第1005話 ヒューイにのってディラハン氏の面会に行くぞ
「私はちょっとディラハン氏と会ってくるわ」
「そう、じゃあ、私は錬金に戻るね」
「ありがとうねカロル」
「どういたしまして」
カロルはふんわりと笑った。
んもーっ、カロル好き好きっ!
愛するカロルと別れて学校厩舎に向かう。
空を飛んで警備騎士団まで行こうかな。
厩舎に入るとパスカル部長が騎獣の寝藁を変えていた。
いつもいるなこいつ。
「おーう、聖女」
「たいへんだね、がんばれ」
「俺はこういうの好きだからな」
伯爵のおぼんぼんなのに体を動かす事をいとわないのは良いな。
「ヒューイ号に乗るのか」
「ちょっとでかけてくる、トッドさんは?」
「今、出かけているから、俺が準備してやるよ」
「ありがとう、悪いね」
「将来の騎乗部員だからな、先行サービスだ」
「入らねえよ」
「まあ、それでもな」
パスカル部長は笑いながら奧からヒューイを引き出してきて鞍を付けてくれた。
おっと、騎乗服に着替えるのを忘れていた。
「ここ、着替えるところある?」
「そっちにシャワー室がある、鍵も掛かるぞ」
「ありがとう、借りる、ヒューイちょっと待ってね」
《待ってる》
シャワー室に入ると当然のような顔をしてダルシーが姿を現した。
手伝ってもらって騎乗服に着替えた。
よし、騎乗服着ると気持ちが引き締まるな。
シャワー室から出ると私を見てパスカルがヒューと口笛を吹いた。
「格好いいな、あんた綺麗だな」
「うるせえよ、騎乗部は女子いねえの?」
「いねえ、男子のみ五人」
「むさい部活だなあ」
「ほっとけ」
私はヒューイに跨がった。
「学園から外に飛び立つのはできるんだよね」
「ああ、外から中に入るときもガクっと高度が落ちるけど、空系の騎獣ならなんとかなるぜ」
それは良いことを聞いた。
飛空艇の格納庫から学園まで飛んだ事があるが、あそこは敷地の内なのかな?
とくに異常は感じなかったけど。
正門と循環路沿いの壁だけかな?
「いくよ、ヒューイ」
《わかった》
私が脇腹に軽く拍車を入れるとヒューイは羽を展開して羽ばたきはじめた。
「やっぱ竜馬はすげえなあ」
「貸さねえからな」
「ちえっ」
ヒューイは空に舞い上がった。
手を振るパスカル部長がみるみるうちに小さくなる。
図書館の屋根を飛び越して私たちは自然公園方面の森の上を飛ぶ。
ああ、やっぱり飛ぶのは気持ちが良いね。
風が強くなったので、ゴーグルを下ろして目を保護する。
《どこに行く?》
「王都の北東の警備騎士団の本部にいく」
私は脳内に本部の建物と経路をイメージした。
《わかった》
ヒューイはうなずいて頭を北東に向け飛行した。
王城直上は飛行禁止だから、環状路沿いに北上していく感じだ。
目の下の街がおもちゃのようで楽しい。
下で通行人が私たちを見つけて指さしていた。
空を飛ぶのは早い。
あっというまに警備騎士団本部であった。
馬車溜まりに向けて着陸させる。
ストンという感じに降りられるね。
私たちが降りると、ギヨーム団長とアルマン副団長が建物から出て来た。
「聖女様~~」
「こんにちは、ギヨーム団長、アルマン副団長」
「突然のご訪問ですな、何か御用でも」
「ディラハン氏……、なんてったっけ、ウエストン家の」
「マヌエル・ウエストンですな。お会いしますか?」
「アライド側からマヌエルさんは好きにして良いと聞きましたので、どうしようかと、とりあえず面会に来ましたよ」
「守護竜アダベルさまを盗みだそうとした大罪人ですからな、教会の方で火あぶりにしますか?」
「まさか、とりあえず話を聞いて、馬鹿だったらアライドにでも捨てに行きます」
「そうですか、こちらにどうぞ、ご案内いたします」
ギヨーム団長自ら監房の方へ私を案内してくれるようだ。
「ヒューイ号はこちらでお預かりします」
「おねがいします、ちょっと行ってくるねヒューイ」
《わかった》
ヒューイはアルマン副団長に連れられて馬屋の方へと向かった。
ギヨーム団長が私を案内したのは、監房の建物の二階だった。
「一応貴族ですからな、こちらの貴族房へ入れてあります」
「意外と良い部屋ね」
ドアが開いている監房を覗いてみると、監獄というよりもビジネスホテルみたいだった。
他国の貴族は身代金が取れるかもだから、扱いが平民とは段違いなのか。
「マヌエル、面会だ」
「なに、俺か、誰だ」
ギヨーム団長は返事せずに鍵を開け、ドアを開いた。
中にはちびっ子が一人居た。
金髪で青い目の人形のような子供だ。
「え、マヌエル?」
「そうだ、お前は?」
「子供じゃん」
なんだか無意識に子供に近寄って頭をなでなでしていた。
子供はあからさまにしかめっ面をした。
「やめろっ、俺は三十五だ、子供じゃないっ」
「あ、すまん、聖女だ」
「あ、ああ、そうか、甲冑をガンガン叩いて尋問してたな」
そういうのは忘れろ、子供め。
私はベッドに座ったマヌエルの前に椅子を持って来て座った。
入り口ではギヨーム団長が仁王立ちしている。
「なんで子供なの?」
「子供じゃ無い、俺は大人だ。三代前の先祖がハーフリングの妾を貰って、その血を引いた」
なんという美ショタなのに、中は中年親父か。
そりゃ、当主にはなりにくいよなあ。
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