5 斧戦士の贋物と悪事の阻止
「じゃあ隠し通路から行くか」
「そうね、30階層もの罠を抜けていくのはさすがにたるいもんね」
「隠し通路? そんなものがあるのか? いや君たちを疑っている訳ではないのだが……」
「まあそう思うよな」
舟長はオーブの番人の困惑を正しく受け取った。
そういえば、彼は正規ルートで最深部に行き、直接オーブがないことを確認したのだろうか。
クロマティック解放団が持っているという情報も、ただの一般人が得られるものではない。
番人というと宝物の前座ゆえ弱い印象があるが、この人の良いオーブの番人は素晴らしい能力を持っているかもしれないのだ。
スカイアドベンチャーは彼の評価を改めた。
「あんた、どうやってミスティックオーブがないってことを知ったんだ?」
「最深部の祭壇まで行ったのだよ。ここらは子どものころからの遊び場でね、ここのダンジョンだけなら10分以内に攻略できる自信があるよ」
「あの罠を10分以内!?」
「わしらは全部のお宝を奪うために全部の罠に引っかかったから、遅くなったけど……」
「すべての罠にかかった? それは大変なことだな。お宝も奪われてしまったのか。新しく設置しなおさないと」
「怒らないんだな。オレたちがミスティックオーブを奪っていった犯人だというのに」
「お宝は奪われるために在るといっても過言ではないからね。オーブだってそうさ。一番いいのは、わたしがオーブを取り返せることなんだが、それはできなかった。代わりに君たちがオーブを元通りにしてくれるというのだから、願ったり叶ったりだよ」
「あんた、いい人だな」
「そんなことを言われたのは初めてだ。ありがとう」
通路を渡り終え、とうとう木の扉の前にたどり着いた一行。
例の扉が内側からしか開かない可能性も考えて、予備の扉を持ってきていたが、スカイアドベンチャーの予想に反して、木のドアはすっと開いた。
なお、予備の扉は、木の扉をぶっ壊したあと取りつける用である。
壊す人はもちろん、この人。
「壊す手間が省けてよかった」
斧戦士はそう言いながら、めったに見られない笑顔でオーブを取り出した。
むろん、オーブは相変わらず目に悪い感じで輝いている。
サングラス片手にオーブを持って舟長に近づく斧戦士。
「とったのは舟長だから、戻すのも舟長ね」
「なんだその理屈は……まあいいけどよ」
舟長は快諾してミスティックオーブを受け取った。
捧げるようにやや丁寧に持ち上げると、トラップが何もなかった祭壇に近づいて、そっと安置した。
すると、まばゆいひかりは収まり、中でキラキラ光るだけになった。
「きれいねー」
「本物は番人に反応するんだな」
「さすが本物は違うなー」
「……」
斧戦士が偽物のオーブを取り出すが、当然、これは光らない。
オーブの番人が興味深そうに、偽物のオーブを眺める。
「これは……こういう風に普通の人には見えているのかい」
「番人さんはまぶしい状態のしか見たことないのね」
「道理で、光り輝く珠と黒い珠と、二つの情報があった訳だ」
魔法使いが感心して頷いた。
斧戦士は悔しそうに偽物のオーブをつついている。
「特定の人に対応して光るってのを取り入れたら、きっと本物により近づくよ」
「ややこしくなるからやめろ!」
舟長のツッコミが入って、とっぴんぱらりのぷう。
「そういえばクロマティック団どうする?」
「クロマティック解放団な。勝手に略してやるな」
「偽物を本物と思っている可哀想な人として放置するか、お見舞いしてくれたビームに見合う反撃を用意するか……」
「オレは放置でもいいぜ。どうでもいいからな」
「反撃……やたらめったら攻撃できるってことか。素敵だな」
「ボクは当然反撃したいね、むかつくし」
「ティンクルビームで応戦したるわ」
「やれやれ、うちは血の気が多い冒険者だな」
たしなめるように言った舟長だったが、その瞳の奥には好戦的な色が見える。
舟長もこのまま無視していくつもりはないようだ。
初めは反対していた穏健派の剣士も、こう決まってしまえばもう何も言わない。
自分の役割――魔法使いや斧戦士を物理攻撃や魔法攻撃から守ることだ――が分かっているのだろう。
巨大な盾の手入れを始めた。
ぶんぶん斧と杖を振り回してやる気を表現するメインアタッカーを、アサシンが慌てて諫めている。
オーブの番人はそれをほほえましく見守っていた。
しばらくして。
最近自己主張が激しかった組織、クロマティック解放団が壊滅したとの知らせが上がった。
やったのは当然、スカイアドベンチャー。それとオーブの番人も一緒だ。
各地点に存在する支部を叩き潰し、本拠地にもぐりこんだ五人は、最深部で幹部の男と再会した。
ミスティックオーブを見つけた功績が評価されたのだろうか、彼はトップの一人に出世していたのだ。
重要資料や機械と格闘して熱中している元幹部をやっつけるのは簡単だった。
しかし、スカイアドベンチャーは敢えて真正面から戦いを挑んだ。
まずビームを使えないように両手を切り落とし、それから逃げられないように足もそうする。
ついでに偽物のオーブを番人が破壊すると、あとはなし崩しであった。
どの辺が真正面なのかは聞いてはいけない。
最期までミスティックオーブを本物と信じ、この世を去った元幹部。
その死に際だけは幸せだったのかもしれない……。
クロマティック解放団を出て、オーブの番人と別れるスカイアドベンチャー。
次の冒険を求めて、五人は飛行船に乗り込む。
そんな彼らの脳裏にはもう、クロマティック解放団もマイナー宗教組織も残っていなかった。