第9話 寮には愉快な仲間がいたんだぜ
ううう、聖女派閥だとう。
カーチス兄ちゃんは、最初から狙っていたなあ。
魔法が見たい、というのは、私の人柄を探る口実だったんだなあ。
んで、人品を見て、気に入ったから、派閥を作ろうと私に持ちかけたのか。
うぐぐ。
派閥なんかウザいのでいらん、と断ってもいいんだけど、そうすると、私はともかくカロルの命が危ないし、新派閥で牽制するって手法は、定石で王道なわけなんだな。
困難は群れで受け止めろと、けもフレのアライさんも言っていた。
あと、どうもカーチス兄ちゃんは、カロルの方を守りたいのが本心、のような気がする。
古い知り合いっぽいしね。
お馬鹿で頭の軽い聖女候補を旗印にして、大事な人を守りたいのだろうなあ。
カーチス兄ちゃんは悪いお方やで。
まあ、カロルを守るためなら、私としても否も応もないけどね。
でも、派閥かあ。
困った困った。
こんにちわマコトです。
上級食堂のランチを、食べ終わったので、また、講堂へ行って、入寮式です。
っても、寮生活の決まりとかを教えてくれるだけだな。
あとは部屋割りの紙を貰って解散であります。
簡単簡単。
「そいじゃ、俺らはこっちだ、また明日な」
「また……、明日」
「ごちそうさまね、カーチス、またねエルマー」
「ごきげんよう」
男子寮の前で、カーチスとエルマーとお別れである。
カロルと二人で、女子寮に入る。
「じゃあ、私はこっちだから、また明日、ごきげんよう、マコト」
「ん、また明日ねー、カロル」
カロルとは階が違うので、階段でお別れだ。
女子寮の一階は、多目的ホールと寮食堂、二階から四階が下級貴族の寮、五階から七階が上級貴族の寮となっている。
上級貴族のお部屋はそれはそれは豪華で、高級ホテルのスイートがごときらしい。
シャワー、浴室、ミニキッチン付き、応接室完備、寝室は二つとか、いやいや、お部屋代がお高そうでありますな。
カロルの部屋は少し特殊で、特別室があって錬金釜が据え付けられている。
生徒に錬金術師の家系の者がいると、医務室への薬品の供給がはかどるので、特別な部屋へ入れて貰えるそうなのだ。
ほら、学生はすぐ怪我するからさ、ポーションとか完備しておかないとPTAがうるさいらしいよ。
んで、私ら、下級貴族のお部屋はというと。
四人部屋、書机付き、あと、物入れ(チェスト)という感じ。
あれだ、コミケに行くときに取る、国際展示場近くの二人部屋のビジネスホテル、あれを二段ベッドにしたような四人部屋でありますよ。
205号室、ここかあ。
ドアを開けて、中に入る。
「こんにちわ、マコト・キンボールと言います、仲良くしてくださいね」
「「「……」」」
ありゃ、感じ悪いな。
無視かい。
一人、書机でなんだか書き物をしている子がいる。
あとの二人は、ベッドの中の模様。
「マルゴット、伯爵令嬢ヘザー・ウィルキンソン様のメイドよ」
ベッドの中の人が、カーテンも開けないで返事をした。
メイドさんかあ。
公爵、侯爵さんあたりのメイドさんは控えの部屋があって、そこで生活するのだけど、伯爵家とかのメイドは下級貴族の部屋に押し込められるんだなあ。
ちなみに男爵家クラスだとメイドさんはいない。
下級貴族は、子供につけるメイドさんの賃金と、部屋代までは出せないのだ。
「よろしく、マルゴットさん」
「あんたの下のベッドの娘は、子爵令嬢メリッサ・アンドレア様のメイドで、カリーナというの」
「ちょっと、マルゴットッ、勝手に紹介しないでちょうだいっ、私はこんな貴族のなり損ないみたいな変な女は認めてないんだからねっ」
「彼女は、気が荒いので注意ねー」
「ありがと。カリーナさんもよろしくね」
「ふんっ」
しかし、メイド率高い部屋だなあ。
「うるさいっ、うるさいっ、うるさーいっ!! 勉強してるんだから静かにしなさいよっ!!」
「え、入学式の日から勉強してるの?」
「そうよ、効率的な学習には予習が欠かせないのっ!! 静かにしなさいっ!」
灰色髪の少女がこちらを向いた。
お、おお、有名モブのぐるぐるメガネちゃんっ!
