第999話 リチャードお兄さんを送っていって旅行は終わった
「私たちはブロウライト家のタウンハウスに行って、それから学園にもどるけど、アダベルはどうするの?」
「孤児院でちょっとおしゃべりしてから帰ろうかなあ」
「そうしなさいよアダちゃん」
「旅行のお話聞かせて聞かせてっ」
アダベルは人気者だなあ。
「もう夕方だから早めに家に帰りなさいよ、学園長心配するから」
「わかったよー」
私たちはアダベルを残して飛空艇に乗り込んだ。
「夢のようですね、あの大神殿に来られたなんて」
「明日にでもお参りに行くといいぜ」
「そうするよ、いやあ、王都観光が楽しみだなあ」
そうだね、ずっとアイアンリンドに居て外に出られなかったリチャードお兄さんは初めての王都で楽しみだろうな。
飛空艇を手に入れて良かったなあ。
「では離陸……」
エルマーが出力レバーを押し上げた。
【蒼穹の覇者号、離陸シーケンスに入ります】
フワッと浮き上がり、ちょっと飛んでブロウライト家のタウンハウス上空である。
エルマーはゆっくりとタウンハウスの庭に蒼穹の覇者号を着陸させた。
「到着です」
「おー、これが我が家のタウンハウスか」
「結構立派だろ、あいつもいるよ」
「ああ、そうか、うん」
あいつって長耳さんかな。
カーチス兄ちゃんの入学に合わせてアイアンリンドから王都に来たのかね。
船を下りると家令さんらしい太ったおじさんが出迎えてくれた。
「リチャードお坊ちゃま……」
「来たよマルク」
「おお、おおっ、王都でリチャードさまをお迎えできるとは、夢のようですぞ」
「飛空艇のお陰さ」
そう言ってリチャードお兄さんは蒼穹の覇者号を見上げた。
「ありがとう聖女さん、夢のようだよ」
「いえいえ、王都を楽しんでください」
「本当にありがとうございました。フィルマンさまはつつがなく領地まで到着なさいましたか?」
「父さんと母さんは問題無く到着したぞマルク」
「飛空艇とは、なんとも素晴らしい物ですね」
「また、夏か秋に迎えに行きますよ」
「その節はどうかよろしくおねがいたします」
『リチャードを連れて来てくれたんですね、ありがとう聖女さま』
「うん、せっかくだから」
耳元で長耳さんの声が聞こえた。
喜んで貰えて何より。
「具合が悪くなったら遠慮無く学園まで知らせてください、治しに来ますから」
「ありがとう、本当に嬉しいですよ、聖女さん」
タウンハウスから黒い影がカーチス兄ちゃんへと飛びかかった。
「うっきーっ!!」
「おお、モンチー、寂しかったか」
「うききききーっ!」
モンチーはカーチス兄ちゃんに取り付いて喜びを全身で表していた。
「おお、これが噂のモンチーか、よろしくね」
「うっききーっ」
男子寮でモンチーをどうやって飼っているのだろうか。
きっと執事さんが面倒を見ているのだろうな。
我々はモンチーと一緒に飛空艇に乗り込んだ。
なでなで。
おお、毛並みが柔軟で肌触りが良いぞ。
「うっききき」
「頭もよさそうね」
「おうよ、モンチーはお利口なんだぜっ」
「従魔か……」
エルマーも従魔が欲しいかね。
何が似合うかな、ペンギン?
ペンギンの魔物って居るのかな。
「さて、学園に帰ろうか」
「黄金週間も終わりね、ちょっと寂しいわ」
「そうだね、色々あったけどあっという間だった」
「離陸する……」
しかし、楽しかった。
飛空艇があったからアイアンリンドまで行けて良かった。
みんなで旅行をするのは楽しいね。
飛空艇はふわりと舞い上がり、渓谷のビアンカ基地入り口へと降りていく。
エルマーも操縦に慣れて来たのか危なげがないね。
するするとバックでトンネルを下がって行く。
格納位置で蒼穹の覇者号は着陸した。
私は伝令管の蓋を開ける。
「お知らせします、艇長のマコト・キンボールです。本船は定刻通りビアンカ基地に到着いたしました。みなさま押し合わず下船をお願いします。お疲れ様でした」
「学園に帰ってきたわね」
「なんだか懐かしい感じ」
「我が家が一番だね」
我が家じゃないけどね。
ハッチを開けると派閥員のみんながどやどやと降りていく気配がする。
【マスターマコト、全員下船いたしました】
「ありがとうエイダさん、またお願いね」
【了解です、いつでもお呼びください】
さてと、カロルとコリンナちゃんと連れだってメイン操縦室を後にして格納庫に降りる。
エイダさんに後部ハッチを開けてもらい、ヒューイを出した。
「ヒューイを馬屋に預けてくるわ」
「そいじゃ、また明日なマコト」
「またねー、みんな」
「また明日……」
男衆が格納庫のドアを開けて出ていった。
「エイダさん、格納庫のドアを開けてください」
【了解しました、一番、二番、三番、四番ゲート、開きます】
目の前で格納庫のドアが開いていく。
ヒューイでトンネルをくぐるのは初めてだな。
鞍を乗っけてベルトを締めてヒューイに跨がる。
「それじゃ、あとで、食堂で」
「わかったわ、エレベーターホールで待ってるから」
「うん、じゃあ、行こうヒューイ」
《わかった》
ヒューイは長いトンネルが気持ちが良いのかウキウキした気分で走り出した。
おお、早い。
四番ゲートを抜けて着陸台で踏み切ってヒューイは羽を広げて空に舞い上がる。
あっははははっ。
夜の空に飛び立つのも爽快だなあ。
森を飛び越して厩舎を目指す。
ヒューイをふわりと着地させると、パスカル部長がいて、目を丸くしていた。
「あんたはいつも厩舎にいるわね」
「騎乗部部長だからな、しかし、綺麗に飛ぶなあ」
「竜馬だからね」
私はヒューイから降りると馬丁さんに手綱を渡した。
「それじゃ、ヒューイ、また明日ね」
《まってる》
「暗くなって来たし、女子寮まで送るか?」
なんだよ、パスカル部長のくせに紳士的だな。
「必要無いわ『ライト』」
私は光球を打ち出して夜道を歩き始めた。
「じゃあ、またね、パスカル部長」
「おう、今度レースを見に行こうぜ」
「時間が合ったらね」
さてさて、女子寮に戻って晩餐にしよう。
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