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第1013話 火曜日は雨音で始まる

 ふと、意識が浮上するとピチャピチャと雨音がした。

 くそう、今日はランニングできないな。


 首をふって目を覚ます。

 どれくらいの時間かな。

 カーテンの間から窓の方を見るとまだ暗いな。

 掛け時計に目をやると、何時も起きる時刻の三十分ほど前であった。

 まだベッドの中でのたのたしていられるな。


「やったー、雨だー!」


 うとうとしてたらコリンナちゃんの叫びが聞こえた。

 そんなにランニングが嫌いか、君は。


 ふわああ、もう起きようっと。

 私はベッドのハシゴを下りた。


「おはようコリンナちゃん」

「おはようマコト! 今日は雨だっ」

「にゃろう、命拾いしやがったな」

「へへーんだ」


 洗顔したり用を足したりしてから制服に着替える。

 ひさびさにダルシーが部屋にケトルを持って来てお茶を入れてくれる。

 応接セットでコリンナちゃんと向かい合ってお茶を飲む。


 うまうま。


「今日はなにかするのか?」

「とくに用事は無いなあ。雨だしのんびりすごそう」

「それがいい、マコトは活動しすぎだ」


 そうかもしれない。

 ここらへんでまったり静かな学園生活を取り戻そう。

 毎日のように大事件が起こるのが変なんだってばさ。


 毒飼い令嬢は私の暗殺に食い付くかな?

 わりと私に毒が効かない事は知られてるからな。

 入寮記念パーティで大見得を切ったし。


 お茶を飲み終わったので、コリンナちゃんと廊下に出て部屋を施錠する。

 とことこと二人で階段を下る。

 踊り場から見る空はどんよりと曇っているな。

 雨脚も本降りだ。


 エレベーターホールでみんなと合流して食堂へ。

 今日は塩ポリッジな気分だな。

 おお、副食はソーセージエッグだ。


 みんなとおしゃべりをしながら朝ご飯を食べる。


「うぐっ、ぐあああっ!」


 上級貴族のブースの方で、女生徒が胸をかきむしって苦しみだした。

 私は衝立を飛び越して上級貴族ブースに入った。


 机を蹴倒して苦しんでいるのはノエラ・ゲット伯爵令嬢だった。


『オプチカルアナライズ』


 ぴっ。


 毒薬反応有り。

『カンタレラ』


 はあ?

 カンタレラってのは架空の毒薬だろ。

 いや、こっちの世界では実在するのか?


『アンチポイズン』


 緑色の光が私の手から出てノエラ・ゲット伯爵令嬢のドレスを照らした。

 だが、彼女の苦しみは止まらない。


『ハイアンチポイズン』


 魔法を一段階上げてみた。

 緑色の光のなかで、ノエラ・ゲット伯爵令嬢の表情がすっと和らいだ。


「ふう」


 令嬢さんたちが恐怖の色を浮かべて遠巻きにしていた。


「だれか、この人を見ていた人はいない?」

「きゅ、急に苦しみだしましたの」


 ヘザー先輩が寄ってきた。


「卵を食べた瞬間に苦しみだしたよ」


 ぬう、どれだ?

 ええい、サーチ、『カンタレラ』


 カーーン。


 お、この転がったゆで卵か。

 他に反応は、と。

 無いな、服の中に隠してあったりすれば簡単だったんだが。

 サーチの魔法も知られているかな?

 麻薬捜査の時にバンバン使っていたからなあ。


「どうやってうで卵に毒を仕込んだんだろう」

「注射じゃないか、よく使われる手口だよ」

「カンタレラが使われてますが、手に入りやすい毒薬ですか?」


 カンタレラと言った瞬間、場所の空気がザワリと変わった。


「カンタレラは不味いね」

「どうしてですか?」

「五年前に女子寮でカンタレラによる毒殺事件があったんだ。犯人はまだ捕まってない」


 五年前?

 犯人が同じなら学生じゃないのか?

 ちょっと、事件の資料を探してみるか。


 カロルが近寄って来た。


「カロル、瓶はある?」

「ちょっとまってね、はい」


 カロルが収納袋から薬品瓶の大きい物を出してきた。

 私は食べかけのカンタレラうで卵を瓶に落とし、蓋をして時間停止処理をした。


 護衛女騎士ドミトリーガードさんが駆けつけてきた。


「聖女さま、被害者は?」

「寝てるわ」


 あきれた事にノエラ・ゲット伯爵令嬢はすやすや気持ちよさそうに寝ていた。

 踏んでやろうか、こいつ。


「名探偵マコトの出番ね」

「今週は静かにしてたかったのに」

「それは無理ね」


 くそう、次から次へ事件がやってきやがるぜ。


「カロル、カンタレラってどんな毒?」


 カロルは眉をひそめた。


「ビタリ共和国の毒よ。強力な神経毒で摂取すると短時間で死亡するわ」

「魔法毒? 物理毒?」

「両方、複合毒よ」


 ああ、それでアンチポイズンが効きにくかったのか。

 やっかいな毒をつかいやがる。


 無詠唱でサーチを使う。


 カアアアアアン!


 人知れず食堂を出て行くような怪しい人物はいないな。

 たぶん、この中に犯人がいるのだろうが、正体を見せてはくれないようだ。


 私は食堂を見渡した。


「え、あれ、どういたしましたの?」


 ノエラ・ゲット伯爵令嬢が目を覚ましてあたりをキョロキョロと見渡した。


「毒飼い令嬢が動いたんだよ」

「え、まさか、そ、そんなっ!! な、なぜ私に!!」

「ビリケムさまに無茶なお願いしたからムカついたんじゃねえの?」

「そんなっ、そんな事ってっ、なぜあなたにでは無いのっ!!」

「私は毒なんか効かないよ」

「へ?」

「私は聖女だからな」


 ノエラ・ゲット伯爵令嬢は甲高い悲鳴を上げてばったりと倒れた。

 気絶したようだ。

 起きたり寝たり忙しいやつだなあ。


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[気になる点] 『ゆで卵』と『うで卵』が混じっています 第1014話の感想返信で『うで卵はマコトさんのなまり(江戸言葉)』とありましたが、第169話、第246話、第411話、第1002話などでも、マ…
[一言] 馬鹿に報いの因果ぞ来たり。くわばらくわばら。 自分が悪いくせに逆切れしたり気絶したり慌しいやつだぜw こいつのあだ名は阿呆令嬢でいいんじゃね?
[一言] 毒飼いさんは実は職人肌でなんとしてもマコトを毒殺したいとか
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