒューイは子供好きだなあ。
「お、巨匠、どうした」
「ああ、ヒューイ号をスケッチにきたんだよ、守護竜さん」
「そうか、でかした」
アダベルは態度でかいなあ。
マルモッタン師は新しい羊皮紙を鞄から出して、ヒューイの各部をスケッチしはじめた。
「やあ、綺麗だなあこいつは。小さいけど立派な竜だ」
「そうだぞ、私の弟だし」
《うん、姉上の弟》
マルモッタン師は黙ってしゃっしゃと木炭を動かしていく。
ヒューイの各部が羊皮紙に写し取られていく。
上手いなあ、さすがだ。
勉強になるね。
静かに絵を描いている巨匠とヒューイの周りで孤児達は従魔なんかと遊び回っていた。
子供のエネルギーはすごいよなあ。
私は収納袋から植物紙ノートを出して、細い木炭で孤児達やアダベルをスケッチし始めた。
うんうん、こういうのも楽しい。
「それ、植物紙か」
「結構良いよ、沢山あるから一冊持ってく?」
「良いのか、結構高いだろう」
「派閥の勉強用に沢山買ったのよ」
私は収納袋から植物紙ノートを出してマルモッタン師に渡した。
「薄いな、それで綺麗だ。木炭だと汚れるか?」
「ペンとインクが良いわね、木炭だとこすれ合って消えるよ」
マルモッタン師は私の手元の木炭で描いた絵を見た。
「私は固定の魔法使えるから」
私は描いた絵に時間停止の障壁を薄く張った。
ふふふ、これで木炭はすれないんだぜ。
「うお、そりゃずるい」
「なんか樹脂を噴霧して定着させれば良いんだけどね」
この世界、フキサチーフ(定着剤)がまだ無いのよ、何から作られるんだっけかなあ。
「樹脂か、うーむスライムの分泌液でも拭きかけてみるかな」
「固まる?」
「わからん、防水布には使われるが」
お昼にカロルがスライム布を引いていたな。
是非開発してほしいものだ、絵の技術の進歩にもなるしね。
というか、鉛筆も作りたいなあ。
木炭と粘土だっけか。
ああ、異世界転移用にチート発明の本を読んでおくんだった。
私は知らない事が多すぎるね。
「おやつですよ~」
「「「「うわわーいっ!!」」」」
孤児達とアダベルが孤児院に駆け込んでいった。
「マルモッタン師と聖女さまもいかがですか?」
「わしは……」
「行きましょう、マルコアス修道院の奴ですよ」
「おお、あの有名な」
私とマルモッタン師は一緒に孤児院の食堂に行きテーブルについた。
「「「「「日々の粮を女神に感謝します」」」」」
「いただきます」
ぱくり。
うーん、良いね、ミルクとも合う。
「うんうん、これは美味いな」
「もう一枚くれよう」
「もうありません」
もう食べちゃったのか、この腹ぺこドラゴンは。
私はクッキーを半分に割ってアダベルの口に放りこんだ。
ばりばり。
「美味いっ! ありがとうマコト」
「本当にアダベルはクッキー好きね」
「大好き」
前世はクッキーモンスターだったのではあるまいな。
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