同室とは嬉しいな。
「男爵令嬢のコリンナ・ケーベロス嬢よ、入学試験の順位が低くてB組にしか入れなくてカリカリしてるらしいわ」
マルゴットさんが上段のベッドのカーテンから顔をだしてそう言った。
意外にお姉さんだな。二十代ぐらいか。
泣きぼくろが色っぽい感じ。噂好きっぽい空気があるね。
「夕食までに、明日の予習をまとめなきゃならないのよっ、静かにしててっ」
「だ、そうよ、金玉令嬢さん」
「金玉いうなっ」
「失礼、金的令嬢さま」
「その二つ名もやめろい」
「うふふ、ごめんなさいね、マコト・キンボール様」
ちろりと舌をだして、マルゴットさんがウインクをした。
にゃろー、貴様、お茶目系メイドだなあ。
とりあえず、荷物をチェストに入れてと。
「私の机はどれかな?」
「メイドに机はいらないから、どれでも好きに使っていいわよ」
「ありがとう、マルゴットさん」
とりあえず、コリンナちゃんの隣の机を使おう。
コリンナちゃんは、教科書を見ながら、必死に羊皮紙に書き物をしている。
頑張ってるなあ。
下級貴族は学園の成績次第で将来が決まるから必死なのよね。
さて、お茶でも淹れるかな。
給湯は廊下かな。
ケトルを持って、廊下の端に行くと、水道と、魔導コンロがあった。
お水をくんで、コンロにかける。
お湯が沸くまで、のんびりと窓の向こうや、入寮でパタパタとした二階の模様をみて過ごす。
沢山の荷物を持ってきて、どうしよう~と泣きべそをかいてる子や、和やかにお互いの自己紹介をする子たち。
いいなあ、みんな可愛いなあ。
お湯が沸いたので、ケトルをもって、205号室へ。
「お茶飲もうよ、みんな」
「あら、メイドに、ご令嬢がお茶を入れてくださるの?」
「こちとら、貴族のなり損ないなんでね。ほら、カリーナさんも出てきなさいよ」
「むう、あんたは、あたいが思っていた令嬢のなり損ないじゃないな」
「元パン屋の娘が立派な令嬢な訳ないでしょうが、クッキーもあるよ」
カリーナさんが照れくさそうに出てきた。
ポットを出して、お茶っ葉を入れ、手早くお茶を入れる。
チェストから、クッキーを人数分だしてお皿に並べる。
「お、ひよこ堂のクッキー、良く買えたね、あそこはすげえ混んでるのに」
「私は、あそこの娘だよ」
「あ、なるほどー、美味い」
「お茶もおいしいわ、メイドさん顔負けよ」
「コリンナちゃんも、お茶にしようよ、糖分取らないと、頭が働かないよ」
コリンナちゃんは、こちらにギロリと振り向いた。
「糖分、取らないと、だめなの?」
「そうだよ、お昼前に、頭がよく働かない時があるでしょ、あれって脳に糖分がたりないからなのよ」
「だ、だったら飲むわ。ありがたく」
同室の四人で、和やかにお茶をする。
コリンナちゃんがリスのように小さな口でカリカリとクッキーを食べていて、くっそ萌える。
「ひよこ堂といえば、あそこの娘は光魔法が出て、神殿にもらわれていったのよね」
「それは私だ」
「……あんた、聖女様になるんじゃあないの?」
「聖女候補生になったんだよ、で、三年間礼儀見習いで男爵家でお勉強、さらに三年間、魔法学園で青春を謳歌してから、聖女にしてくれるそうだよ」
「へえ、神殿の秘蔵っ子なんだねえ、それが、金的……」
「金的の話はやめてっ」
「腐った令嬢じゃあなかったんだ、ちょっとほっとしたわさ」
「なんだと思っていたんだよう」
「こう、お高くとまってさ、メイドに話しかける言葉なんかございませんわ、おほほほほ、みたいなー」
「人間、そう簡単に、変わらないって事よ」
「あはは、ちがいないねえ」
お茶が終わると、メイドさんたちはベッドにまた引っ込んだ。
夕方、お嬢様方が呼ぶまで、大事な休憩時間らしい。
コリンナちゃんは、また、机に張り付いた。
頑張り屋さんだなあ。
晩ご飯までまだ時間があるから、カロルの部屋まで行ってくるかな。
寮の階段をどんどん上がっていく。
ちなみに、寮の東側に魔導エレベーターもあるんだけど、上位貴族以外、門番が乗せてくれないんだ。
くそう、資本階級打倒! 立て万国の労働者、と心の中で赤旗を振りながら、階段を上がっていく。
上級貴族階の一番下、西の端に、カロルのお部屋はある。
眼帯メイドさんのアンヌさんが、チェストを持ち上げて部屋に運び込んでいた。
ふおう、試験管、フラスコ、ビーカー、いろんな化学実験機器が置いてあるなあ。
「あら、マコト、どうしたの」
「暇になったから遊びにきたよ、なにか手伝う?」
「ありがとう、もう、終わるから、お気持ちだけいただくわ、入って入って」
アンヌさんが、私に黙礼してくれる。
彼女はゲームでも無口だったなあ。
おお、ゲームの背景そのまんまだー。
錬金釜もおいてあるなあ。
なんだか不思議な薬品の匂いがする。
わあ、カロルの部屋だなあ。
カロルとアンヌさんの邪魔にならないように、ソファーにちんまり座る。
お、手早くアンヌさんがお茶を入れてくれた。
ありがとうありがとう。
さっきお茶は飲んだけどね。
あ、ハーブティーだ、良い匂い。
あー、落ち着く。
実家のような雰囲気だ。
すやあ。