第997話 トール王子とティルダ王女に影犬を返してもらう
「エイダさん、ワインを二樽と貨物を二つ下ろしてください」
【了解しました】
マジックアームがウイーンガチャコーンと動きはじめた。
「ワイン樽二つは多いかと」
「半分は地獄谷に運んであげてください」
「ああ、なるほど、あとで団員に運ばせます」
リーディア団長は深くうなずいた。
本当は船で行って下ろしたいのだけれどねえ、まあ、またヒューイで行けば良いね。
あとの貨物は学園長の家と大神殿だな。
派閥の集会室にハムソーセージを置いておくと、アダベルに食い尽くされるであろう。
キンボール家にもハム一本ソーセージ一繋がりをお裾分けしよう。
お養母様が喜びそうだ。
「あ、そうだ、トール王子、ティルダ王女、ワンコを返して貰いにきましたよ」
「えっ」
「やーだーっ」
影からぴょこんと首を出したジョンにティルダ王女が抱きついてだだをこねた。
「人の従魔ですから、返さないといけないんですよ」
「ジョンが居ないと寂しいっ、いつも寝るときに影から出てきて番をしてくれたのーっ」
ジョン、貴様、幼女をたらしこみおったのか。
「僕は、うん、返します」
トール王子の影からペスが出てきて私の方に歩いてきた。
「おお、ペス、ご苦労様」
ねぎらいに、ペスの首筋をもしゃもしゃしてやった。
「ティルダはミーちゃんがいるから良いじゃんか」
「ミーちゃんはミーちゃん、ジョンはジョンなのーっ」
ティルダ王女はうわーんと泣き始めた。
困ったなあ。
「ティルダさま、いけません、聖女様がお困りですよ」
「だってえだってえ」
ジョンの首に顔を埋めてティルダ王女は泣いた。
ジョンは前足を上にあげてティルダ王女の頭をポンポンと叩いた。
「ジョン~~」
「ばうっ」
「いっちゃやだよう~~~」
「ばうばう」
ジョンは優しい声で鳴いて前足で彼女の頭を撫でた。
すっかり懐いてしまったんだなあ。
ペットと別れるのは辛いよねえ。
愛情深い子なんだなあ。
「ティルダ、僕らが王国に帰ったら、きっとジョンみたいな犬を飼ってあげるから、今は、ね」
「うぐぐぐっ、おにいちゃ~~んっ」
ティルダ王女はトール王子に抱きついて泣いた。
アダベルがそっと寄り添って二人を抱いた。
偉いね二人とも。
アダベルもやさしい。
「ジョンもお疲れ様」
「ばうっ」
私が頭を撫でると誇らしげにジョンは胸を張った。
うん、えらいえらい。
影犬を二匹私の影に潜ませた。
ああ、ワンコがいると何か安心だな。
王女の気持ちがわかるなあ。
よし、ホルボス基地に来た目標を達成である。
ヒルダさんが音も無く私のそばに寄ってきた。
「やはり、影魔物捕獲ツアーをするべきかと」
「ヒルダさんは影フクロウが欲しいのね」
「欲しいですわっ」
即答だよっ。
でも、私も影犬は欲しいなあ。
奴らはえらく便利であるよ。
今度クヌートに相談してみよう。
もっと大きな収納袋も欲しいし、欲しい物がいっぱいだなあ。
「学者さん、船はこれから王都なんですが、なんだったら乗せていきますよ」
これは言外に、とっとと魔法塔に帰れやこらあっ、というのを匂わせた発言であるのだ。
「わ、私たちは、黄金週間後半組なので、その、あ、明日帰る予定なのです」
「ま、まだ、カタパルトを堪能しておりません、なにとぞなにとぞ」
ちっ、ここは領主の舘の一部で魔法塔の保養所じゃあねんだぞっ。
とは言えないなあ。
「とりあえず、舘の者には言ってありますので、アンドレア産のワインとアイアンリンドのハムソーセージを楽しんでいってくださいね」
「あ、ありがとうございます」
「アンドレア産とは贅沢ですね。で、蒼穹の覇者号はカタパルトを使うのですよね」
うん、駄目だ、学者どもは。
カタパルトに取り憑かれている。
まあ良いや、魔法塔に恩を売っておくと何かと融通してくれるしな。
ジョンおじさんが派閥員なんだから、魔法塔も丸っと派閥のうちか。
どやどやと、カーチス兄ちゃんとリチャードお兄さんが戻ってきた。
「いやあ、素晴らしい邸宅ですね。村ものんびりしていて良い所みたいだ」
「お兄さんも派閥員のうちですから、今度ここへ湯治に来て下さいよ」
「あ、そうか、派閥は家で入るから、僕も聖女派閥なのか、ああ、なんだか新鮮だね」
そう言ってリチャードお兄さんはにっこりと笑った。
「さて、出発するわよ」
「「「はーい」」」
基地をうろうろしていた派閥員がタラップを上がって乗船していく。
「ジョンを大切にしてねって、クヌートおじちゃんに伝えてください」
「ペスもね」
「伝えておきますよ。犬たちを可愛がってくれてありがとうね。また来ますから」
「はい」
「はい」
「私がまた明日、孤児たち連れてくるからさ、待ってろ」
「うん、待ってるよアダちゃんっ」
「また釣りに行こうよっ」
王子と王女が、ずっと欲しかったのは、こういう子供らしい生活だったんだろうなあ。
いつまで居られるか解らないんだけど、ここに居る間は楽しく子供らしく暮らして欲しいね。
私は王子と王女に手を振ってタラップを上がった。
さあて、黄金週間も終わりだ。
王都に向かいますか。
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