第1012話 学園に帰って晩餐をいただく
さてと、私は蒼穹の覇者号の後ろに回り込んだ。
エイダさんが何も言わないのに後部ハッチを開けてくれた。
《ついたのか》
「うん学園に着いた、厩舎にもどろっか」
《わかった》
ヒューイは後部貨物室から出て来た。
外してあった鞍を苦労して付けた。
クッキー袋が邪魔だな。
リンダさんに渡しておけば良かったか。
後悔は先に立たないので鞍の横に縛り付けた。
「エイダさん、ゲートを開けて下さい」
【四番から一番ゲート開放します】
ゲートがカシャコンカシャコンと開いていくのはロマンだよねえ。
私はヒューイに跨がった。
《いくぞ、主よ》
「おーけいっ、かっとばそうっ!」
ダダダとトンネルの中を弾丸のようにヒューイは駆けた。
発着台の端を踏み切って渓谷に飛び出し、羽を展開させて宙に舞い上がった。
いやあ、爽快爽快。
ヒューイを旋回させて厩舎に向かう。
どうも、裏からだと学園とそれ以外の境界がはっきりしないから障壁は無いみたいだね。
薄闇の中をヒューイは猛禽のように厩舎前に舞い降りた。
「お、おう、お帰り」
「まだ居たの、あんたは厩舎に住んでるんじゃないでしょうね」
パスカル部長が厩舎の中から挨拶をしてくれた。
「それはねえよ、男子寮にいるぜ。寝てる時間以外はだいたいここにいるけどな」
こいつは、なんという騎乗馬鹿なのか。
「そういや、古式テイムに興味無い」
「なに?」
お、興味あるのか前のめりになって話に乗ってきたな。
「そういや、ヒューイ号は古式テイムなんだな、どうやってんだ?」
「魔力でパスを作ってヒューイと繋いでるのよ。首輪式より騎乗楽になると思うよ。念話とか使えるから」
「な、なんだとっ!! マジか、騎獣と以心伝心、それは凄そうだ、どこで覚えられる?」
「先生は今、ガドラガで遊んでる。ヒューイの厩舎員候補に古式テイムを覚えさせてるから、そいつに習いなよ」
「あんたは教えてくれないのか」
「私は聖女特典で適当にやってるだけだから教えられん」
「そうかー、だが、それは面白いな、そいつが来るのが楽しみだな」
「期待しといて、騎獣マニアだし、騎乗が超上手いからパスカル部長と気があうとおもうよ」
「いいないいな」
パスカル部長はにこにこして楽しそうだな。
シャワー室でダルシーに手伝って貰って乗馬服から制服に着替える。
ふう、やっぱりスカートはゆったりしていいな。
パスカル部長に別れを告げて、クッキー袋をしょって、女子寮へと向かう。
ビリケム様の祠の前に誰かがいる。
女生徒だ。
毒飼い令嬢か!
と、思ったら、阿呆の子のノエラ・ゲットであった。
「なにしてんだ、ああ?」
「ふ、ふん、あなたには関係ありませんわっ」
「また毒飼いの依頼とかしてねえだろうなっ」
「し、してませんってばっ」
阿呆の子は走って逃げて行った。
まったくもう。
ビリケムさまの祠を覗くと真新しい紙の包みがあった。
あんにゃろ、またっ。
紙包みを解くと、そこには私の名前と金貨が包まれていた。
いらっ。
しかも暗殺依頼かよっ。
護衛女騎士にチクって放校にしてやろうか。
とも、思ったのだが、紙を包み直して祠に置いた。
私が狙われるのも手だな、と思った。
毒は効かないし。
そして私に攻撃してきたら一瞬でも姿を現すだろう。
うむ、そうしよう。
掛かってこい、毒飼い令嬢。
そして事件が解決したら、阿呆の子はぎゅうという目にあわしてやろう。
けっけっけ。
私は意気揚々と女子寮に入った。
エレベーターホールには派閥員が待っていた。
「マコト、ずいぶん遅かったね、何してたの?」
「ディラハンの尋問して、五本指を拾ってガドラガに行き、修道院でバタークッキーを貰って帰ってきた」
「ず、ずいぶんな大冒険してきたのね、え、ガドラガに行って来たの」
「見てきただけだけどね。本格的な観光はカロルと一緒に行くときのために取っておいた」
「そ、そう、そういえばもうすぐね、ガドラガ実習」
「楽しみだなあ」
「そうね、わたしもよ」
カロルはふんわりと笑った。
さて、エレベーターホールでいちゃいちゃしていてもしかたがないので、みんなを引き連れて食堂に入った。
さてさて、今日のメニューはと。
「今日はレンズ豆のシチューだよ」
「おお、豆のシチュー」
私はトレイをとって料理を並べていく。
レンズ豆のシチューはでっかいソーセージが二本ごろりと入っていて食べ応えがありそう。
あと、オムレツとタマネギサラダ、黒パンであった。
カップにお茶をそそいで、テーブルに持っていく。
ふんわりと燻製の匂いがするな、ソーセージからだな。
みなが揃ったので食事のご挨拶。
「いただきます」
「「「「「日々の粮を女神に感謝します」」」」」
パクリ。
あ。
ぱくぱく。
美味い美味い。
レンズ豆が良い感じに口でほどけて、そこに味の濃いソーセージが入ってなんとも言えない良い塩梅だね。
やあ、美味しいなあ。
「ガドラガへ何をしに行ってらっしゃいましたの?」
ヒルダさんが聞いてきた。
「五本指を送っていったよ」
「ああ、さようでございましたか」
あそこの大穴を探検するのは楽しそうだなあ。
「ガドラガ実習が始まる前に、影フクロウを入手したいですわ」
「あ、そうだね、週末に行こうか」
「はい」
「カロルも行く?」
「うーん、あんまり従魔に興味が湧かないわ」
カロルにはチェーン君がいるからな。
影獣迷宮はジーン皇国の中だから、なるべく人が少ない方が安全かもしれないな。
うんうん。
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