第1007話 大神殿前で五本指をとっ捕まえる
「聖女、お前は重心移動が雑だ、ヒューイの旋回の前に重心は移動させておくものだ」
なんかうるせえなこいつ、指示厨か。
とりあえず、先読みして重心を移動させてみようか。
お。
おおおっ?
旋回範囲が狭くなったな。
「よし、良くなった、才能があるぞ」
「空の騎獣も乗った事があるの?」
「空も陸も水も、全部乗れる、俺は専門家だぞ」
そりゃ凄いな。
今度、パスカル部長のケルピーのコーチもして貰おうか。
《乗せやすくなった》
ヒューイにも先読み体重移動は好評のようだ。
くそう。
あれこれ文句を言われながら、私はヒューイを大神殿まで飛ばした。
おっと、大階段の所に五本指が揃っているな。
旅装だ。
ガドラガに出かける所だったか。
私は大階段へとヒューイを着陸させた。
「おーい、おまえら」
「お、聖女さん、どうしたい」
「これからガドラガかい?」
「そうだ、ちょっと行ってくるよ」
「社長に色々覚えてこいって頼まれてるしね」
ミリヤムさんが言う社長はカロルの事だな。
「ちょっとこいつに古式テイムを仕込んで欲しかったんだけどなあ」
「お? ずいぶん綺麗なガキだな」
「きゃー、可愛いっ! 聖女さんの弟?」
「違う、俺は三十五だ」
「「……」」
「ハーフリングかのう」
「先祖返りらしいよ、爺さん」
「道々仕込むっても、テイム魔獣を狩りながら移動すると時間が掛かるからなあ」
「ガドラガまで徒歩でどれくらいよ」
「一週間だな、ぶらぶらのんびり行こうと思うんだよ」
「せっかくのシャバだしな」
ふむ。
「エイダさん、大神殿に飛空艇を廻して」
【了解しました、しばらくお待ちください】
「まさか、送ってくれんのか?」
「ああ、その代わり余った時間でこいつを仕込んでおくれ」
「わあ、あの飛空艇に乗るのは夢だったんだよ」
大階段の上からローゼとキルギスが下りてきた。
「あれ、聖女さん」
「どうした、クヌート」
「聖女さんがガドラガまで飛空艇で送ってくれるってよ」
ローゼはぴゅうと口笛を吹いた。
「そりゃ助かる、明日の昼には付けるかね」
「いや、夕方にはガドラガに着けるが」
「そ、そんなに速いのか?」
「姉ちゃん、飛空艇は速いんだよ」
とりあえずヒューイに乗ったまま大階段を上がり、回廊を通って聖騎士団の練兵場へと移動した。
空からゆっくりと蒼穹の覇者号が降りてきた。
そして後ろからでででと足音が聞こえて練兵場へアダベルが下りてきた。
「飛空艇、どっか行くのか行くのか」
「五本指をガドラガまで送って行くんだ」
「私も連れてけっ、何しろ私は守護竜だからな」
どういう理屈だ、それは。
「キルギスも行く?」
「え、あー、良いのか」
「まあついでだし」
「そ、そうか、ありがとう」
アダベルは私の後ろのマヌエルを見つけた。
「おっ、おっ、お前誰?」
「マヌエルだ」
「そうか、新しい孤児?」
「ちがう、俺は大人だっ」
「そうか、ヒューイもこんちは」
《こんにちは、姉者》
アダベルは人の話を何にも聞かないな。
「孤児達は?」
「勉強だって」
「アダベルは?」
「勉強なんて午前中やったら十分なんだ」
こいつ、逃げてきおったな。
「ずいぶん流暢に人間の言葉を喋るのだな」
「守護竜だからっ」
蒼穹の覇者号が着陸したので、まずはヒューイを後部格納庫に入れた。
「ここで待っててね」
《ここは好きだ》
飛空艇のヒューイの定位置だからね。
船体の外に出て、ハッチから中に入る。
「どこに居ればいいんだ~?」
「ご案内します」
「うおっ、どこから出た!」
大男のブルーノがいきなり現れたダルシーにびっくりしていた。
「ラウンジにつれて行って、お茶を出してあげて」
「かしこまりました、マコトさま」
ダルシーは五本指の連中とキルギスを連れて船の奧の方に入って行った。
私がメイン操縦室に入ると、マヌエルとアダベルとリンダさんが付いて来た。
「リンダさん、いつの間に」
「五本指の奴らは何時裏切るか判りませんからね、用心は大事です」
「仕事は良いんですか?」
「マコトさまの身の安全を守るのが私の一番の仕事です」
んもう、まあ、良いけどね。
確かにガドラガに行くのにリンダさんが居れば安心ではある。
「どこに座れば良いんだ」
「こっちだ、マヌエル」
アダベルがマヌエルの手を引っ張ってベンチに座らせた。
リンダさんも隣に座った。
「エイダさん、ガドラガまで飛行します」
【了解です】
ポロリンと音がして、マップ上に航路が表示された。
片道二時間ぐらいか。
「まさか、ガドラガ大迷宮に入るとは思わなかった」
ベンチに座ったマヌエルが表情を曇らせた。
「クヌートに古式テイムを習って、何か拾ってらっしゃいな」
「そうか、判った。あの男が古式テイムの師匠なのか」
「そうだよ、ジーン皇国の宮廷に居たテイマーに習ったんだって」
「ジーンは最後まで古式が残ってたらしいからな。なるほどな」
なんかいきなりガドラガ行きが決まったな。
まあ、レアキメラ退治の前に様子をみてくるのも良いかな。
「エンジン出力上昇」
【蒼穹の覇者号、離陸シーケンスに入ります】
フワッと体が浮く感じがして、蒼穹の覇者号は上昇しはじめた。
さて、行こう行こう。
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