4 本物の光と強制イベント
「はあ……、どっちもろくでもない組織だった」
「うん。ドンマイ」
「魔法使いさんが舟長をねぎらうとは珍しい」
隠れ聖堂をあとにしたスカイアドベンチャーは、さっき戦闘があったなんて微塵も感じさせない雰囲気で、街道を歩いていた。
斧戦士もどう立ち回ったのか知らないが、まさかの返り血なしである。
鎧にガードでもかけてあるのかと疑いたくなるほどだ。
撥水加工(血液)である。
「さて、ミスティックオーブどうする?」
「力が得られるとか言ってたが……まったく感じんな」
「みんな気が大きくなるからそう感じるだけで、やっぱ気のせいだよ」
「斧戦士は……いつもより穏やかになってる気がするぞ」
「失敬な。いつもと変わりませんよ」
「まさか、これも偽物だったり……しないよな?」
「そういう疑心暗鬼は身を滅ぼすよ、舟長」
味方を疑い出す舟長。
すぐにアサシンがたしなめる。
これが原因で斧戦士を疑ったら、まず間違いなく舟長は切り裂かれる。
そうなったら蘇生しなくてはならない。
SPの無駄だ、説得してでもやめさせた方がいい。
「とりあえず、もとあったとこに戻してみるか」
「ボクたちにミスティックオーブは必要ないものね」
「あれ、いつもみたいに売って金儲けするーって言わないんだね」
「こんな効果も分からんヤツ売れるか!」
ミスティックオーブを道具袋にしまい、魔法使いに突っ込む舟長。
効果は不明だが、気分が高揚する気がする、なんて胡散臭いにもほどがある。
世の中のきな臭い商売でももっとましな煽り文句をつけるだろう、と舟長は思った。
ふうん、と気のない返事をする魔法使いに舟長はどっと疲れを感じる。
「なんとなく疲れる、も効能に追加だな」
「ますます売れないじゃん……」
魔法使いにまで突っ込まれてしまってはおしまいだ。
舟長は薄く笑うと、できるだけオーブについて考えないようにした。
遺跡の前まで戻ってくると、コートを着た謎の人物が周りをウロチョロしていた。
また、ミスティックオーブを狙う怪しい組織かと思ったスカイアドベンチャーは、彼を回避するようにして遺跡に入ろうとした。
しかし、何故か、彼はスカイアドベンチャーの前に現れた。
しかも退いてくれない。
「もしかして:強制イベント?」
「いかりまんじゅうですね、分かります」
「懐かしいネタを……」
「とりあえず、話しかけてみよう」
斧戦士が彼に声をかけると、彼は冒険者か、とつぶやいてこう言ってきた。
「ミスティックオーブを探しに来たのか? 残念だが、もうここにはないぞ」
「え? あ、うん。そうね」
「今はクロマティック解放団が所有しているらしい。どうしても欲しいなら、そこに行くしかないぞ」
「ええ、そんなことになってるんだ」
とんちんかんの問答である。
魔法使いがおおげさに驚いている。
「あなたはここで何をしているんだ?」
斧戦士が再び尋ねる。
すると、コートの人物は苦悩した表情を浮かべて言ったのだ。
「わたしはオーブの番人。失われたミスティックオーブを探す使命がある。しかし、クロマティック解放団の力は膨大で、わたし一人ではたどり着けなかった」
「……えっ、人間じゃないの?」
「人間だ。ただし、オーブの力を感じ取れる能力を持つ。クロマティック解放団ではあまりにも組織が強大すぎて探ることもできなかったが、何故か君たちからは波動を感じる気がする。頼む、共にクロマティック解放団を倒してくれないか」
「あー、なんかめっちゃ悪いことしてる気分だわ」
「やはりそう簡単には頷いてもらえないか……。ではわたしの持つレア素材と交換というどうだろうか」
「えっ素材? 欲しい、欲しい」
舟長が私欲に任せて頷きかけた、そのときだ。
斧戦士が本物のミスティックオーブを出しながら言った。
ミスティックオーブは見たこともないぐらいキラキラと輝いていた。
「本物はここにある。今からもとあった場所に戻そうと思っていたんだ」
「それは、ミスティックオーブ! ではクロマティック解放団のものは……、偽物ということか? 君たちはいったい何者なんだ?」
「オレたちはスカイアドベンチャー」
「五人の冒険者が集うパーティーだよ」
「クロマティック解放団の依頼を受けて、偽物を渡したんだ」
「小さな宗教団体の依頼も受けて、そっちも偽物を渡したんだぜ」
「クロマティック解放団には恨みもある。打倒が目的なら力を貸すこともやぶさかではないな」
オーブの番人はすべてを理解したような顔で、斧戦士に握手を求めた。
「助かった。本当にありがとう。君たちがすべてを解決してくれたんだね」
「え? それはちょっと違うけど……。あと舟長はあっち」
「うちのリーダーはこれです」
「これ言うな! どーせリーダーっぽくねーし……」
「ふて腐れないの!」
「助かった! ミスティックオーブは正しく使わないと、老化現象が起きたり、逆に若返ったり、不思議なことが起こるんだ。君たちは大丈夫かい?」
「おれは何ともないな」
「もしかして疲れてたのってこれのせいか?」
腑に落ちた舟長。
恐る恐るオーブを見る。
オーブは相変わらず眩しく光っている。
「すまない、いつもわたしが近づくとこうなんだ。オーブの番人でも悪用ができないように古の人が呪いをかけたのだと言う。少し離れた方がいいかい?」
「大丈夫だ、サングラスをかければ問題ない」
一番眩しい斧戦士がサングラスを取り出してかけた。
サングラスは状態異常の盲目を完全にふせぐアクセサリーだ。
完全物理アタッカーである斧戦士には必需品と言えよう。
でも、彼は即死以外の全状態異常無効のホワイトカードを装備しているから、実は要らないぞ。
必要ないけど、なんだか似合っているので言い出せない。
どこぞのドンみたいだ。
「とりあえず、道具袋にしまっておいたら?」
斧戦士はまぶしくなくても、周りの仲間は普通にまぶしいので、魔法使いがそう提案する。
魔法使いの言だからだろうか、斧戦士は素直に従って、サングラスと共にミスティックオーブを共有道具袋に入れた。
まばゆいひかりは消え去った。