第1010話 マルコアス修道院でお茶とクッキーをいただく
そんなわけで、ガドラガを飛び立ち、ちょっと南下して、やってきましたマルコアス修道院。
渓谷の谷間にある小さい修道院だね。
牛の放牧をやっておるな。
「牛美味そう」
副艇長席のアダベルがよだれを垂らした。
「乳牛だからそんなでも無いでしょう」
「あまり美味しくない牛がいるのはそういう事なのかー」
修道院の中庭に着陸しようとしたら中から太った尼さんが出て来た。
偉い人かな。
蒼穹の覇者号を着陸させて、わたしたちは舟を下りた。
太った尼さんが待ち構えていた。
「どちらさまでございましょう?」
「クリスティーヌ修道院長、当代の聖女さまのおなりです」
「まあっ、リンダ・クレイブル! またあなたの悪戯じゃあありませんわよね、聖女さまを騙ったりしたら罰があたりますよっ」
なんだろう、修道院長とリンダさんは顔見知りなのかな?
「ここは私が育った修道院なんですよ」
「ああ、それでー」
「こ、この舟はまさか……」
「蒼穹の覇者号です、聖女ビアンカさまから受け継ぎました。私が当代の聖女候補マコト・キンボールです」
「まああああっ、本当ですの、これは大変な失礼をいたしました。お詫びいたします」
「良いんですよ、いきなり来た私たちも悪いのですから」
「こんな場末の修道院へ聖女さまをお迎えするなんて、なんと光栄な事でしょう」
「修道院長、先頃女神さまに祝福を受けた守護竜さまもいるぞ」
「ああああっ、ほ、本物ですの? まあ、なんという神の奇跡」
修道院長は感極まってアダベルを抱きしめた。
「むぎゅう」
「今日はマルコアス修道院の記念日になりますわ。ようこそようこそ」
「バタークッキーを食いにきたんだ」
「あらまあっ」
「うちの守護竜がひもじくなっていたので、名産の美味しい物を食べに寄ったんですよ」
「まあああっ、ようございますようございますっ、神聖な存在に喜捨するのは神に仕える者の勤めでございます。いますぐ、バタークッキーとお茶をお出しいたします」
修道院長は踵を返して修道院に飛びこんでいった。
「クリスティーヌ修道院長は良い人なんだけど、ちょっと慌て者でね」
「良い人だし、良い修道院ね」
窓から尼さんが鈴なりになってこっちを見ていた。
案内も無いけど、みんなで修道院の中に入ってみる。
古い建物だけども掃除が行き届いて良い雰囲気の修道院だなあ。
女神さまの像があったのでお祈りを捧げた。
尼さん達はお祈りが終わるまで待っていてくれた。
「さあさあ、聖女さま、守護竜さま、マルコアス修道院にようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」
「お世話になります」
「今日はこちらにお泊まりになりますか、何も無い地方ですが、教会や遺跡はいくつかございましてよ」
「いえ、クッキーを頂いたら王都に帰りますよ」
「まあ、それは残念ですわ。今度お暇な時に是非いらっしゃってくださいませ」
「クッキーが美味かったらまた来る」
「あらあら、守護竜さまのお眼鏡にかなえば良いのですが」
別室にお茶が用意されて、バタークッキーが山のようにお皿に盛られていた。
「おおっ!! 良い匂いっ!!」
「この修道院で取れるバターと牛乳、あと村で取れるメイプルシロップをたんとつかっておりますのよ、どうぞ、召し上がれ」
「いただきまーす」
「日々のアレを女神に感謝」
アダベル、お祈りが適当すぎるぞ。
パクリ。
ポリポリポリポリ。
ほーっ。
さっくりとした歯触りで、まずバターの風味が口いっぱいに広がって、押さえた甘さのメイプルシロップの味が追いかけてくる。
これは美味い。
「うまいうまい」
アダベルもバリバリクッキーを食っている。
それをクリスティーヌ修道院長が優しい目で見ていた。
これで、腹ぺこドラゴンも大満足であろう。
「懐かしい味ですね。昔からちっとも変わらない」
「あなたは変わりましたね、リンダ、見違えましたよ」
「そうですか、それはありがとう」
「昔のリンダさんはどんなだったんですか?」
クリスティーヌ修道院長は見事なしかめっつらをした。
「もう、暴れん坊のいたずらっ子でしてね、村に行って気にくわないって言ってはガキ大将をぼこぼこにしたり、先輩シスターと決闘してみたりでもう、手が掛かる子だったのですよ」
「そ、そこまで酷くは無かったでしょう」
「ほほほ、これでも言葉を選んでますよ、聖女さまの前ですからね」
「ううっ」
「あんまり手が掛かるので、隣の教会の神父さんに預けて鍛えて貰う事にしたんですよ、神父さんは昔、剣豪でしたので。そしたら剣が面白かったのか、めきめき腕をあげましてね、最後には聖騎士にまで出世したんですのよ」
「師匠は元気ですか」
「ええ、まだまだ元気であなたの後輩をしごいているわよ」
「それは良かった」
そうか、リンダさんは大神殿の仕事でなかなかこっちには戻れなかったんだなあ。
「ここのバタークッキー気に入りました、ちょくちょくお邪魔しても良いですか」
「私も気に入った、毎日来ていいか」
「毎日は困りますけれども、ちょくちょく寄っていただければ嬉しいですわ。リンダに会いたい者も沢山おりますのよ」
「では、時々きますよ」
「リンダをよろしくお願いしますね、聖女さま。乱暴ですが、根は優しい娘ですので」
リンダさんは困った笑顔を浮かべていた。
ちょっと照れくさいんだろうなあ。
うん、ここに来るときはリンダさんと一緒に来よう。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




