第1008話 嵐を飛び越えてガドラガへ
【前方に低気圧性の雷雲があります】
「平たく言うと?」
【嵐があります】
ふむ、私は天気図が出ているウインドウを眺めた。
記号ばっかりで良くわからないな。
「ガドラガの上空は?」
【ガドラガ地方は晴れです】
道中に嵐の地帯があるわけか。
「嵐は避けられる?」
【可能です、高空を行けば雷雲の上を跳び越せます】
「それでいこう」
【高度四千クレイドまで上昇ねがいます】
「高高度?」
【そこまで高くはありません】
高高度は一万とかだっけか。
独特の景色で好きなんだけど、ガドラガまでならそこまですること無いのか。
「もの凄い飛空艇だな」
「凄いだろう、蒼穹の覇者号って言うんだぞ」
「そうか」
マヌエルにアダベルが自慢げに説明していた。
私は操舵輪を引いて蒼穹の覇者号の高度を上げていく。
前方の黒い雲に飛びこんで船体を雨が叩いていく。
景色は雲で見えないね。
ポン、と黒雲を突き抜けると頭上に青空が果てしなく広がっていた。
「おお~~」
「おお~~」
うるせえな後ろのちびっ子二人は。
片方は中身オヤジだが。
「これはまるで夢の中のようだ」
「空の中層は綺麗なんだよなあ。知ってるか、あの雲に乗って寝転ぼうとしても落ちるんだぜ」
「そんな事をしてるのか、お前は」
「いいじゃんかよう」
ラウンジの映像を映しているディスプレイを確かめると、五本指が窓に張り付いて外を見ていた。
まあ、楽しんでおくれ。
蒼穹の覇者号は雲海の上をのんびりした感じで飛んでいる。
というか、雲しか見えないからのんびりなだけで、結構速度は出ているのだよね。
ダルシーがお茶を持って来てくれた。
「ありがとう」
「ついにガドラガですね、胸が高鳴ります」
「今日は五本指を下ろすついでに上からちょっと見るだけよ」
「それでも、ですっ」
そう言うとダルシーは姿を消した。
「あのメイドはどういう仕組みで消えるんだ?」
「ダルシーだからだっ」
「さては、お前、知らないな」
「しらんっ」
なんだか、会話がかみ合っているんだか、かみ合っていないんだか。
お茶を飲もう。
カプカプ。
美味しい。
「マコト~、甘いモンくれ~~」
「ほいよ」
私は収納袋からソバボウロを出して、アダベルに放った。
「おお、これこれ。マヌエルにもやろう」
「ああ、うん、なんだこれは、蕎麦?」
「そば粉で作ったソバボウロというお菓子だ。あんまり甘く無いけど癖になる」
「ふむ、ふむ。確かに」
ちびっ子二人はソバボウロをカリカリ食べていた。
リンダさんも手を伸ばして食べている。
私は自動操縦のスイッチを入れた。
「エイダさんおねがいね」
【了解です】
さて、五本指の様子を見にいくかな。
私は船長椅子から下りた。
「ここは任せろ、私が監視しててやる」
「たのんだよ、アダベル」
「まかせろっ」
そう言うとアダベルはポーンとジャンプして船長席に座った。
「機械さわるなよ~」
「判った」
【スイッチ類は全て無効にしておきます】
そうだね、子供を操縦席に乗せると事故が起こるから、それが安全だ。
「俺も行こう」
マヌエルが付いて来た。
で、リンダさんは無言で付いてくる。
メイン操縦席にアダベル一人は大変に不安だが、まあ、大丈夫だろう。
なにしろ守護竜だから。
マヌエルは豪華な船内をきょろきょろ見回して驚愕していた。
「なんだこれは、空飛ぶ宮殿か?」
「豪華飛空艇だ」
「金の使い方がおかしすぎる」
「先々代の聖女にいってくれい」
「悪女ビアンカか……」
まあ、そんなに悪女でも無いんだけどね。
螺旋階段を上ってラウンジに入った。
「みんな楽しんでる?」
「すっげええなああ、これ」
「本当に揺れないし、凄いわね」
「お、ちびっ子もいるな、だいたい、お前はなんだ?」
「俺はマヌエルだ」
「あれだ、ディラハンの中の奴」
「「「「「……」」」」」
全員、どっと笑った。
「おまえだったのかーっ!」
「凄い騎乗能力だったよね、一芸ある奴は好きだよ」
「聖女にとっ捕まって改心させられ中か」
「お、おまえらだってそうだろうが、凶悪犯罪者集団みたいな顔をして、一発で寝返りやがって」
「いや、私たちはさあ、社長に金貨袋で殴られてさあ」
「聖女さんにもはめられたけどよう」
クヌートの足下の影から、ペスとジョンとポチが顔を出した。
「おー、おまえら、元気だったかー、よーしよしよしよし」
ポーポーちゃんも出て来て、四匹をなでくりまわしてやった。
「なんだそれ?」
「従魔、影犬と影フクロウ」
「あの希少種か、こんなに……」
「居る所には居るんだよ。今度聖女さんともう一人の嬢ちゃん連れて行くから、マヌエルも来るか?」
「うむ、何匹か欲しいな」
なにげにこいつ研究熱心だよな。
「古式テイムは簡単なのか、クヌート師匠」
「小物なら、ほれ」
クヌートは頭に鳥を乗せているローゼと、ハイノ爺さんのリスを指さした。
「騎獣は?」
「騎獣は結構手間だな、一週間とかかかるぜ」
「ふむ、手軽では無いが、一週間か」
「騎獣はパスで念話できるのと、視界を共用できるのが良いな」
「師匠は騎獣は?」
「一匹テイムしたことがあるが、まあ、俺は潜入戦闘がメインだからな、手放した」
そうか、クヌートの戦い方だと、影犬サイズが丁度いいのか。
というか、影犬を手に入れたからこその戦い方か。
マヌエルは騎獣をテイムしたいらしいなあ。
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