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3 茨の道と斧戦士の贋物

 

 荘厳なオルガンの音が響く大聖堂。

 朝日に照らされる十字架。きらめくステンドグラス。

 長いまつげを垂らして憂いの残る表情でひざまずくシスター。

 そのそばで、経典と呼ばれる厚い書物を持った少年が、とある冒険者たちを待っていた。


「迷える子羊たちよ……どうかわが手に……」

「欲しいのはこれかい?」


 舟長が現れて、ミスティックオーブを無造作に撫でた。

 ハッとする少年。無表情で、スカイアドベンチャーに近づく。


「これが……?」

「これが遺跡で眠っていたミスティックオーブだぜ」

「いただいてもよろしいのですか? ミスティックオーブは、持つ者に力を与える神秘の宝。冒険者のあなたがたなら感じるのでは?」

「そうだったのか……。でも、一番最初に約束しちまったしな。これはあんたにやるよ」

「ほんとうに……ありがたい方々です。ほんとうに……」


 少年は恭しくミスティックオーブを受け取る。

 そして何を思ったか、壁についていたボタンをポチっと押す。

 案の定、護衛がごしゃごしゃ現れた。

 不敵な笑みを浮かべた少年は言う。


「ほんとうに愚かでおめでたい方です。ミスティックオーブが手に入ったからには、あなたがたは用済み! 我が親衛隊よ、この冒険者たちを始末せよ!」

「出た、本性!」

「出た言うな! まずはこいつらを片付けるぞ!」


 はしゃぐ魔法使いを叱咤して、舟長は近くにいた兵士に斬りかかる。

 アサシンはもう既に、五人を気絶の海に叩き落していた。

 斧戦士も負けてはいない。

 斧を左右に振り回して、まったく穏便でない方式で辺り一面を血の海に変える。


 一方、攻撃手段の少ない剣士は、かたくなに魔法使いの前から離れない。

 物理攻撃にとことん弱い魔法使いを守っているのだ。

 そして魔法使いが、麻痺の全体攻撃、バインドシールを唱えると、敵はいっきに少なくなった。


 敗戦が濃厚になったのを感じたのか、笑っていた少年は身をひるがえして逃げようとする。

 それを許す舟長ではなかった。

 ちょっと八つ当たり気味に強奪を振るう。

 少年の手にあった経典を盗み出すことに成功した。


 突然手の中の重たい本が消失し、少年はバランスを崩してこける。

 すべての敵を麻痺にした魔法使いが少年を覗き込んで言う。


「ウチの煽り文句は、おつかいから戦闘依頼まで、だよ。ちゃんと読んどかないとね」

「骨のないヤツばっかりで、斧戦士さんちょっとがっかり」

「しょうがないじゃん、マイナー宗教なんてそんなもんだよ。いい人材はもっと大手のとこがとってっちゃうんだからさ」

「可哀想に、大人をなめたツケだぜ」


 剣士がヒールを施してやる。

 少年は五人に囲まれて、逃げたくても逃げられない状況だった。

 冷静に見れば、いじめの犯行現場である。


「ミスティックオーブなんて求めなければよかった、って後悔してる?」

「いや、してないだろこの面は。ミスティックオーブを手放しもしないし」

「残念だが、そのミスティックオーブは偽物なんだ」

「う、嘘だ、確かに力の増幅を感じたのに……!」

「それは気のせいというものだよ」


 魔法使いの冷酷無比な独り言に、少年はすっかりやられてしまったらしい。

 呆然と口を開けると、黙り込んでしまった。目は虚ろだ。

 そんな少年になにかを感じたのか、斧戦士が少年に耳打ちする。

 少年の目に光が戻った。


「じゃあそろそろずらかろうか」

「完全に悪党のセリフである」

「唐突な説明口調はやめろ」

「ふふふ、いつもの調子が戻ってきたね、舟長」

「八つ当たりでストレス発散するのは、ホントはよくないんだぞー」

「うるせえ、分かっとるわ!」


 にぎやかに帰っていく五人を見送る少年。

 荘厳な聖堂は血で汚れ、味方のほとんどは麻痺の苦しみにうめいている。

 だが頭の中は、斧戦士の言葉でいっぱいだった。


 それは偽物だが、おまえも騙されたほどの価値がある。

 それをどう使うかはおまえに委ねられているんだ。

 ――騙してもいいぞ、一生な。


 騙してもいい、それは一枚岩でやってきたすべての同胞に秘密を抱えること。

 しかし、少年は既に決めていた。

 どんなにつらいことがあろうと、この組織で一生を終えるのだと。

 そしていつか……聖シマ―リーフ教と並び立つ主宗教になるのだと。

 少年はその日、贋物を手に覚悟を決めた。


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